2:生態系調査人
お読みいただきありがとうございます。
不定期連載の二話目です。
題名にある調査人、やっと出てきました。
2:生態系調査人
サクサクサク
ほんのりと朝露で湿っている落ち葉が、歩くたびになる。
ガーネット国王の王都から、歩いて半日ほどの森の中だ。
この辺りは、強い魔獣がいるわけではないが、警戒を怠ってはならない。
弱いといっても魔獣だ。 どこから襲ってくるかわからない。
ウィルは、冒険者であり、生態系調査人だ。
魔獣だけでなく、生えている植物、動物も調査対象であり、ある程度ランクが上がった冒険者が、暇つぶしに行うものでもある。
ウィルも、ランクAに上がったと同時に、生態系調査人の認定試験を受け、今に至る。
生態系調査人は、その情報を、各王国や冒険者ギルドに渡し、新人冒険者や、危ないところに一般人が行かないようにと気をつけてもらうように手配するのが仕事だ。
報酬も出るが、ほとんどがボランティアだ。
ランク上位者でないと、強力な魔獣に遭遇したときの対処ができない。危険な遺跡やダンジョンなどは、低ランク冒険者の出入りを禁じられている。
そのために、余裕のある上位ランクの冒険者が認定試験を受け、活動しているのだ。
ウィルが、王都に近い森にいるのは、単に、依頼の帰り道だったというだけだった。
この森は、中ランク低ランクの冒険者が、依頼を受けに来る場所であり、新人冒険者の試験が行われる、比較的安全な場所だ。
警戒は怠らないとしても、散歩としてもいいような場所だった。
「そろそろ帰るか」
夕方も近く、森も薄暗くなってきた。
早めに出ないと、町に行くにも王都に入るにも、無理な時間になってしまう。
夜はまた少し魔獣の分布も変わるのだ。
ガラガラガラガラ
ヒヒーン
少し遠くで、森では聞きなれない音と、馬の声。
「なんだ?」
嫌な予感がする。
かかわるなという頭の隅での警告。
だが何があったか把握しておくのも、冒険者たるものの務めだ。
ウィルは警戒しながらも、近づいていく。
あと少しで、森の中でも道ができているところだという時に、音の正体が見えた。
馬車だ。
紋章入りではないにしては、結構高級そうな馬車を、ものすごい勢いで馬がひいて去っていく。
その後ろには五匹ほどの魔獣の群れ。
ツノウサギ。
この森の浅いところに多く生息する魔獣で、新人冒険者の試験の時で、一番苦労する相手でもある。
一羽一羽は弱くても、人間の子供ほどの大きさの体躯と、一本ツノでの頭突きで、群れで襲ってくるからだ。
だが本来は、気が弱く、彼らの巣穴に何かしなければ、安全な草食の魔獣だ。
「何したんだ、あの馬車」
いいながらも、閃光球を取り出す。
狙いをつけ、馬車とウサギの間に投げつけた。
カッ
目もくらむまぶしい光で周囲が包まれた。
おさまったころには、ツノウサギは気絶しており、馬車はそのまま去っていった。
「なんだよ、あの馬車。礼も言えないのかよ」
気絶したツノウサギをそのままに、巣があるであろうほうへ向かう。
巣穴の目の前には、何かが転がっていた。
「なんだ?」
馬車を追いかけていったツノウサギに踏みつけられていたのだろう、ぼろぼろのそれは、明らかに人間だった。
「おいおい・・・」
仲間を見捨てたのか?
どう見ても庶民の服装をしているが、冒険者の服装ではない。
この国ではよく見る、赤い髪をした青年だ。
「おい、大丈夫か」
あの重さのウサギに踏みつけられたのなら、もしかしたらこと切れているかもしれないとは思いつつ、ウィルは青年に近寄る。
「う・・・」
意識はないが生きているようだ。
「ああー・・・厄介ごとの予感がする」
大きなため息をつきながら、倒れていた青年を背負う。
一人なら王都や町まで行けるが、意識のないものを背負って、夜になる前に町につくのは無理だろう。
森のはずれの、狩人が使う小屋に一泊することに決め、歩き出した。
お読みいただきありがとうございました。
登場人物、どんな感じか書いてなかったですが、ルードヴィヒは、赤い髪の17歳の青年です。
ウィルは、茶髪の二十代前半の青年です。