第十話「脱出」
「4階は立ち入り禁止だと言ったはずだが。」
ドクタータッカーが諭す様に言った。
「黙れ!おいドクターあんた死んだんじゃんなかったのか!ここでたくさんの人が殺されているんだぞ。」
アンディーが威嚇しながら怒鳴りつけた。
「サラがいるじゃないか。無事だったか。」椅子から立ち上がりショーン博士が話しかけた。
サラは銃を博士に向けた「さんざんと研究の為に利用されたが、博士ここで終わりだ。」
「バカモノが!」ショーン博士は声を張り上げた。
「ひゃひゃひゃ。ある程度の研究成果が出た事もあり、どうせここは閉鎖するつもりだし我々がやっている崇高な使命を教えてやろう。」
そう言うとショーン博士はこちらに近づいて説明を始めた。
説明に入る頃から僕のヒアリング力では彼等が何を話しているのか分からない状態になったので、
部屋の詳細を把握する事に集中した。
恐らく博士達は、僕達を返り討ちにするか脱出をしようとするはずだ。
所々を高君に通訳してもらいながら、僕はこの局面を打開する方法を見つける事にした。
「ひゃひゃひゃ。当初この施設は再生医療の研究所として使っていた。
そのころは特権階級にいる連中の要望に応える様に健康な臓器を移植していたが、
臓器の提供先からこの人権に重きをおく時代、調達が厳しくなってきたとの連絡がとどいた。
そこで世界に先駆け、クローン人間の製造に取り組み、そこから移植用の臓器提供と考えたのだ。
クローン同士で臓器移植をして拒否反応が無いか実験していた所、
新薬を投与したら拒否反応がなくなったのだ。
しかしこの新薬には副作用があった。
一つは細胞の超成長能力。
凄まじい速さで細胞が活性化され人体を急速に成長させるのだよ。
おかげで短期間でクローン人間を造ることができた。
1年程度で成人の肉体へと成長する。
しかも酸化物質が生成されず結果として老化現象が起きない事も判明した。
これを我々は「C・S・T」と呼ぶことにした。
「この研究は家畜でも一部に導入積みで、この国の精肉の出荷率も近年上昇している様だ。
人間の代わりに働いてくれるのか?と忠実な影武者を欲している独裁国家の権力者から前金を出すから実験をしてくれとの要望があった。
かなりの金を出してくれたのに、やらないわけにもいかんだろう。ひゃひゃひゃ。」
「生きている人間で実験をするなんて狂っているぞ。」アンディーが僕の気持ちを代弁してくれた。
「黙れ!貴様らは実験に参加できた事をありがたく思え。実験結果だが流石に本人と同じ中身を作る事は出来ない。
だが、しかし単純動作ならコントロールする事も可能だ。
但しクローンは培養装置から目覚めて、自立活動をすると3週間で全ての活動エネルギーが放出し死に至るのだ。
今回は本社からの急な指令があってドクタータッカーのクローンで実験した所、何らかの不確定要素で彼のクローンが寿命より早く死亡した。
そしてもう一つの副作用がバケモノになると言う事だ!
クローンが死に肉体を制御できなくとも、まだ生きている細胞が肉体を操っているのだろう。
クローンが暴走して病院のスタッフを次々に襲ってしまったのは予想外だったのは事実だ。
細胞が生きている肉体へ移ろうと、死者を操るのだ。
その暴走したクローンがスタッフを次々と襲い始め、その時の細胞が別の体内でまた活性化して
再び死者が暴走したという事だ。
この細胞が体内で増殖して全身に行き渡れば、晴れて凶暴なイービルが誕生するといったところだろう。
クローンは死んでも細胞がまだ活動を終えられず暴走を起こすが、
人間なら運良くこの細胞が体内で活性化をする前に絶命すれば、イービルとはならずに静かに死ねると言う事にはなる。
流石に死んだ時点で細胞が活動停止してイービル化とならない様だ。
あっ、君たちが言っているイービルの動きを軍関係者は気になっているみたいでな、
まだまだ戦闘能力が低いので、改良の余地があると言った所だ。
事態が外に広まっては不味いと言う事で、我社の武装兵達が出入り口を封鎖したんだよ。
なにか起きていようと、この国には我々の企業が多額の出資をしているので非常に協力的だ。」
ひとつ聞きたいんだけど、そこにいるドクタータッカーは本物なのか?
「無論、彼はオリジナルだ。
どうだ素晴らしい研究だと思わないか?争いは辞めにしようじゃないか。
武器を捨てて我々の研究に協力をしてくれないか。」
「騙されるか!出入り口の封鎖はブラックハンドの兵隊を使ってもみ消そうとしたんだろう。
最近失踪事件が多発しているのもお前が絡んでいるんだな!」
ショーン博士は銃を手に取り、「動くな。」と言った後ボタンを押した。
すると奥にある水槽が割れて中から、イービルが現れた。
中には大きな青い水槽が8台あり、それぞれに人が眠っていた。
水槽に寝ている男達の体には無数の管が刺さっていて、投薬されている状態だった。
この男達、皆顔が同じだと。次の瞬間8人の男達は一斉に目を覚まし僕達を襲い始めた。
こいつら同じドクタータッカーの顔、まさかクローン人間なのか。
男達は身体の管を引き抜いた瞬間、瞬く間に傷が塞がっていった。
彼らの目は赤く不気味な色となっていた。
全身の筋肉が硬質化していく様子が、障害物を粉々に破壊し飛散しているガラス片がを飴細工のように叩いたのを目の当たりにして感じた。
「こいつらイービルだ!」
緊張感がこの場を覆い尽くし、互いに戦闘体制に入った。




