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あまりの眩しさに視野を奪われる5人。
一際輝きを纏うのはともり…ではなく、セフィロトクリスタルの目の前の空間だった。
「これは…どういうことなの…?」
その言葉にフェルの予想の範疇に無い事態であることをともりは理解した。
視界を奪う光も徐々に和らいでいき、5人の視力は回復す。
いや。
6人の。
光の中心だった場所には、一人の少女が鎮座していた。
一見黒くみえる長い髪は、光を浴びると少し青みがかっている。白い肌に青い瞳。そして何よりも目を引くのは少女の出で立ちであろう。
LEDの光を浴びて鈍く輝く銀色のプレートメイル。胸と背中、腰にのみ輝くソレは、動きの制限を避けつつも防御力を求めた結果といえるだろう。草色のズボンのシャツは所々黒く染まっている。フェルは、その黒ずみをすぐさま酸素に触れた血であるとみてとった。
5人の視線を浴びたプレートメイルの少女は、艶やかな髪に指を通す。露わになった耳は少し先が尖っており、莉朱は「ラノベで読んだエルフみたい」と心に思った。
「落ち着け、私!冷静になれ、私!常識的に考えるの、私!」
両手を胸に当て深呼吸をする。
「って、落ちついていられるわけないじゃん!!」
喜怒哀楽が激しいようだ。
「えーっと、ここはどこでしょう?私の言葉は通じますか?」
5人を見比べて、一番まともだと認識したのであろう。シスコンのいのりに言葉を投げかけた。
「はい、通じますよ。ここは日本です」
県名や都市の名前じゃなく、国!?とツッコミを入れたくなる莉朱だが、その欲求を飲み込んだ。
「アスカ語がわかるんですね。でも、新興国家アスカではない?」
「アスカという国は私の知る限り知りませんね…これはどういうことでしょう?」
フェルが口を開く前に安曇が反応した。
「セフィロトクリスタルは、異世界からマナを持つ人間、新しいサンアンジェを召喚する判断をしたんだろう」
素直に戦力増強となったはずなのに、安曇とフェルの表情は暗い。
「なにか問題があるんじゃろうか?」
ともりの言葉にフェルは頷く。
「例えば、並々と水が注がれているコップに、さらに水を入れると?」
「溢れるのう」
「この世界も同じ。異世界から一人連れてくれば、一人、彼女のいた異世界に飛ばされるのよ…いや、もう飛ばされた、でしょうね」
「飛ばされた人物が、溢れた水、ということ?」
「そういうことね」
いったい誰が異世界に飛ばされたというのだろうか?
セフィロトクリスタルに委ねた自分たちの責任は、確実に目の前に具現化しているのだ。
異世界から来た少女。そして異世界に飛ばされた人物。
二人の運命を狂わせたのは、この場にいる5人だ。
場に沈黙が満ちる。
その沈黙を破ったのは、運命を狂わされた少女だった。
「えっと、私は異世界から来たことになっていて、私の代わりにアチラ側に飛ばされた人物がいるということ?」
「あぁ、そういうことになる」
安曇が頷くと少女は、少し納得した表情を浮かべる。
「ですよねー、私の世界ではそんな恥ずかしい仮面、つけてる人なんていませんもの」
「…いや、この世界でも、あの人だけだからね」
莉朱が間をおかず、否定する。
「私は、新興国家アスカの騎士、リーシェ・アグレット少佐です。魔王軍との戦いの最中だったのですが…」
リーシェと名乗った少女は、どう見ても12歳前後だ。この年齢で戦争に行かないといけないのか、と、異世界の現状にともりは眉間に皺を寄せる。
「でぇれぇ可哀そうじゃな」
「今、魔王って言った!?」
ともりの言葉をかき消すように、大きな声で莉朱が叫んだ。
「魔王!ファンタジーっぽい!いいなぁ!リーシェさんの代わりに異世界に飛ばされるの立候補したい」
「いや、もう飛ばされていると思うよ?」
少し呆れ気味に応えたフェルは、肩を落とした。
「あのー。とりあえずですね、この世界の常識とか、私は何をすればいいのか、あなたたちの名前とかですね、いろいろ聞きたいのですけど」
そりゃそうだ。
5人の心が初めて一致した瞬間である。