表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

 帰りのリュックはいつもより重くなっていた。田舎道を歩く。ここいらは結構田んぼがある。田んぼの中の道を歩きつつ、家へ向かう。

 いつもは通らない道を使い、コンビニに入った。新聞を二つ買い、ライターも買う。準備としてはこんなものでいいだろうか。ふと思い起こして、ペットボトルの水も買った。消火用の水だ。

 僕は三世の書を燃やすつもりだった。自分の未来を消滅させるつもりだった。その為にコンビニに寄ったのだった。

 燃やす場所も決めていた。高架下だ。高架下には川が通っている。河川敷でやるつもりだった。人もいないし、ちょうどいいだろう。

 望みどおりの場所についた。予想通り人はいなかった。陽は傾いていた。川の水に光が当たって、キラキラしていた。綺麗だ。上の道路では車がビュンビュン走る音。世界が終わる一瞬前。そんな事を想像する。この本を燃やせば、世界は消滅してしまう。ありうべき未来は消える。

 僕は今、世界を消滅させる最後の祭司だ。伝説の本を燃やす。選ばれた特別な人間。……いや、自分の未来を見るのが怖いだけの臆病者。

 自分が何者かという定義は三浦に任せるとして…僕は準備し始めた。本当に本は燃えるだろうか。外側はがっしりした作りだから燃えないだろう。中が、中身が燃えてくれたら、それでいい。十分だ。未来も一緒に消える。

 新聞紙で本を何重にもくるんだ。風の弱い場所を探す。近くに板切れがあったので、石と組みあせて、風が弱まる地帯を作った。新聞と本を置く。深呼吸してから、火をつけた。

 燃え出した。火は広がっていく。火は生き物のように蠢いて、拡大していく。

 未来が消えていく。僕の未来。もし知っていたら、なんでも手に入れる事ができただろう。僕は人生の勝者になれただろう。

 その代わり、僕は決して自分の人生を生きる事はできなかっただろう。台本に書かれた通り動く事は人生ではない。例え、その為に、全てを手に入れたとしても、自分が本の部分にすぎない事になる。だとすれば、全て以上のものを失う事になる。

 三浦のように、本を試すべきだったろうか? そのアイデアが頭に浮かぶ。…いや、そんな事は怖くて僕にはできなかった。もし仮に神の強制力が働いたとしたら、全てを知った人生を生きていく事になったら…そんなのは嫌だった。あまりに恐ろしすぎた。未来に無知でいたかった。

 火は、新聞から本に移ったようだ。本が燃えていく。

 僕が、燃えていく。燃えろ。消えてしまえ、僕の未来。

 火は容赦なく、燃えていった。僕は知らず、微笑している自分を感じた。

 未来は消え、自分の足で生きていく。僕はーー人生の「ネタバレ」を喰らわなかった。ああ、よかった。僕は笑った。僕は神様から自分自身のネタバレを喰らわなかった。よかった。これで、引き続き、初見プレイを愉しめるよ。ああ、よかった。

 だけど、そう思った途端、急に暗澹とした気分になった。

 でも、そうやって考えている僕、そう思っている僕の全てがここに書かれているんだよな。物理的に本を燃やしても、なんにもならないんだよな。やっぱり、未来が書かれているのは事実だし。

 そう思うと、うんざりした気持ちになった。その間も、火は本の中身を焼いていった。

 本から立ち上がった煙は上方に昇っていった。

 この煙が一体、どこに向かうか、それも書の中には記されているのだろうか。そんな事を思った。



 全部燃やした後、丁寧に燃え殻を処理した。そういう事は、案外ちゃんとしているもので。

 明日になったら、三浦と安丸に話してやろう。今日あった事を、おとぎ話として話してやろう。嘘の話として話してやろう。あいつら、喜ぶだろうな。そんなフィクションがあったなんて、面白く思うだろう。あくまでも嘘として愉しく談笑できるだろう。

 僕はそんな事を思った。

 僕は、家路についた。煙はいつまでも、風の中をたなびいていた。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ