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短編

見習い召喚術師とアンデッドな僕

作者: 龍崎 明

 王立召喚術師育成学校、召喚儀式の間。


 その部屋の床には、その面積のほとんどを使って描かれた幾何学模様の魔法陣が存在している。もちろん、これは部屋の名称の通り、召喚儀式のための魔法陣だ。


 この世界において、召喚術師というのは、かなりの地位を約束された職業である。


 軟弱な人の身で、ちっぽけな人の魔力で、竜をはじめとした魔物たちに挑むことができるだろうか?


 答えは、否である。


 この世界の人は、その矮躯に見合った肉体と魔力しか持たず、その力で勝てる程度の魔物を倒したとしても、レベルアップなどという都合の良い能力向上現象は存在しない。


 つまり、弱いのである。


 そこで、この世界の神は考えた。人が弱いのならば、強いヤツを相棒にすれば良い、と。

 善は急げと神託を下し、神はこことは別に管理している世界から強大な力を持つ存在を呼び出し、契約する力を人々に授けたのである。


 なお、便宜上、そのように召喚された存在を、召喚獣と呼ぶが、その召喚獣がこの世界において魔物と呼ばれる存在と酷似することは、強大な存在だから当たり前のことと割とあっさり受け入れられた。


 それはともかく、しかし、召喚獣とて意思ある存在。契約者との相性というものがある。そのために、全ての人類が契約できるわけではなかった。

 だからこそ、召喚できることが明確な特権階級の証となったし、素質があれば、平民であっても世界各地に存在する召喚術師育成学校に入学することができるわけである。


 では、話を戻そう。今、召喚儀式の間いるのは、平民出身の見習い召喚術師アネットだ。可愛らしいクリクリっとした目とスッとした鼻梁、ぷっくりと赤い口元に、露出のない青を基調とした制服に覆われてもわかるメリハリのあるスタイルは、美少女と言って差し支えないだろう。


「では、アネットさん魔力を込めてください」


 部屋の隅の控えていた教師の言葉に、アネットは真剣な面持ちで頷くと、召喚用魔法陣へと魔力を注いでゆく。


 やがて、魔法陣は注がれた魔力によって輝き出し、そこに記された世界の神秘への干渉行程を忠実に辿る。


 魔法陣の輝きが、最早、目を開けていられない最高潮の光度に達した時、異界との扉が開かれた。


 光の収まりを感じて、閉じていた瞼を開ける。アネットの眼前には、魔法陣の中央に立つ黒い衣服に身を包んだ黒髪紅眼の少年の姿があった。


「おや、人型ですか。珍しいですね」


 まず、反応したのは教師。ただ、それは本当に言葉通りの感想でしかない。召喚獣は、異界の強大な存在であり、それ故に自分たちと同じ人型で強大な力を持つ存在は少なく、故に人型は珍しかった。

 そして、その種類にも未だ決まりはなく、見ただけで当たりかハズレかを決めることは困難。世界が違えば、同じ種族であっても力の強弱が異なるとなれば、最早、召喚獣の種類を体系化することは半ば諦められていた。


「?」


 召喚された少年は、あたりを見回して首を傾げている。そして、遂に自分の召喚獣を召喚したことに感動してフリーズしていたアネットが動き出した。


「えっと、あの……」

「ふむ、これはどういう状況かな?お嬢さん」


 アネットの呼び掛けに、少年は問いを返した。そして、その問いに、教師は眉を顰める。

 召喚は神の協力の元になされ、それ故に召喚獣側も状況を了解しているはずであった。それだというのに、召喚獣であるはずの少年が、状況を問い掛けるというのはおかしな話だ。


「ふぇ?あと、その」


 もちろん、そのことを教えられたアネットもまた、少年の反応が学んだことと違って、あたふたしていた。


「うん?……あぁ、なるほど、ふむ」

「え、あの、どうしました、か?」

「あぁ、ちょっと待ってね。こっちを先に済ましておきたいから」

「は、はい?」


 だが、状況は少年が何もないはずの虚空を見ながら、独り言を呟くことで動いてゆく。


「なるほど、ね。うん、状況はわかったよ。つまり、君が僕のマスターということで良いのかな?」


 その言葉に、教師は神託が下ったのだろうと納得した。しかし、神をして後から対応せざるを得ない不具合があったように思えることについては、疑問を覚えたが、それもいつしか霧散していった。天上のことなど、人の身でわかるはずもないのだから。


「は、はい!あなたのマスターとなります。アネットです、よろしくお願いします!」

「うん、よろしくね。さて、契約内容だけど、僕は下種(レッサー)吸血鬼(ヴァンパイア)だから、一月に一度の血の提供をお願いしたいな。もちろん、致死量になるほど吸い尽くしたりはしないよ?」

「吸血鬼ですか!」


 少年の内容にて、アネットが反応したのは血の提供ではなく、吸血鬼であることだった。


 何せ、吸血鬼というのは、どの異界から召喚されていたとしても、当たりの部類に入る召喚獣だったからだ。

 少年のように完全な人型のモノもあれば、怪物らしい姿をしたモノもいるが、総じて、再生力が高く、魔力もまた膨大、肉弾戦、魔法戦ともに強力な存在だ。その代わりに、太陽光に当たると弱体化する、銀や炎が弱点などのデメリットはあるが、それをしてもかなり強大な存在であった。


下種(レッサー)だからね、下種(レッサー)。弱点もない代わりに、貴種(ノーブル)よりも弱いから、そこんとこよろしく」

「それでも、凄いですぅ!えとえと、あなたの名は、クロノです。私、アネットと契約してくれますか?」


 下種吸血鬼がどれほど弱いかについては、アネットは知らない。そのため、吸血鬼であることに純粋に喜んでいるし、弱点のないことの方をメリットとして捉えていた。

 教師にしても、吸血鬼である以上は充分な能力を持っていると判断している。下種と貴種という吸血鬼の区分は知らないが、この世界における低位の竜と同程度の力くらいはあるだろう、と。


 ただ、吸血鬼というのは、そもそもがアンデッドという理に反した存在であり、そうであるのに弱点がないというのは、その力のほとんどを負の生命の成立維持に回しており、再生力以外は本当に弱いというのが真相である。


「クロノ、ね。うん、アネット、これからよろしくね」

「はい、よろしくお願いします!」


 ただ、不具合のあったこの下種吸血鬼については、潜在能力という点で、他の下種吸血鬼とは異なるという事情があった。

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