7
一睡もできなかった。
サンアンジェになれない事へのショックは莉朱が思っているよりも大きく、心の中は喪失感と…なにか黒い感情が芽生えている実感があった。
いくら嫌なことがあっても、ベースを弾いていれば忘れることができた。
でも。
今回は無理。
今はともりの顔もリーシェの顔も見たくなかった。
そう思うと、自然と地下室に足が向くはずもない。
だからといって、家に帰れるほど無責任にはなれない。
行かなければならない。でも、行きたくない。
そんな矛盾とも言える思考は、どうすれば答えが出るのだろう。
いや、どうやったら忘れられるだろう。
あたし、手放しでともりとリーシェの応援なんて、サポートなんてできない。
黒い言葉は、いくらグラウンドを走ろうとも、風に溶けることはない。
「それはね、嫉妬っていうの」
わかっている。わかっているんだ、黒い感情の正体が。
あたしの心が黒く染まる。
「恥じることはないわ。それは、人間として当たり前の感情なの」
莉朱がふいに声の主に気づく。
「お前は、毘沙門天のアリシアっ!?」
すぐ背後にいた『敵』に莉朱は反応が遅れた。
「今、楽にしてあげる」
アリシアは、莉朱の胸に右手を当て、勢いよく後方へ引く。右手に握られているのは莉朱の胸から伸びる黒い影。
同時に世界の動きが止まり、コピーされる世界へ移動する感覚に襲われる。
「……あたしから…フォーリンエンジェルが……!」
その言葉を最後に、莉朱の意識は混濁の中に身を潜めることになった。