7:まだ寝てろ
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不定期更新です。
今回はウィル回。
7:まだ寝てろ
ウィルは、身体強化を使って森までかける。本当は、馬車でも借りて、拾った青年を連れてこようかと思ったのだが、魔獣がいる森の中に捨てられていたのだ。何か理由があるはずで、連れ帰るわけにはいかないだろう。
身体強化を使ってはいるが、一日に往復は結構疲れる。
夕方も遅く、何とか森の狩人小屋についた時には、少々息が切れていた。
これくらいのことはいつものことだ、とは思うが、また翌日も王都まで行かなければならないのだ。
今は少しでも休みたい。
小屋の窓からも明かりは漏れていなかった。
真っ暗なようだ。
「まさか、いなくなったんじゃないだろうな」
いくらツノウサギとは言え、あの大きさに踏みつけられたら、一般人は骨折では済まないほどだ。
だが、拾った彼は、全身打撲はあるし、ところどころ骨折はしているが、それほどでもなかった。
回復薬を飲んだら、完全回復していてもおかしくない。
小屋の扉に手をかけ、開ける。
入り口すぐのところにあるランプに手を伸ばし、つけた。
薄明るくなった小屋の中。
寝台からまだ寝ているのか、寝息が聞こえた。
「ねてたのか・・・」
水差しなどが床を転がっている。寝台のシーツはぬれているので、起き上がれず、水を飲んだのだろう。
きっとまだ回復できていないのだろう。
水差しに水を補充し、サイドテーブルに置く。生活魔法のクリーンで、シーツを乾かし、床の汚れも落とす。
「俺も寝るか」
毛布にくるまり、いすを並べて寝転ぶ。
外とは違って、屋根があるところで寝られるだけでもいいのだ。
しかも、この狩人小屋は、魔獣にあらされないように、結界魔法の魔道具が設置されている。
月に一度、誰かが魔力を魔道具に補充に来るだけで、安全な空間なのだ。
昔、勇者パーティーが、魔王と戦うために旅した時の拠点の一つだという話がある。ただし、どこの森の小屋にもその話があるので、眉唾物だとウィルは思っている。
本来なら、深く眠って、短時間睡眠をとる。
冒険者はたいていそんな感じだ。
仲間がいれば、外では交代で見張りもするが、一人の時はいつもこんな感じだ。
目を覚ました時は、まだ夜が明けきらない時だった。
やはり屋根のある場所で寝られるというのが、安心感を生んだのだろう。思ったよりも寝ていたようだ。
それに、身体強化でつかれていたというのもある。
固まった体を伸ばすと、寝台の青年が首をこちらに向けているのが見えた。
「起きたのか」
「あの・・・ありがとう。ここは・・・」
「ここは、あんたが捨てられていた森にある、狩人小屋だよ。あんた、喧嘩でもしておいていかれたのか?」
「いや・・・」
「答えたくなければいいよ。だがまだ寝てろ。治ってないんだろ」
回復薬を持っていく。
青年が嫌そうな顔をしたが、無理やり飲ませた。
ものすごい表情で飲み切る青年を前に、ウィルは少し笑ってしまった。
「まずいのは我慢してもらうしかないからな。それよりあんた、名前は?」
「わ・・・オレ・・・はルード・・・」
どうやら言いたくないようだ。
ウィルはため息をつく。
「あー、じゃあ、ルード?今日も寝てろよ。俺は、用事があるからな。そうそう。俺はウィル。冒険者だ」
「・・・ありがとう」
まだ動けそうにないルードを見ると、荷物から食料を取り出す。
「もし食べられそうになったら食っとけよ。体力大事だからな。あとこれな」
買ってきた初心者用の防具。
起きられれば着ることもできるだろう。自分が出かけている間にいなくなっているかもしれないが、それは仕方ないと思うことにし、ルードを置いて外に出る。
目指すは再び王都。
夕方にはできるはずの武器の整備と、キャリーの情報だ。
何もわからなくても仕方ないけどな。
ウィルは独り言ちて、走り出した。