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異世界少女の剣舞  作者: 羽元樹
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「あの二人はしばらく帰ってこないでしょうね」

「ともりのことだから、一緒にお風呂に入るだろうね」

 いのりの言葉に莉朱が頷く。

「今頃、ともりが貧乳を嘆いている頃だろうな」

「何を言っているの?」

 安曇の言葉をフェルが否定する。

「そういうのは、男の妄想だと思うよ?女の子は胸の大きさにコンプレックスはあまり抱くことなんてない。どちらかと言えば、身長や体重じゃない?これだから、三次元の男は」

 莉朱が蔑んだ瞳を安曇に向けながら、大きくため息をつく。

 冷たい空気を払うように「こほん」と安曇は咳払いをし、三人を眺める。

「さて、これからのことだ。リーシェだが、戸籍の登録は完了している。来週からでもこの女学院に通うことが可能だ。この学院の理事長たる母には話を通しておこう。リーシェは、フェルと共にここに住んでもらう。国からは金が割けない」

「使途不明金は、野党の付け入る隙を与えてしまうことになるからね」とフェル。

「そうだ。国会というのは、そういう粗探しではなく、政策の対案を提示し議論すべき場だと思うのだがな」

「まぁ、やっちゃダメだから隙になるのでしょう?」

「……ごもっともだな」

 素直にいのりの言葉を受け入れる安曇。

「資金に関しては、これまで通りご当地アイドルとしての収入からとする」

「要はリーシェさんが学院に通い、この地下で住むこと以外は、このままということだね」

「そういうことになる」

 安曇は、一旦会話の主導権を譲るようにフェルへ視線を送る。

「今後は、ともりとリーシェが戦うことになる。いのりと莉朱はそのサポートにあたってもらう」

「……マナの回復が遅いのはわかったけど、変身するまでにそんなに時間が必要?」

「莉朱、あなたもいのりも、自力で『アーク』から『アルケー』に進化したの。そのために必要なマナが増加してしまったということ」

「…莉朱ちゃん、大丈夫?」

 ソファーに深く身を預けた莉朱を気遣い、いのりが声をかける。

「…あたし、サンアンジェ、好きだったんだな。最初はふざけた話だと思ってたのに…」

 フェルはゆっくりと莉朱の頭を抱きしめる。

「莉朱。私は、あなたの戦闘センスに衝撃を受けた。サンアンジェがこれまでやってこれたのは、あなたのおかげ」

「……フェルに励ましてもらうとは、思わなかった」

 少し涙声で莉朱が言葉を口にするが、その表情はフェルの胸に隠れ確認はできない。

 そしてそれをあえて見ようとするほど、いのりも安曇も無粋ではなかった。

「…安曇さん、そろそろ話してもらえませんか?どうして私たちが戦わないといけないのか」

 いのりの真摯な顔に、安曇はフェルへ視線を送る。それに対し、フェルは無言で頷く。

「なぜ、日本がセフィロトクリスタルを守らないといけないのか。それは先ほども言ったようにオーバーテクノロジーの塊なんだよ、クリスタルは」

 あらゆる物理ダメージを軽減し、飛行も可能、高威力の必殺技を所有するサンアンジェ。安曇たちのようにクリスタルを守り、国民を守るという平和利用なら、問題ない。

 されど、それを戦争の道具として使用されてはどうだろう?

「どんな結果が齎されるか。想像に難くない」

 決して他国に奪われてはならない。そして、その力を誇示すれば、当然、他国は日本に対して危険視、敵対視するであろう。

 なので、その存在は秘密裡にしておかねばならないのである。

「日本にセフィロトクリスタルが顕現したのは、日本にとって不幸であり、世界にとって幸福である、ということ」と目を伏せるフェル。

 そう。

 その特別な存在であるサンアンジェをいのりとリーシュの幼き少女に委ねるという事実に、いのりが罪悪感を抱くのは無理もない話であろう。

「…他国に丸投げするわけにもいかないんですね」

 14歳という年齢ですべてを把握することは難しいだろうが、聡いいのりは適格に把握した。把握したからこそ、今までどれだけの責任と危険を背負って戦ってきたかと認識すると自然と手が震えた。

 知らないから戦えた。

 知った今、いのりは今までのように戦えるか、答えのない自問自答が脳裏を統べる。

「あのさ」

 フェルの胸元から、赤くなった目を覗かせる莉朱が疑問を口にした。

「なんで、リーシェをすぐ異世界人として認定したんだ?普通疑うものじゃない?」

 フェルと安曇は視線を交わし、表情を曇らせた。

「…あの子が言っていた、アスカ。そんな国名を私は知らない。でも、存在は知っているの」

「…どういうこと?」

 莉朱が理解できないのも無理はない。

 沈痛な表情を口元に乗せ、安曇が語る。

「…君たち、サンアクア、サンガスト、サンフレイムの前にサンアンジェはいたんだ。サンヴィーナス、サンシエル、サンダークネスの三人。サンヴィーナスは、フェル。正体不明のサンシエル。そしてサンダークネス…ことエレリア・ミストレイアは異世界人だった。彼女は、『アスカ』という国を何度か口にしていた」

 いのりは、間を置かず言葉を放つ。

「そのエレリアさんは…!?」

「…死んだ。セフィロトクリスタルという莫大なエネルギーに惹かれるだけの生命体の『核』と戦って、ね。崩壊した亜空間に『核』と共に消えていった。」

「……いのりに似ていたか、優しく明朗な少女だった。それ以来、私はショックで変身できず、君たちにこうして重荷を背負わせてしまった」

 フェルは、莉朱の頭を抱きしめる。それは無意識な贖罪行動だったのか。莉朱はそれを無言で受け入れた。

 沈痛な静寂。

 居心地の悪さに4人の心は闇に浸る。

「ありえません!常識的にありえません!なんで一緒に入る意味がわかりません!!」

「なにゆうとんじゃ、別々に入ったらガス代がもったいのうじゃろうが!裸と裸で赤裸々にコミュニケーションじゃ」

「じゃあ、貴女はいのりさんと莉朱さんと、こうしてお風呂に入るんですか!?」

「莉朱ちゃんはカラスの行水でのう。わしが服を脱いどるうちにさっさとすませよるんじゃ。いのりちゃんは…なんじゃ…わしを見る目がぼっけぇこええんじゃ」

「私…ともりさんと会話が成立できるか不安だわ…常識的に」

 リーシェの罵声とともりの弾むような明るい声に4人の心の闇は静かにその存在を溶かしたのだった。


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