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勇者職の名の下に  作者: 仁司じん
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単色のマルチエンディング

第1章:英雄さん、その剣は何の為?


ー第1節ー

「マコトさん、その剣は何を切るためにあるのですか?」

はっきりとは思い出せないが、以前誰かに問われた言葉が頭をよぎる。


くそ、大事な時に。


緩みかけた手をしっかり握り直し剣をターゲットの巨大な目へと振りかざす。3年程度の長い旅を続けてようやく掴んだ弱点。無敵かと思われた怪物【アクタゾーレ】(巨悪の権化。我々の敵)にも、非常にわかりやすい弱点があった。


頭部に不自然なほど巨大な眼が生えている。生えている、という表現が適切かどうかは分からないが、とにかく目立つ場所に巨大な眼を拵えている。以前パーティーメンバーの【マルモット】(我がパーティーの愛されキャラクター。いつも美味しい食事を提供してくれる。言葉を発することが出来ない獣人族である。)が奴に向かって石を投げた。当人は自暴自棄になっていただけだが、その石が偶然奴の頭部にコツンと当たった。


「うがぁぁぁああああ…」

奴がこれまでに聞いたことも無いうめき声を上げはじめた。我が小隊最強と謳われた魔法戦士【ギルフォード】(とにかく強い。俺とは幼稚園からの幼馴染で、一緒に旅を始めてから長い付き合いだ。)の炎族魔法ラストエンデヴァも、泣く子も黙る氷族魔法キールコンフォートも効果の無かった奴が、目の前で石コロ一つで嗚咽を漏らしている。その事実に一瞬場が白けたのがやけに印象に残っている。


そもそも頭部に眼があることなど知らなかった。巨大な身体のせいで常に見上げる姿勢で闘い続けてきたからだ。思い返してみれば奴はやけに頭を隠そうとしていた気がする。しかし我々は奴を攻撃することに必死で、まるで弱点に気づくことは無かった。


たった今、その弱点が目の前に露わになっているのだ。

二度と無いチャンス。

仲間たちが繋いでくれたバトン。

勇者である俺がケリをつけるのが物語のお決まり。


俺は剣先を突き立てた。奴は怒号のような叫び声を上げた。

切っ先からは緑色の液体が沸々と湧き出している。勇者という職業を初めてもう暫く経つが、この血の色を見る度初めて切った魔物のことを思い出す。あの魔物と同じ、グロテスクで美しく、艶やかな色。


そんなことを思っているのも束の間。奴の傷口からは緑の血と同時に光が漏れ始めた。これは魔物が絶命する際に発するもので、光が漏れてようやくミッションコンプリートを実感する。

あぁ、この任務もこれで終わりか。

そう思った瞬間に怪物・アクタゾーレの身体は散り散りとなり、形を失った。先程まで何もなかったかのように、その場には剣を握るマコトが取り残された格好になっている。


俺に勇者という職業を勧めた父親は我が子に向かって自分の英雄論を語るのが好きだった。

「英雄は最後まで決して気を抜かず、不恰好な姿は誰にも見せない。それは例え、全ての任務をやり遂げた時でも、だ」


まさに今3年かけた任務が終わった。

パーティーメンバーの顔を見渡してみる。

安堵や達成感、満足げな表情。俺は今一体どんな顔をしているのだろうか?


「マコトさん、その剣は何を切るためにあるのですか?」

あの言葉が頭によぎる。

知るかよ、そんなこと。

達成感を披露が上回る。頭がズキズキ痛む。


メンバーはお互いに労いの言葉を掛け合っている。

「お疲れ、ようやく長い旅が終わった」

「これで平和が訪れるのね」


そうか。終わるのか。この長くてしんどい戦いが…本当に。

そこまで考えたところでプツンと思考が止まる。今は誰も俺を見ていない。プライドなどかなぐり捨てて、本当はその場に倒れ込んでしまいたい。

しかし、そうさせない何かが俺をずっと睨んでいるような気がした。


俺は仲間達から目を逸らし、じっと土埃を眺めていた

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