3話
「えっと…ちょっと待ってください。今、なんて?」
「あなたは、もう死んだのです」
彼女は真っ直ぐにおれを見つめ、淡々とそう言った。
数秒の沈黙が流れても、彼女はおれの瞳から視線を離すことはなかった。
「そっかあ…おれ死んだのかあ………」
彼女の真剣な表情を見ていたら、そうなのかと思えてしまった。
それに、そうだとしたら今のこの状況も説明がつく。
やけにリアルな夢だと思ってたけど、ここはじゃあ天国だろうか?
にしては住人がおれ一人しかいないが…
「…残念ながら、ここは天国ではありません」
「え、そうなんですか………ていうかちょっと待ってください、あなたさっきからおれの頭の中読んでませんか?」
「あ、ごめんなさい、ついクセで…」
「クセで頭の中読まないでくださいよ」
「む…だって、しょうがないじゃないですか。人間とお話するのなんて初めてなんですから…」
彼女は頬を膨らませてムッとした表情を浮かべた。
もっと笑えば可愛いのに…
「………っ!余計なお世話です!」
今度は顔を真っ赤にして激昂している。
「だから頭の中を読むなと…」
「もう!せっかくの女神デビューが台無しです!」
「………女神?」
目の前の彼女が?
確かに、そういえば、女神っぽい服装をしている。
女神と呼ぶには若干年齢が足りないような気もするが………
「幼稚な女神でわるかったですね」
「いや別に悪い意味では」
「はあ…デビュー初日は華々しく完璧にこなすはずだったのに………」
「まあ、そんなに気を落とさないで」
「あなたに慰められたくなどありません」
ふんっと彼女は鼻を鳴らした。
「それより………あなたは平気なんですか」
「ん?」
「いきなり死んだと告げられて、ショックではないのですか?」
「んー………ショックと言えばショックだけど、未練も後悔もあまりないしね…。長生きしたいとも思わなかったし………あ、でもひとつだけ」
「?」
「一緒に住んでいた犬がいて、そいつだけが心残りかな…」
「………」
「可愛いやつでさ、雑種で白い犬なんだけど、そいつの最後くらいまでは、一緒に生きたかったかな…」
「………」
「今頃どうしてるんだろう。実家で引き取ってくれてたらいいんだけど………」
「………その子は」
「ん?」
「その子は………死にました」