第四話「生存者」
先程噛み付かれた松田の出血がひどい。
僕は松田とアンディーに少し待っていてくれと伝え、
警察への救助要請と止血の包帯を探しに上階に行く事にした。
建物内を警戒しながら3階に戻った。
ロッカールームに入った僕は、急いで私服に着替えを済ませカバンの中の携帯を取り出した。
携帯を見ると圏外表示だった。
バッテリーも残りわずか。
救援は後回しにして止血用の包帯や布類の調達と警察を呼ぶ為、スタッフルームに入る事にした。
そっと扉を開けると血塗れのドクタータッカーがいた。
スタッフを食べている・・・。
残念な事にここにも正常な人間はいなかった。
机の上に電話機を見つけたが、この状況では電話を使う余裕がない。
そっとスタッフルームの扉を閉めて逃げる事にした。
しかし扉が閉まりきる直前、ドクタータッカーに見つかってしまった。
僕は松田を助ける為に覚悟を決め、扉から3歩下がって身構えた。
ドクターは部屋から出た途端に前のめりに倒れこんだ!
僕はあらかじめ電化製品の電源ケーブルを部屋入り口取っ手に結びつけ、
膝下高さに来るように仕込んでいたのだ。
倒れた所に頭部へ蹴りを入れた!
これではとどめをさせたかと油断した瞬間に足を掴まれてしまった。
ドクターが足へ噛みつこうとした瞬間、車イスが突っ込んできてドクタータッカーを吹っ飛ばした。
「大丈夫?」と声をかけてきたのは中国人治験者の高君だった。
僕は「高君、サンキュー。」と生きていて良かったと気持ちを込めて返した。
「まだ、安全じゃないよ!」と高君は、
ドクターの顔を押さえ付けたまま上着で頭を覆いかぶせて、捕縛すべくしっかりと電源ケーブルで上体を結んだ。
「大人しくしていろ。」と言ってドクターをトイレに押し込んで隔離した。
「引き戸だから、押しても出れないね。」と高君は言った。
「高君は無事だったんだね?一体何があったの?」僕は訪ねた。
「私も知りたいです。お腹が痛くなってトイレにいた所、部屋の方から叫び声が聞こえてきました。
覗いてみたら、人が襲われていました。あの時は恐ろしくて隠れてしまいました。」
たしかにこんな恐怖を味わったら普通は隠れるだろう。と高くんの行動に同調した。
「しばらくじっとしていました。でも1人で隠れている方がだんだん心細くなり出て行くタイミングを探していました。」
「その気持ち分かるよ、僕も結局小部屋からでてきたんだからね。」
「そしてさっき外から物音が聞こえたので覗いて見たら、青人さんが化け物と戦っている所を見て助けに行く事を決めました。」
「そうだったんだね。ありがとう本当に助かったよ。」と高くん改めて礼を伝えた。
松田とアンディーの事を説明したら、高君も協力してくれると答えてくれた。
スタッフルームから警察へ通報しようと受話器を手にした。
何度かコールしたが受話器からの反応が無く、電話回線が遮断されている事に気がついた。
そうだ火災報知器の存在を忘れていた。どこにあるんだ?
探して見たが見つからず、意図して設置していないのではと疑念が生まれた。
それよりも松田の手当てを急がないとマズイので、準備を整えて一度2階へ向かう事にした。