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少女型嘘発見器  作者: 阿智工事
【三幕/翌朝/『少女型嘘発見器と罰』】
25/25

(24)罰

「リツちゃん!」

 バシン――と、白井さんが、激しく私の頬を打った。

「ッ…………」

 私は……息が詰まって、叫ぶのを止めた。

 全身がしびれているのを感じながら、短く呼吸をついた。

 私の中の乱れた感情は、どこかへ吹き飛んでいた。

「……リツちゃん。心が……読めなくなってたんだね。ごめん、気づけなくて」

 白井さんは、私の顔にかかっていた髪の毛を、手櫛で整えながら、そう言ってきた。

 私は、落ち着いてくるに従って……どうしようもなく、泣きだしてしまった。

「うう、ううううう……っく、うううう、うううううう…………ご、ごめん、なさい」

 私は、白井さんに謝った。

「ごめん、なさい……ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

「いいんだ。何も謝らなくていいから」

「違うん、です!」

 私は……私は、全てを言うことにした。

 だって、もう、限界だった。なにもかもが、限界だった。

 ぼろぼろと涙を流し、体中を振るわせながら、全てを言って、そして白井さんに私を許すか……もしくは、私のことを嫌いになって欲しかった。もう、なんでもいいから、とにかく答えが欲しかった。本当のことが分からない状態はもういやだった。

 だから私は、告白した。

「……白井さんの、友達の人が……お金を返しに来なかったのは、私のせいなんです」

「……それって、明石のこと?」

「……あの頃、白井さんは私を怖がって、うちを辞めようと思ってたから……なんとか……なんとかしなきゃ、って思って……白井さんがお金を盗むのも、黙って見逃して……」

「…………」

 白井さんは、私のことを抱きしめたまま、黙って話を聞き続けた。

「それで、次の日、私は……おじいさまの名前を使って、あの、明石という人を…………………消して欲しい、って、大人の人に……お願い、したんです……絶対、戻ってこないように……」

「…………」

 白井さんは、黙っていた。

 なんで黙っているのかが分からなかった。どうして黙っているのかが分からなかった。

 私は、どんどん怖くなってきた。

 もう、喋るのを止めようかと思った。でも、このままじゃ駄目だ、ぜんぶ、本当にぜんぶ、なにもかも残らず話さないと、私はもう駄目だ、助からないと思って――

「わ、私は、や、山本さん、にも……最後の夜に、メールして……全部、見せたんです」

「…………」

「……私と白井さんの動画、隠し撮りしてたのを、送って…………そしたら、あの人は死ぬって、分かってて……」

「…………」

 白井さんは、私の告白を、黙って聞いていた。

「……し、白井さんの前で泣いたのも……そうしたら、セックスして貰えると思って……わざと、怒らせて……わざと、泣いて……全部……全部……」

「…………」

 白井さんは、まだ黙っている。

「ご……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

 私は、泣きながら、謝り続けた。

 すべてを伝えて、もう、私には謝るしかなかった。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……!」

 やがて白井さんが、小さな声で言った。

「――どうして、そこまで」

「だ、だって……」

 私は、もう嘘は吐かなかった。

 ただの本心を、そのままに口にする。


「だって…………あなたが、好きだから……」


「……リツちゃん、顔を上げて」

 白井さんがそう言ったので、私は抱きしめられたまま、顔を上げた。

 白井さんは、笑っていた。

 そして、笑顔のまま、優しい声で言ってきた。


「リツちゃん……僕も君が好きだ。だから……大丈夫。僕は、君を――許すよ」


 ――ああ。

 ああ、なんてことだろう。

 私は、私は白井さんのその言葉が…………まるで、信じられなかった。

 その笑顔が、視線が、どうしても信じられなくて――怖かった。心の底から、怖かった。

 私の中で昂ぶっていた体温が、急速に冷え切っていくのが感じられた。

 私は理解した。

 白井さんの優しさは、彼の復讐なのかも知れないと思ったけど、そうではなかった。

 復讐などではなくて、これは――罰だったのだ。

 私の許されざる罪に対する、罰だったのだ。

 罰ならば――私は一生、それを背負わなくてはならない。

 私は、かつてはそれに触れるだけで幸せだったのに、いまはもう固くて冷たいなめし革のようにしか感じられなくなっている彼の胸に、そっと寄り添った。私はこの先の一生を、この、地獄のような場所で過ごすのだということを、ようやく理解した。

……最後までおつきあいいただきまして、誠にありがとうございます。


「好きな人の気持ちがわからない」

「好きな人に気持ちが伝わらない」

「好きな人の気持ちが変えられない」


そんな、ありふれた地獄のお話でした。


次は、ストックしてある似たようなホラーラブ短編か、新作の異世界チーレム長編でもお披露目できれば、と思っております。

再びお目にかかる機会がありましたら、何卒よろしくお願い致します。


(余談。今作のインスパイア元は安部公房の短編『鍵』。万能鍵を発明した鍵職人と、他人の心を読む女中、そんな二人の元に居候することになった青年のお話です。解釈を読者に委ねるタイプの作品なのですが、ヤンデレ好きの自分はそこから今作のような話を妄想せずにはいられませんでした)

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