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小骨は刺さるためにある

作者: 樹亜希

感じ悪い、いやミスに仕上げました

 今は亡き父が二十年ほど前に癌で入院していた時のことだ。

 北村冴子は、仕事をしているので見舞いに行けないという母から仕事場にされて困っていた。

 そう、まだ、携帯電話がこんなふうに普及していない時代のいささか、古めかしいお話である。

「あんたさ、私が忙しいんだから、親の入院を少しは手伝いなさいよ」

「悪いけれど、私も仕事しているし、結婚して名前も違うんだよね、あんたの旦那だよね。なんで私が行かなきゃならないの? 意味が分かんないんだけど」

「抗がん剤で毛が抜けただから、毛糸の帽子が欲しいんだってさ、どこかのスポーツ用品店で買えるよね」

 そういうと一方的に電話は切れた。

 そばで聞いていた栗山さんが、

「北村さんのお母さんは、なんか勘違いされているみたいだね。あの家族が嫌で出るために結婚したのに、これじゃあ、何のために結婚したのか、意味がない」

「無視したらいいじゃないですか」

 近藤さんがそういう。

「うちは父が脳梗塞で倒れた時も、全部母がやっていましたよ」

「ですよね、旦那の母が警察病院に先月まで入院していたのに。もういい加減限界だわ」

 正直言うと、自分の時間はどこにもなかった。バイトしている市役所の昼休みにはランチも取らずにスクーターで走って義理の母のところまで1か月通ったと思ったら、今度はこっちとか本当に呪いのようだ。

 

「あの、縁切り寺ってご存じ?」

 10人ほどいるバイトの中で一番古株でベテランの小倉さんが小さい声で言った。

 一瞬空気が凍り付く。それまでざわついていたバイトだけの作業場所が水を打ったようにしんとした。

「ええ、東山区の神社のことですね」

「安井金毘羅……、さん」

 またもや凍り付く。

「ねえ、それ。誰と縁を切るの?」

「一番若い私が言うのもなんですが、それは少し意味が違うような気がします」

 私は別にいいやと思って栗山さんと仕事の帰りにアルペンで毛糸の帽子を買った後で締まるギリギリ前に神社に滑り込んだ。

 石の真ん中を通過して紙に名前を書き上げた。

 本当にこれでいいのだろうか。



 数日して、父は病院で嫌いな煮魚の骨をのどに詰めて放置していたので、そこが化膿して晴れ上がり誤嚥性肺炎を起こして、がん以外の病気でこの世を去った。


 事務所に喪が明けて行ったときに、バイトメンバーは笑顔で迎えてくれた。

 私は自由を手に入れた。と、思いたい。

                  了

何度も読みたくはないですよね

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― 新着の感想 ―
[良い点] はじめまして。タケノコです。こんにちは! 本作品を拝読しました。 ブラックなユーモアにあふれていて、怖いけれど惹かれて、どうなるんだろうと最後まで楽しませてもらいました。 ブラックな…
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