6:いまだになにもわからない
お読みいただきありがとうございます。今回は、王子回。
不定期連載のため、急に更新されます。もうしわけありません。
6:いまだに何もわからない。
ルードヴィヒがが目を覚ました時は、夕方も遅くだった。
やはり誰もおらず、小屋の中は暗い。
きいているはずの回復薬は、それでも動けるほどではないようで、体が痛さで悲鳴を上げている。
のどの渇きを覚え、かろうじて動く手をさまよわせる。
寝台の横のサイドテーブルに、水差しがあったのは救いだろう。寝ながらでしか飲むことができないので、口を開け、こぼすように傾ける。
口いっぱいに入った水にすぐにむせたが、それでものどを潤すことはできた。
なぜ自分がこんな場所にいるのかはわからない。ここに置いたのが、だれなのかも、どうして今いないのかもわからない。
だが、回復薬でも完全に回復していないのも、それほど重症だったのだろうということだけはわかった。
自分は何を間違えたのだろう。
それだけが、ずっと思考にこびりついている。
母亡きあとは、乳母だけが面倒を見てくれたが、辺境に行くにあたり乳母も連れていけなかった。
辺境では、幼い自分に誰も優しさなどなく、どうにか生きていかなければならなかった。いっそ魔獣に食い殺されたほうが楽なのじゃないかと、何度も思ってしまったほどだ。
だが、生存本能が勝ったのだろう。
けがを負いながら魔獣を倒し、その魔獣を食しながらも、今まで生き延びた。
学園に入って知ったのは、自分が過ごしてきた世界とは全く違う、きらびやかで穏やかな日々だった。
家庭教師が付いたこともない、読み書きがかろうじてできるレベルの自分でも、何とか日々を過ごし、急に与えられた政務や、学園での生徒会活動も、体力だけはあったので、寝ずにやったこともある。
下手な字で書いた手紙や、学園のカフェだけでなく、誘わないといけない茶会なども、婚約者のために催したが、それはただの無駄だったようだ。
それでも、魔獣の脅威におびえることなく、朝晩の食事もとれる日々は大切だった。
いつ婚約者は、異母弟と仲良くなったのだろう。
いつか、何かの拍子に王都に戻れた時、誰かに聞いてみたい。だがその疑問に答えられるものはいないのだろう。異母弟にも、婚約者がいたはずだが、そちらはどうしたというのだろうか。
その疑問も答えるものはいないだろう。
友と呼べるものもいなかったように思う。
異母弟は周りにいつも誰かを連れていたから、きっと人当たりがよかったのだ。見た目でも傷だらけの自分では、だれも近寄ってこなかったのだろう。
動けないまま、ここで朽ちるのだろうか。
思考はグルグル回るだけで、何も解決はしない。
再び重くなってきた瞼のまま、ルードヴィッヒは眠りについた。