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02.姉妹

 チチチ、と鳥の泣き声が窓の外から聴こえる。

 夢を見ていた。

 長い長い夢を。

 物心ついた時から、ずっと同じ夢を見過ぎたせいで見飽きている。大きな欠伸を噛み殺しながら、ベッドに膝を立てる。

「うっ!」

 スパーン、とカーテンを全開にすると、降り注ぐ太陽の光。夏に近づいているせいで、最近陽の光が強くなった気がする。ごろん、と再びベッドに寝転がる。もう少しだけ寝ていたい。スマホのアラームが鳴り響いていないなら、まだ余裕はある。

「ん?」

 ふにゅん、と手のひらに素敵な感触が。ふわふわと雲がつかめるならこんな手触りなのかもしれない。なんだ、これ、と寝ぼけながら揉んでみると、

「――ぁん」

 ギュッ、と胃を手でつかまれたように寒気がする。

 まさか、そんな、と独りごちながら、ベッドのシーツを御開帳。

「うわああああああああ」

 そこには、全裸の女!

 自分の部屋なのに、自分以外の誰かがいる。恐怖しかない。何が一体どうなったらこんな状況に陥るのか。十六年間生きてきて、今この瞬間が最大の危機かも知れない!

 落ち着け。

 俺は『やればできる子』と毎年通知表で書かれるぐらい、担任教師からは評価されているのだ。落ち着けば、状況が見えてくる。まだ夢の中にいるかもしれない。

 周りを見渡す。

 机と椅子、壁には映画のポスター、棚の教科者とは別に、家族から借りた少女漫画がある。高校指定のバックはあるし、ここは絶対に俺の部屋だ。

 窓ガラスに反射するのは、寝癖だらけの俺の顔。美形とはお世辞にも言えない造形。伸長は165センチで、高校二年生としてはもう一声欲しい。体重は58キロ。部活に入っていないせいで、ちょっとお腹のあたりが気になる。

 視線を落とすと、派手なピンク色をした寝間着から、腹がちら見していた。これは四季さんが購入してきてくれたやつだ。サッと、腹を隠す。

 やっぱり、俺は俺だ。

 西野賢人にしの けんとだ。

 変な夢を見ていたせいで自分が何者なのか分からなくなる時がある。ここは日本で、ドラゴンや勇者がいた異世界ファタンジーの舞台ではない。つまらない代わりに平和な現実世界だ。

「ちょ、もう、やめっ!」

「うわあああ! すいませんっ!」

 揉んでいた。揉みしだいていた。

 無意識的に、ベッドにいた女の人の胸を、ずっと。

 もはや、嬌声すら上げているその女の顔に――俺は見おぼえがあった。

「なにやってるの? 夏純姉かすみねえ

「あれぇ? 賢人クン。何しているの?」

「こっちの台詞! なんで! 全裸で夏純姉が! 俺の部屋で寝てるの!?」

「……だって、寂しかったんだもん」

 くらっ、と意識が失いそうなぐらいに可愛い。この上目遣いに騙されてはいけない。天然系ドジっ子でも、流石に全裸になるのは看過できない。

 ちゃんと注意しないと、ベッドに潜り込むのが日常化してしまう。

 俺は、この姉――西野夏純にしの かすみに弱いのだ。

 別に、一つ年上なのに童顔で、暴力的なまでの豊満な胸のカップがFで、むっちりとした太ももが白くて艶めかしくて、全体的に丸っこい輪郭がマスコットキャラのように愛おしくて、思わず抱きしめたくなるから弱いわけじゃない。

 変わっているかもしれないけれど。

 俺は自分の家族というものと、どういう距離感でいればいいのか分からないのだ。学校の友達なんかより、よっぽど難しい。

「いや、寂しいからって、普通同じベッドで寝ないでしょ?」

 ね? 分かるよね? と子どもに言い聞かせるように優しく諭す。

「最近、冷たいよね、賢人クン。昔は一緒に寝ていたし、風呂も入っていたのに……」

「子どもの頃はね! 今はお互い高校生だから! 早く、何か着てくれよ! じゃないと――」

 バァン!! とドアが壊れんばかりの勢いで外側から開けられてしまった。


「うっさいな! 馬鹿兄ばかにい!! 久しぶりに勝手に起きたと思ったら、朝っぱらからうるさいんだけど!」


 妹様、西野小春にしの こはるのご登場です。

 早朝から部活の練習があるので我が家では一番の早起き。既に中学の学生服に着替えている。おっとり系の姉とは正反対で怒りっぽい性格をしている。可愛げのない妹だが、意外に男子からは人気があるらしい。

 顔が可愛いのが数少ない長所。だが、その長所も、惚けきっている顔で今はなくなっている。

「…………え?」

「あれぇ、おはよう、小春ちゃん」

 目蓋を擦りながら、夏純姉は呑気そうだけど分かってます? 誰かさんのせいで、火山が噴火寸前なんですけども!? どうにかして怒りを鎮めないと、俺に飛び火するっ!!

「なに、やっているの? ま、まさか、二人とも昨日同じベッドにいて……?」

「うん? さっきまで賢人クンと一緒に寝てたよ!」

「うおおおおおおいいっ!! なんでそんな誤解を招くような言い方で!? わざと!? わざとなの!?」

 ガシッ、と妹はそこらへんに置いてあった辞書を持ちあげる。

「やめっ――せめて、雑誌とかにして――」

 おおきく振りかぶって、速球派のピッチャーは全力で辞書を頭めがけて投げた。


「お、お兄のばかああああああああああああっ!!」




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