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第四話 異母姉はとっても腹黒

 誰だっけ? と思うより先に勝手に口が動いて、

「ごきげんようクリスティンお姉さま、お久しぶりでございます。ご心配をおかけして申し訳ございません」

 そう言ってスカートを摘まんで膝を折る私。


 条件反射で挨拶をしながら、あああああっ、この娘って真ヒロインのひとりの聖女――となる予定の腹違いの義母姉――クリスティン王女じゃん、やべー、挨拶なんてせずにさっさと立ち去ればよかったぁ! と、密かに冷や汗を流すのでした。


 ちなみに彼女はアーレンダール王と太陽神殿の元巫女長であった第一側妃との間に生まれた王女で、今年十三歳になる王のお気に入りの愛娘です。

 立場的には私という例外を除けば、王位継承権一桁の高貴なる王女様です。


 付け加えるのならユリウスとは幼馴染のような関係で、彼女は幼い頃からほのかな憧れを抱いており、ルートによってはメインヒロインとしてストーリーにモリモリ絡んできます。

 その場合は、彼女は異母妹であるセラフィナに複雑な感情とコンプレックスを抱えているのですが、生来の明るい性格でのちに太陽神の神託を受けて『聖女』となる逸材……というのがゲームでの設定でした。


 まあそれはいいのですが、そうなった場合はこのフワフワした見かけや天然っぽい言動は豹変します。


 セラフィナがシルヴァーナとしての記憶を取り戻す前までは、『セラフィナ――セラは私の大切な妹ですから。困ったことがあればなんでも言ってね』と親身に相談に乗っていたのですが、聖女ルートだとくるりと掌を返し――。


『やっぱりそうだったのね』『以前からセラフィナにはおかしなところが』『ずっと疑っていた。それが確信になったのは』『お父様の懸念が当たったわ』と、それはもう事あるごとにユリウスに因果を含めて焚き付けたのでした。

 で、とどめに最後の決戦では、『私はねえ、本当は貴女のことが出会った時からずっと嫌いだったのよ!』と言い放ち、「なんじゃそりゃ~~っ!?!」と、画面に向かってツッコミを入れた思い出がある腹黒女。


 こうしてにこにこと微笑む裏で、鵜の目鷹の目で私を観察して足を引っ張る機会を窺っているんだろうなぁと思いつつ、そこは中身大人の余裕でこちらもビジネススマイルで対抗します。


「もともとたいした怪我ではありませんでしたので、幸いにもつつがなく過ごせておりますわ」


 ま、それでもちくりと皮肉を混ぜるのは止めませんが、相手は鉄壁の面の皮で鳴らしたヒロインのひとり。この程度の嫌味では罅ひとつ入りませんでした。


「それはようございました。それと、そんな畏まらないでくださいまし。義妹とはいえ貴女様は尊い身分の御方。臣下である私などに膝を折ってはいけませんわ」


 あくまで私を皇女としていかにも相手を気遣うような向けるクリスティン王女。

 それから、ふと気づいたという風に私の背後に視線をやり、わざとらしくも大きく目を見開いてみせます。


「まあっ! ユリウス様、このようなところでお会いできるなんて! 何か王宮に用がございましたの?」

「――はっ。クリスティン王女殿下にはご機嫌麗しく。ご挨拶が遅れたことまことに申し訳ございません。また、本日私めが登殿した理由ですが、本日よりセラフィナ皇女殿下の護衛騎士を拝命したためにございます」


 杓子定規なユリウスの返答に、クリスティン王女の青い目がさらに大きく、ほとんどこぼれんばかりに見開かれました。


「ま、まあ。ユリウス様がセラフィナ皇女様の護衛騎士に!? それは……おめでとうございます。騎士としてこの上ない誉れですわね」


 いかにも健気な――心配だけどぐっと堪えて好きな相手を慮るまさに淑女の鑑という風な――ぎこちない微笑みを浮かべるクリスティン王女。


「はい。この剣に恥じないように、一命に代えましても大任を務める所存でございます」


『ああ、なんてことでしょう! この怪しげな異母妹の傍にお慕いしているユリウス様が侍ることになるなんて……嗚呼、だけど辛くても堪えるわ。それが貴方のためですもの』

『ご安心ください。これは偽りの姿。この先機会があればこの剣でセラフィナ皇女の御命を頂戴し、後顧の憂いをなくす所存でございます』


 表面的な挨拶とは別に目と目を見合わせて以心伝心で会話をする勇者(予定)と聖女(予定)。

 会話の中身は私のアテレコですが、多分、大きく間違ってはいないでしょう。


 何気ない会話の応酬が、ごりごりと私の神経を削り取っていきますが、とりあえず何も気づかないフリをしてバックレて、

「あら? クリスティンお姉さまとユリウスはお知り合いなのですか? もしかしてお親しい仲でしょうか?」

 ふたりの顔を交互に見比べて無邪気な子供風に尋ねました。


「そ、そんなことはありません。ただデトワール伯爵は先の剣術指南役でしたから、その関係でユリウス様も昔から王宮へ出入りされていて、その……」


 恥じ入るように顔を赤くして、モジモジと落ち着かない風情でチラチラとユリウスの顔を見ては視線を逸らすクリスティン王女。

 はい、恋する乙女ですね、わかります。


 と、わかりやすい秋波を送るクリスティン王女に対して、こちらは生真面目な態度を崩さず、

「どうかなさいましたか、クリスティン王女殿下?」

 と、ボケた質問を返すユリウス。


 鈍感系主人公か、お前!? あ、そうだったあああああああっ!! と、ひとりでノリツッコミをする私。


「いえ、なんでもありません。その、ユリウス様のご武運をお祈りしております」


 さっさと私の首を獲れと発破をかけているのですね、わかります!


「――はっ、ありがたき幸せ」


 戦々恐々としながら、私は一礼したユリウスを促して、この敵地から一刻も早く撤退すべく、気もそぞろにクリスティン王女に挨拶をしてこの場を後にしました。


 ひえ~~~っ、ずっとこっちを見ている視線を背中に感じる! どんだけ疑ってるわけ!?

 びくびくしながら、私は足早に王宮の廊下を出口へと向かって退散するのでした。

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