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06.クラスメイト

 夏純姉と別れ、自分の教室に入る。

 史実高校。

 公立の進学校で普通科だが、そこまで偏差値が高いわけではない。ただし、特進クラスというクラスがあって、そこは段違いの秀才ばかりでそちらはほとんど別世界だ。

 普通科クラスの俺達からしたら特進クラスの連中は、宇宙人にしか思えない。

 お互いに不干渉を貫いていて、体育の時間しか会わない。

 休み時間も誰一人席を立たずに勉学に励む彼らと違って、俺達は結構気楽なものだ。専門学校とかだと、実習とか、免許取得に忙しそうだが、俺らはただ大学進学のための五教科だけまったりと勉強していればいいのだから。

 だから、教室の空気も弛緩している。

 クラスの大半はもう登校しているようで、席について談笑しているグループもあった。そいつらの仲良い何人かと、おはようの挨拶を交わし合う。

 帰宅部だというのに顔が広いのは、顔が広い奴と付き合いがあるからだ。

 妹とか姉はかなり社交的だし、それに俺の友達もクラスに存在する複数のグループを自在に行き来できるような奴が多い。

 その内の一人が俺に話しかけてきた。

「西野」

「おっ、委員長、おはよう」

「おはよう。ほら、昨日休んだ分の紙だ。ノートも写させてやるから、あとで取りに来るがいい」

 小学生から一度も学級委員長を譲ったことがないという伝説を持つ。

 それが、明智天下あけち てんかという真面目系女子だ。

 底の分厚い牛乳瓶みたいな眼鏡を掛けているあたり、己の委員長人生を自覚しているかもしれない。こういう堅物タイプは、けっこう孤立しがちだ。

 最初話した時は冗談一つ飛ばせなくて、気まずい空気が流れたものだ。

 でも、今は同じグループに属している。

 仲良くなったきっかけは、俺達の共通点だったはずだ。

 どっちも妹がいるということだ。

 同級生で同じ学校ということで話が合った。主に妹がいると大変だという苦労話が多い。ただ、妹がいるせいか、元来の性格なのか、世話好きだ。こうして、こちらから何も言わずとも親切にしてくれる。正直、委員長がいてかなり助かっている。

 特に勉学に関しては、委員長と関わってから点数が、どの教科も目に見えて上がっている。委員長には足を向けて寝られない。

「ありがとう、委員長」

「勘違いするなよ、西野。貴様の成績が下がるとクラスの成績が下がる。そうすれば委員長である私の評価も下がるんだ。この私は内申書のためならば、神にも悪魔にでもなることを忘れるな」

 くいっ、と眼鏡を指で押し上げながらかっけつける委員長の頬を、ぷにっと横から別のクラスメイトがつつく。

「うわっ、やめろ! 小早川!」

 堅物委員長が赤面しながら慌てる。たったの一手でここまで動揺させることができるのは、一人しかいない。

 小早川淀こばやかわ よど

 委員長とは真逆のタイプで、クラスカーストの最上位に位置するあか抜けたギャルタイプといったところか。

 美容室でゆるふわカールをかけてもらっているし、薄いがしっかりとしている化粧とか、手首のアクセとか、スカートを短めにしているところとか、とにかく細かい部分まであざとく仕上げている。

 いつもは派手目の美人グループに属しているけど、たまにこうして仲のいい委員長をからかいにくる。

「――とか言っちゃって、かわいいなー、アケチーは。昨日、あれだけ心配していた癖にぃ。『奴め、風邪だと? だ、大丈夫か? 見舞いに行った方がいいのではないのか?』とか、珍しく動揺した癖にぃー」

「うっ、嘘をつくな、小早川! お前はいつもそうやって適当なことばかり言って! どうするんだ! 西野が勘違いしたら!」

「えぇ、勘違いってなになに、詳しく教えてくれないとぉー、なんのことか分からないなー」

「うっ……」

 いいおもちゃにされているな。女同士の話に男が割り込んでもろくなことにはならないのは、家族で経験済みだ。ここは黙っておこう……。

「うぃーす、賢人。元気そうでなにより。俺らだって心配していたんだぜ。大丈夫だったか?」

「…………」

「まあ、大丈夫だったよ」

 今度は男子クラスメイト二人が、俺の席に近づいてきた。

 その内の一人は耳にピアスをつけ、首にはヘッドホンをかけ、片手には少年漫画を持っている。ちなみにうちの高校では全部校則違反。教師達に見つかったら即没収は免れないが、それでも自由に生きるのをモットーにしている松永光明まつなが こうめい

 遊び人で、学校の成績は下の下。

 ただ、放課後は他のクラス連中とも毎日のように遊んでいるおかげか、コミュ力お化けだ。とにかく誰とでも話ができ、すぐに誰とでも仲良くできるのは天賦の才だろう。――ただ、けっこう無神経な発言多いせいで、微妙にクラスの女子からの評価は低い。

「……連絡の一つもしなかった薄情者がよくいう」

 青田朱雀あおた すざく

 すらり、とした身長をしていて、八頭身のモデル体型。

 ただ毎日腹筋二百回はこなしているせいか、細マッチョというやつらしい。体育の授業で着替える時に見たことがあるが、腹筋の線の彫がエグかった。

 寝不足なようでイケメンは、ふわああ、とあくびをする。運動もできてスポーツもできて、バレンタインにはチョコを山ほどもらうこの男はあまり喋るタイプではない。

 ブサメンならば根暗だが、イケメンならば思慮深い、という解釈らしく、それが異性の人気に繋がるらしい。

 ただし、重度のオタク。誰かと遊ぶよりも、家に帰って一人でアニメ視聴している王が落ち着くらしい。カラオケへ行ってもアニソンとか声優の歌を歌うが、まったく分からない。アニメ以外にも、ゲーム、漫画、ラノベなどの様々なサブカルチャーに傾倒している残念系イケメンだ。

「ああ? 朱雀だって、してないだろ?」

「俺はした」

「うおおおおおおいい!! なんで俺にも一声かけてくんねーんだよ。昨日一緒にカラオケ行っただろうがよ! お前、ほんとそういうところあるよな! 自分だけそうやって点数稼ぎするところあるよな?」

「うるさいぞ」

「そうそう。そういうところがモテないんだよねえ、マッツンは」

 朱雀と淀から辛辣な言葉を浴びせられて、流石に可愛そうになってきた。

「ひでえ! そりゃあ、賢人みたいにモテないけど!!」

「いや、モテないだろ。いつ俺がモテたんだよ?」

「小春ちゃんとか、夏純さんとかいるだろ? あんなに慕われていて羨ましいぞ、このヤロー!」

「ただの家族だからな。モテてるとかは違うだろ」

「それでも羨ましいの! どちらか紹介してください! 未来のお兄様!」

「ふざけんな! お前と家族になんかなりたくない!!」

 家に帰ったら光明と姉か妹がイチャイチャしている姿を思い浮かべただけで、気分が悪くなってきた。もしそうなったら、光明のことをぶん殴ってしまうかもしれない。

「でも、モテてるのは本当じゃない? だって、あの噂の転入生にだって会ってもないのに好かれるぐらいだし」

「転入生?」

 転入生なんていたかな? という疑問にぼそりと、朱雀が答えてくれる。

「……昨日転入生が来たんだ」

「まあ、ちょうど貴様は休みだったからな。多少時期外れだとは思うが、親の急な転勤が原因らしい。なじめないとまずいからこちらから話しかけたら、お前に興味があると言い出してな。そうだ。ちょっと私が呼んでこよう」

 そう言って、その転入生がいる席まで委員長は、呼びに行った。

基本的にいい奴なんだよな、委員長は。転入生なんてクラスでなじめるかどうか不安でいっぱいだから、それを解消するために自発的に話しかけるあたり本当にいい奴だ。

 それにしても、転入生か。なんで俺に話したいことがあるのかは分からないけど、知り合いとか? あまりパッと思いつかない。

「なんか、妙にニッシーのこと訊いてきたよね。知り合いとかじゃないよね?」

 淀の疑問に、光明が肩をすくめる。

「明智が賢人の良さについて熱弁するからじゃないか? あいつもいい加減素直になれば、もっと進展できると思うんだけどな」

「それが、アケチーのいいところじゃない? ああいうピュアな子って今時珍しいから、私はあのままでいいって思っているけどね」

「ふーん……?」

 いまいち話している内容は分からないけど、どちらも委員長のことを大事に思っていることは確かなようだった。

「……なあ、その転入生の名前って、なんなんだ?」

「えっ、と確かなんだったけ? 外人さんっぽい名前だったよね?」

 ぼう、とあまり興味がでないので眺めていた。

 近づくにつれて、あれ、どこかで見覚えが? と当惑していたが、思わず大声を上げてしまう。

「なっ――」

「うわっ、ちょ、どうしたの?」

 無意識に後ろに引いたせいで、椅子が倒れてしまった。

派手な音を立てたせいで、驚いているが、まともに返答すらできない。

湯田ゆだシモンです」

 呼吸が止まった。頭が混乱して何もできなくなっている俺を嘲笑うように、嘘つき転入生は自己紹介をする。そいつは、昨日俺を救ってくれた佐藤だった。

「初めまして、西野賢人さん。会えて嬉しいです。昨日転入してきたばかりで、分からないことばかりで至らないことも多々あると思います。色々とご迷惑をおかけするかもしれませんが、これからよろしくお願いしますね」


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