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6話


「とはいえ…ひとまずこれからどうするか考えないとな…」

 わけのわからん土地に、無一文の二人。

 今夜の寝床を確保できるかすら怪しい。

「そうですね…。まずはこの森を抜けましょうか。夜になってしまうと危ないですし」

「そうだな」

 というわけで、とりあえず歩みを進めることになった。

 向かう先は、古典的だが、棒が倒れて指し示した先。

 何も知らずに歩き回るよりは、路傍の棒に行き先を託したほうが気が楽だ。

 適当な棒を見繕って、平らな地面に垂直に立てる。

 パタン。

「あっちか…」

「本当にこんな棒っきれに任せて大丈夫なんでしょうか…」

 不安げな顔のアルテミシアを他所に、棒を携えて倒れた方向へと向かう。

「嫌ならここでお別れだ」

「ちょっと、行きますからひとりにしないでください!」

 一人になるのが心細いのか、彼女も後ろからついてきた。

「これから先が不安です…」

「何か言ったか?」

「いいえ別に…」

 後ろで何かぶつぶつ言っているようだが、何を言っているかはわからない。

 気にせず木々の間をすり抜けていく。

 幸いにも足元は具合がよく歩きやすいが、木々が生い茂り視界が悪い。

 それに葉に遮られてあまり日光も地面まで届かず、気味の悪い樹海のような様相だ。

「…果てが見えないな。ここがどこかもわからないのか?」

「飛ばした世界はわかりますけど、正確な場所までは…」

「…歩き続けるしかないな」

「そうですね…」

 暫しお互い何を話すでもなく無言で歩き続ける。

 20~30分ほど歩いたところで、アルテミシアが口を開いた。

「あの………」

「なんだ?」

「あなたは…怒ってないのですか?」

「どうした唐突に…」

 後ろを振り返ると、珍しく彼女がしおらしく見える。

「あなたを”転送”してしまったことについてです」

「それはもう別に…」

 二人とも歩みを止める。

 やけに彼女が深刻な表情をしていた。

「…あなたをこの世界に飛ばしてしまったことについては、本当に申し訳なく思っています。それについては弁明の余地もありませんし、取り返しのつかないことをしてしまったと猛省しています」

「………」

「私は下界の生死を司る死神ではありませんから、既に下界に降りてしまったあなたを来世へと送る術はありませんし、あなたは一度死んだ人生を、望む望まないにしろもう一度生きなければならない…。一人の輪廻を私の不注意で狂わせてしまったのです。怒って当然です。もっと怒って然るべきなのです」

「………」

「…すみません。これから旅を続ける上で、こういうことは最初の内に消化させておきたかったので…。何か言いたいことがあるなら、言ってください。それで気が済むなら受け止めますし、もし他に私に何かできることがあるなら………」

 話し終えた彼女は、こちらの言葉を待つように、おれの方を見つめた。

 そうか…、そんなに思い詰めていたとは。

 おれは過ぎたことにはこだわらない性分だから、特に怒ってはいないんだが…。

 きっとこのまま話を流しても彼女の気が済まないだろう。

「じゃあ…」

「はい」

 ゆっくりと、彼女へ近づいていく。

 一歩彼女に近づくにつれ、彼女が一歩後ずさる。

「ちょっと待て、なぜ逃げる」

「い、いえ、なんとなく、身の危険を…」

 こちらが近づくたびに、彼女が後ろへ逃げるいたちごっこの様相。

 だがそれを一本の森の大樹が阻んだ。

「あっ………」

 後ろへの退路を断たれた彼女は、やむなくおれと対峙する。

「ちょ、ちょっと待ってください…その、心の準備が…」

 彼女の言葉も構わず、ついには数センチのところまで距離を詰めた。

「…いいよな?」

 彼女の瞳に問いかける。

 目元には零れ落ちそうな涙で潤んでいた。

「は、初めてですから…優しくしてください…」

 震える唇でやっと言葉を絞り出す彼女。

 それからゆっくりと瞼を閉じた。

 あふれそうな涙は、雫となって彼女の頬を伝って落ちていった。

「じゃあ、このネックレスもらっていくぞ」

「…………………………は?」

 彼女の首にかかっていた首飾りをゆっくりと外す。

 シンプルだが造りもよく、宝石もいいものを使っていそうだ。

「最悪の場合、これを売るか交換するかして、当分の食い扶持を凌ぐ。必要になったらまた買い戻せばいいだろ?」

 我ながら名案である。

 それに、こんな高そうな装飾品を堂々と身につけて、ガラの悪い輩に目をつけられたらどうするのだ。

 今のおれたちでは抵抗も虚しく略奪されるだろう。

「あなたって人は…………」

「ん?」

 ネックレスに夢中になっていたおれは、彼女の方へ振り向いた。

 彼女の体はわなわなと震え、急に顔を上げたかと思うと、

「もう!知りませんから!!!!」

 と、急に叫んで走りだして行ってしまった―――。

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