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異世界から召喚された聖女が王太子妃となるので、婚約者だった私は侍女に格下げされるようです  作者: 江本マシメサ


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取り戻したぬくもり

 暗い暗い闇の中に、無理やり沈まされているようだった。

 もがいても、もがいても、誰かがレオノーレの頭を押しつけている。

 二度と、光ある場所に上がれないようにしているのだろうか。

 苦しくて、居心地が悪くて、息苦しくって、何も見えない。

 そんな、最低最悪の場所である。


 初めこそは脱出しようともがいていたが、しだいに諦めの境地にいたってしまう。

 そうなれば、体はどんどん重たくなって底に、底にと沈んでいくばかり。


 それでいいのか?

 レオノーレの中にある、何かの意思が問いかけてくる。


 大切な人は、もうこの世にいない。

 そもそも大切な人の顔や名前、記憶すら思い出せなかった。

 レオノーレの中にある記憶が、ごっそりなくなっていた。

 だから、いいのだ。


 ――ぜんぜんよくない!!!!


 元気過ぎる少女の叫びが聞こえた。

 誰?

 問いかけるのと同時に、暗闇が晴れていく。

 周囲から闇を追い払い、レオノーレは光の中に包まれた。


 パリーン!!

 ガラスが割れるような音を耳にし、レオノーレはハッとなる。

 キラキラと、光の粒が舞い散っていた。


 否、光の粒ではない。

 割れた巨大なステンドグラスが、雨のように降り注いでいたのだ。

 誰かが、ガラスの欠片から守る結界を展開してくれたのだろう。レオノーレに降り注ぐことはない。


「誰だ! 誰がこんなこと――」


 傍で声をあげるのは、婚礼衣装を身に纏うバルドゥルであった。

 彼だけではない。

 レオノーレもまた、婚礼衣装を纏っていた。


 これはいったい、どういう状況なのか。

 意識は戻ったものの、体の自由は戻っていない。

 視界に飛び込んでくる状況を、拾い集めるしかないようだ。

 まず、ここは礼拝堂のようだった。

 参列者の姿も確認できる。皆、突然の状況に呆然としているようだった。

 不協和音を響かせるパイプオルガンの音も聞こえる。演奏者だろうか。女性の後ろ姿が見えた。

 推測するに、レオノーレはバルドゥルと結婚式を挙げようとしていたらしい。

 それを、誰かが妨害するためにステンドグラスを破壊したのだろう。

 最後の記憶では、バルドゥルがレオノーレを花嫁殿、と呼んでいたような気がする。

 そこから目覚めたら、彼と結婚式を挙げていたなんて……。


 結婚式の日にちから考えると、意識を失った日から一か月ほど経っている。

 その間、ずっと操られていたのだと思うとゾッとしてしまう。


 なんてことをしてくれたのかと、バルドゥルに文句を言いたかったが、相変わらず舌先すら自由に動かないようだ。


 バルドゥルは今、明らかに動揺している。

 礼拝堂のステンドグラスが割れたのは、想定外の出来事だったらしい。

 いったい誰が、このような大胆な行為にでたのか。

 たしか、ここの礼拝堂は三百年以上前に作られた国宝のひとつだったが……。


「花嫁を、返してもらうよ」


 上から声が聞こえる。それは、レオノーレが毎日のように聞いていた声だった。

 キラキラ舞い散るステンドグラスと共に、大きな影が下り立った。

 全身を覆う外套の頭巾を、深く被る男。

 レオノーレに背を向けていたが、それが誰であるかはわかっていた。


 歓喜が、湧き上がる。

 同時に、なぜ? という疑問も浮かんだ。

 自由が効かない状況では、問いかけることもできない。


 バルドゥルは腰にあった剣を抜こうとしたが、腕を掴む者が現れる。


「叔父上、もう止めるんだ!!」


 ディートヘルムが、すさまじい形相でバルドゥルを睨んでいた。

 彼の親衛隊もバルドゥルに詰め寄り、剣を向ける。


 バルドゥルは腕を振ってディートヘルムの手を払い除け、剣を抜く。

 親衛隊が反応するよりも先に、レオノーレの前に立っていた頭巾の男が動いた。

 同じように剣を抜き、バルドゥルに斬りかかる。 

 頭巾の男は猛烈に、バルドゥルに斬りかかっていた。

 国で一番の剣の使い手と言われた彼を、剣で圧倒している。


「くっ!!」


 バルドゥルが悪あがきとも言える一撃を返す。

 捨て身の攻撃は、男の頭巾を大きく切り裂くだけだった。


 頭巾が断たれて、はらりと真っ二つになる。

 男の容貌が、明らかとなった。

 銀色の美しい髪に、切れ長の目、緑色の美しい瞳を持つ青年は、ディートヘルムとまったく同じ顔をしている。


 ディートヘルムは親衛隊が囲んで守っていた。

 それなのに、同じ顔の青年がバルドゥルと戦っているのだ。


 ありえない光景を目にした参列者は、あれはディートヘルムの姿を借りた悪魔だと叫ぶ。

 すかさず、ディートヘルムが言葉を返した。


「悪魔なものか! あれは、私の双子の弟だ」


 ざわりと、参列者はざわめく。

 その騒ぎの間に、頭巾の男がバルドゥルの体を押し倒して捕らえる。

 親衛隊に拘束するように命じる。


 バルドゥルは親衛隊の手によって、取り押さえられた。


 男は剣をその場に投げ捨てて、レオノーレを振り返った。

 今にも泣きそうな顔で、駆け寄ってくる。


「レオノーレ、ごめん!」


 そのままの勢いでレオノーレに抱きついてきた。

 張り詰めていた心が、驚くほど落ち着いていく。


 もう一度レオノーレの名を口にしてから、そっと啄むようなキスをされた。

 その瞬間、レオノーレを縛り付けていた魔法が解ける。

 膝の力がガクンと抜け、倒れそうになった。


「あ、危なっ!」

「わ、わたくし――」

「レオノーレ、大丈夫?」

「大丈夫……なわけありますか!!」


 レオノーレの叫びが、礼拝堂に響き渡る。


「ディートハルト、あなた、なぜ? いいえ、それよりも、魔法が解けて――」

「レオノーレ、落ち着いて。事情はあとで話すから」

「そうそう。ゆっくりできる場所に移動して、お茶でも飲もうよ!」


 明るく提案したのは、行方不明になったはずのサクラだった。

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