第三話「死闘」
まずは隠れるスペースか身を守る物は無いかと部屋中を見渡す事にした。
ベッドにカーテン、ブラインド。そうそう都合よくは発見できないものだ。
とりあえず腕に刺さっているチューブを抜いたが、これは武器にならない。
部屋に入って来られるくらいなら窓から下に降りる事に決めた。
まだこっちの方が生き延びる確率は高いだろうし。
ベッドのマットを窓から落として、その上に降りればいけるんじゃないかと思う。
犯人に気づかれないように慎重に準備しなくては・・・。
その時である、治験者と思われる男の叫び声が聞こえて来た。
早口の英語で何を言っているのか聞き取れなかったが、攻撃を仕掛けているようであった。
暴れ回る音がしたが銃声は無く、先程の男が一方的に攻撃している感じがした。
大広間から2階に移動した様だ。
1人で犯人達と闘おうというのか!
ここは僕も加勢しに行くべきだと思い部屋の扉を開けた。
その光景を目にした瞬間、頭が真っ白になり動けなくなってしまった。
大広間はおびただしい血に染まり、スタッフや治験者が倒れ込んでいる。
院内用の上履きが血滑りそうになった。
パニック寸前になりながらも、このエリアに他の犯人はいないか周囲を見渡した。
大部屋の方も覗いたが治験者と看護スタッフの死体が無残に横たわっていた。
松田を探して見たがここにはいなかった。
凄惨な現場に立ち尽くしていると、再び男の叫び声が聞こえた。
助けに行く為に武器を捜してみたがそんなモノは病院には無さそうだった。
無いよりはマシだろうと、スタッフが所持していたボールペンを手に取り、
犯人と戦っている仲間の加勢へ向かう事にした。
緊張感が高まる中、廊下へと繋がる扉を開けると階段の下から物音が聴こえた。
気配を消しながらゆっくりと階段を降り、後ろから犯人に攻撃を仕掛けると決めた。
2階に着いた時、ロビーに婦長のインバニさんと治験者が2人倒れていた。
治験者は松田と一番体格のいいアンディーだった。
犯人と思われるテロリストは見当たらない。これなら大丈夫と、
周囲を警戒しながら倒れている松田の元に近づいたが気を失っている様だった。
意識があるアンディーに声をかけた。
アンディーはスイス出身で世界中を旅をしている様な事を話していた。
「Are you OK?」この程度の英語しかできない自分が情けない・・・。
アンディーは「No.」と小さな声で答え、何か僕に訴えているようだったが、
その内容を理解できない。
「敵はどこ?」片言の英語で聞いてみた。
するとアンディーは僕の背後を指差して気をつけろと叫んでいた。
背後を振り返った時、インバニ婦長が突如立ち上がり
こちらに近づいてきたのだ。
僕が再び「Are you OK?」と聞いたが、こっちの方は唸る様な声あげてきた。
その顔は青白く目は光を失い皮膚は枯れた植物の様だった。
あの恰幅の良かったインバニ不調とは思えない別人の様な形相だった。
アンディーは大きな声で叫びながら立ち上がり、近くにあった消化器で婦長を殴りつけた。
頭部から血が流れた。
この惨劇の仕業はアンディーだというのか!
僕はやめろ!と言いながらスタッフを助ける為に近づいた。
その時、意識を取り戻した松田が「青人!婦長に近づくな。」と叫んだ。
インバニ婦長の頭部の傷は瞬く間に塞がった。
近づいてきた婦長は僕に噛みつこうとしてる。
人ならざるものと対峙している事を僕は直感した。
アンディーが僕に対して逃げろと叫んだ。
インバニ婦長は唸り声を発しながら僕に襲いかかってきた。
ギリギリのところで身を交わすと、力強く部屋の扉にぶつかった。
その衝撃で扉は開くと部屋の中に、血まみれのスタッフが3人もいた。
その血は口の周りに集中していて、おそらく人を襲った時の返り血だと感じた。
周囲は化け物に囲まれ、一歩づつ近づき僕達に襲いかかろうとしていた。
松田が言った。「3階の惨劇を見てきただろ。あれはこいつらの仕業だ。噛み殺されないように気をつけろ。」と。
犯人はテロリストでもアンディーでもなくスタッフだった事を理解した。
僕はこの状況を打開しようと殴って倒そうとした。
しかしほとんど効いていない。
噛みつかれそうになったのでボールペンで喉元を突き刺した!
何度も続けて刺した。
しかし傷はすぐに塞がっていく。
そんな事があるのか!?呆然となり僕の足が止まった瞬間、化け物に掴まれた。
なんて力だ。僕はやられると思った時、アンディーが助けてくれた。
バケモノの背後からアンディーの消化器フルスイングでスタッフのクビは折れた。
にもかかわらず、まだ襲いかかろうとしていた。
混乱に陥りながらも、身を守ることを第一に考える事に集中した。
牽制しながらバランスを崩させた所に蹴りを入れて這い蹲らすことに成功した。
そこに追い討ちでアンディーが消化器を振り被り頭を砕いた。
凄い速さで肉体の傷は回復できるが、折れた骨は戻らない事と頭部を破壊すれば止めを刺せる事がわかった。
こっちで二人掛かりで一体倒している間に
松田が残りのバケモノに襲われていた。
急いで助けに行ったが、松田はかなりの深傷を負っていた。
「やられた借りを返してやる!」
数的不利がなくなった事により松田も反撃を仕掛けた。
戦いの末、残り一体となったスタッフのとどめも刺した。
どうしてスタッフ達が襲ってきたのか解らなかった・・・。