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少女型嘘発見器  作者: 阿智工事
【一幕/六か月前/『少女型嘘発見器』】
9/25

(8)悪夢の一夜

 僕は、老人の寝室の前に立っていた。

 ドアノブをじっと見つめる。

 ……僕は確信を持って断言することができた。蔵人老人は僕にお金を貸したりはしないだろう。それどころか……そんな申し出をした瞬間、僕のことを解雇するに違いない。

 もともと辞めることを考えていたのだから、解雇自体はそれほどの問題では無い。

 だが…………部屋に待たせてきた、明石の表情が脳裏に焼き付いている。

 明石はお調子者で要領が良くて、無計画で行動的で、そして――打たれ弱い男だということを僕は知っていた。

 思い詰めたら本当に死んでしまうかもしれない。

「…………」

 僕は考えに考え抜いた末に――老人の部屋の前を、そっと離れた。

 廊下を歩き、今度は老人の書斎に向かう。

 あそこにある――あの机の引き出しにある札束。あの札束は次の来客があるまで……三日後の水曜まで、使うことはないはずだ。一時的にお金を借りて、老人に気づかれる前にお金を戻す。それなら何も問題は起きないはずだった。

 盗むわけじゃない、盗むわけじゃないんだ、それにこれは人助けだから、大丈夫、きっと大丈夫……

 そう自分に言い聞かせ、すくむ足を懸命に前に進める。

 と、

「――ッ!!」

 ……全身が硬直し、脂汗がどっと吹き出した。

 最低限の常夜灯が点けられた、暗い廊下。その先に――


 リツが立って、こちらを見ていた。


「…………」

「…………」

 黙ったまま、見つめ合う。

 ……リツの読心能力は、この距離でも有効なのだろうか?

 お互いの距離は五メートル近く離れている。リツが僕の思考を呼んで反応するときは、いつももっと近い距離にいたはずだ。

 でも、もし僕の心を読まれていたら――


『ワシの金に手を出す奴は、絶対に許さんよ』


 ……眼球が震え、視界が霞む。自分の鼓動が痛いほどに高鳴って、暴れる心臓が抑えられない。

 呼吸すらもままならず、あやうく失禁しそうだった。逃げることすら出来なかった。

「…………」

 果たして、リツは――――ゆっくり、僕から、遠ざかっていった。

 表情を変えることなくこちらに背を向け、実に何気ない様子で。

 その姿が廊下の向こうへと隠れて、見えなくなる。

 全身の力が抜ける。僕は思わず壁にもたれかかって、肩で呼吸を繰り返した。

 いくら無表情なリツとはいえ、いまの僕の心を読んだのなら何かしらの反応を見せたはずだ。それらしい反応がなにもなかったということは――バレなかったのか。

 どうやらこの距離ではリツの能力は働かず、そして最近ずっと僕のことを避けていたリツは、いまもまたこうして僕から離れていったらしい。

 顔中にびっしりと浮かんでいた汗をぬぐう。

 僕は痛む心臓を胸の上から押さえつけ、書斎へと歩みを進めた。

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