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08.世界の破壊者

 湯田と打ち合わせをした。

 実は初対面じゃなくて遠い親戚なんだ。嘘をついていたのは、変な誤解だと思われたくなくて、知られたくなかったから! と――委員長説明したが、腑に落ちなさそうだった。

 そもそも仲睦まじく手を繋いで、朝礼サボったという噂が流されたせいで、あれ? あいつらデキてんじゃね? と周りからは思われ、教師には説教され、今日は厄日以外のなにものでもなかった。

 そして、放課後。

 普段は話さないクラスメイトからもしつこいぐらいに質問責めされた。詰問から逃れるように、再び遁走。二人して逃げたせいで余計に誤解されたような気がするが、今は忘れよう。

 現実逃避とは断じて違う。

 こちらの事情の方が重いのだ。

 この逸話町が崩壊するかしないかは俺達の双肩にかかっているといっていい。

 そのために、俺達は歩道を歩いている。

 その目的は吸血鬼の手がかりを探るため。

 そして目的地は第一の被害者、明智花音の入院先である病院だった。

 道中、歩きながらなので時間がある。

 周囲の眼がある学校内でできなかった情報交換をしよう。

「スライムってことは、お前、元々は魔王軍だったのか?」

「そんなわけないですよ。そうだったらあなたに協力なんてしない。まあ、モンスターだってあなた達の味方をした方々もいたようですが、私なんかの実力じゃどっちの味方もできなかったでしょうね」

 逆に、人間でも魔王軍の配下にいた奴らもいた。

 どちらも正義があったから戦うしかなかった。

 魔王の支配していた世界から解放されても、次は人間が世界を支配する世界が生まれるだけかもしれない。そんな迷いもあったが、俺達は輝かしい未来を信じて戦ったのだ。そこに人間かモンスターかなんて関係ない。

「ずっと気になっていたことがある」

「どうしたの?」

「あの大戦の後、どうなったんだ?」

「それは……あまり聴かない方がいいんじゃないですか? もう、転生した私達には前世の世界の結末なんて関係ないんですから」

 この反応、知っているのだ。

 俺は勇者を庇って死んでしまったから、その後の世界がどうなかったかを知らない。……待てよ。重大なことに気がつきそうだ。湯田が世界大戦の結末よりも後のことを知っているということは、湯田は俺より後に死んだということになる。

「質問がある。転生にタイムラグはあるのか?」

「……タイムラグ?」

「つまり、死んでからすぐに他の異世界に転生するのかってことだよ。もし、そうだとしたら、吸血鬼の年齢は俺と同じぐらいになるんじゃないのか?」

「……それは正直分からないかもしれないですね。そうか、そういう考え方は盲点でしたね。あの、あなたの今の世界での誕生日はいつですか?」

「二月四日」

「そうですか。私は十月四日です。私の方が誕生日は早い。――っていうことは、転生にもタイムラグがあるってことになりますね……。つまり、吸血鬼は同性代じゃない可能性もあるってことになりませんか?」

「そういうことになるな……」

 過去の情報から特定するのは難しくなってしまった。

 だが、被害者である明智花音の近しい人物が怪しいのは確か――いや、そうとも限らないか?

「待てよ。そういえば、どうして、お前は俺が賢者だって知っていたんだ?」

「それは、私のもう一つのスキル――『探知サーチ』によるものです。かなり初歩のスキルで誰でも習得できるものですけど……。そういえば賢者様は習得していなかったんでしたね」

「うん、まあ、な。相手のステータスを調べる前に殴ればそれで終わりだからな。そんなものに時間をかけている余裕はなかった」

「ほんとうに賢者らしくない賢者ですね……」

 ステータスを探れるスキルがあるのは盲点だった。

 俺自身使ったことがないし、正直役に立たないスキルだ。相手のステータス、つまり対象者の正体を見破ることができるスキルが『探知サーチ』なのだが、それを無効化するスキルをほとんどの人間やモンスターが習得している。

 だから、持っていてもあまり意味のないスキルなのだ。それに、知れる情報もたかが知れている。もっと詳しく他人のステータスを看破できる上級スキルを習得するのが普通なのだ。

「手がかりは少ないことは分かった。だからこそ、もう一度頼むよ。あの大戦が終結した後、どうなったかを訊きたい。世界はちゃんと平和になったんだよな?」

 そうあって欲しい。嘘であってもそうだったと答えて欲しい。

「どうしてそこまで知りたがるですか? そんなに自分の死後、世界がどう変わっていったのか気になるんですか? 無関係ですよね?」

「関係あるよ。俺が生きていた世界だ。それに、気になるのはちゃんとした理由があるんだ。湯田、お前、俺が夏純姉を救った時に言っていたよな。――勇者のことを『世界の破壊者』って。言い間違いかと思ったけど、そういうことなんだろ……? あれは本当のことなんだろう?」

「察しがいいというのも考えものですね。鈍感なぐらいが世渡りしやすいっていうのに、あなたという人はそうやって踏み込んでくる。――そうですよ。あなたが今頭の中で考えている通り、あなたの死後――世界は平和にならなかった。ハッピーエンドにはならなかったんですよ」

「そんな……どうして……どうして?」

「知りたいですか?」

「そんなの当たり前だろっ!!」

「知ればあなたは自分のやってきたことを後悔するかもしれない。この世には救わない方がいい奴だっていると思うかもしれない。それでも?」

「それでもだ。何がいいたいかさっぱりだけど、俺は絶対に後悔しない。誰かを救って後悔したことなんて一度もないんだから!」

 勇者がいれば、ブレイアが、あいつがいたのにどうして? 

 世界の支配者だった魔王すら倒してしまった、あの主人公の中の主人公が誰かに負ける姿なんて考えられない。それもそのはず。


「あなたの死後。勇者は後追い自殺をしたんですよ」


 勇者に勝てるのは勇者だけだった。

 他の誰でもない、勇者は自分に負けたのだ。

「は? どういうことだよ。あいつが――自殺?」

「そうです。あなたが死んだあと、すぐに。残念でしたね。あなたが命をかけて守ろうとした勇者は、自らの意志で死んだんですよ。あなたを失った悲しみを背負ったまま生きていくのには、彼女にとって地獄でしかなかった。生きることよりも、死ぬことの方が幸せでしかなかった。――自分を犠牲にして誰かを救ったと勘違いしてどうでしたか? 誇らしかったですか? あなたがしたことは全て無駄だった。無駄死にだったんですよ」

「そんな、そんなことって……」

 俺が勇者を見殺しにしていれば、どうなった? 少なくとも俺は死なずに済んだ? そっちの方が良かった? そんなこと思えるわけがない。

「あなたがいれば、もしかしたら世界は救われていたかもしれない。あの大戦で、お互いの主力はほとんどが死んでいたから……。あなたさえ生き残っていれば、勇者の死後に始まった、最悪の事態を回避できかもしれない」

「…………最悪の事態? なんだよ、それ。勇者が死ぬよりももっと悲惨なことが起きたっていうのか?」

「それは――」

 湯田が口を噤んだのには、理由があった。

 気がつけば早足になって、目的地である病院に到着していた。二階建てだが、そこまで立派な病院ではない。むしろ小ぶり病院で、患者も見舞客も少なそうなのに、そこの受付には人が結構いた。

「あれ? 嘘……。ニッシー達じゃん。こんなところで何しているの?」

 そして、そこにいたのは全員俺の知り合いだった。

 口を開けて惚けている淀と、眼鏡のずれをなおす委員長と、ポケットに手を突っ込んだままの朱雀。それから明らかに場違いな俺の義理の妹である小春までもがそこに勢揃いしていた。



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