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第12話:世界の管理者と叛逆者(6)

「ッ!? ミリア?」

「……ぁ……私……」


 伸ばした手を払われたアラタの顔に驚愕の表情が浮かぶ。それを為したミリアの方も、自分の咄嗟の行動が信じられずに呆然としていた。


「どうしたんだ、ミリア?」


 はたかれた手を軽く押さえながら、アラタは努めて優しい声を出すように心掛けながらミリアに問い掛けた。ミリアはそんな彼を真っ直ぐに見ていたが、やがて何とか身体を起こしながら一言呟いた。


「アラタは、改竄犯罪取締官だったの?」

「ッ!?」


 ミリアの問い掛けに、アラタは硬直する。彼女に自身の職を明かしたことは無かった筈なのに、何故そのことを知られているのか。混乱した彼は咄嗟に言葉を返すことが出来なかった。そして、その反応自体が雄弁に答えを語っていた。

 ミリアは哀しげな声で続ける。


「そう。私と会ってたのも、全部捜査のためだったんだ」

「それは──ッ!」


 違う、という言葉をアラタは口に出すことが出来なかった。

彼がミリアと会っていた理由は、彼女の言う通り改竄犯罪の捜査のためだった。彼女の事を調べて捕縛するために、偶然を装って何度も会い言葉を交わしてきた。ミリアの追及は何処までも真実で、彼は決して否定することは叶わない。

 反論出来ずに黙り込むアラタを見て、ミリアは失望と共に拒絶の言葉を吐き出した。


「嘘吐き」


 アラタは彼女の言葉と、目尻に浮かぶ涙に打ちのめされて俯いた。心を削る冷たい沈黙が周囲を支配する。

 しかし、一度は言葉を返せずに下を向いたアラタだったが、ここで引き下がったら決定的な何かが終わってしまうという焦燥感に衝き動かされ、キッと顔を上げてミリアに向かって口を開いた。


「ミリア、聞いてくれ」


 返答はない。しかし、彼の言葉にミリアが耳を傾けていることは何となく分かった。


「俺は、お前の言う通り改竄犯罪取締官だ。内閣府直属改竄犯罪取締室一等取締官、真崎アラタ……それが俺の正式な肩書きだ」


 既に分かっていたことの筈だが、改めて聞いてショックを受けたのかミリアの方がビクッと震えた。しかし、アラタは更に言葉を続ける。


「ミリア、お前は改竄犯罪の疑義リストに載っている。俺があの喫茶店でお前に近付いたのは、その捜査のためだ。その点についても、お前の言うことは正しい」

「……もういい、もう聞きたくない」

「いいから、最後まで聞いてくれ!」


 耳を塞ごうとするミリアの手を掴み、アラタは彼女に訴え掛けた。


「ただ、今の俺は改竄犯罪取締官じゃない」

「え?」

「上司の室長は、お前を攫おうとしていた竜胆財閥の圧力に屈して俺が護衛するのを妨害した。そもそも誘拐事件なんてのは治安維持部隊の管轄であって、俺達、改竄犯罪取締官の職分じゃない。改竄犯罪取締官として行動するなら、これ以上関わらずに大人しく引き下がるのが正しいだろう」

「………………」


 真っ直ぐ目を合わせながら訴え掛けてくるアラタの言葉を、ミリアはジッと黙って聞いていた。


「だが俺は、どうしてもお前を助けたかったんだ。そのために、非合法な連中の手を借りたりもしたし、こうして竜胆財閥の本拠地に忍び込んだりもした」

「どうして?」


 ミリアがポツリと呟く。言葉は足りなかったが、どうしてそこまでしたのかという問い掛けだとアラタは受け取った。


「決まっている。俺はお前の事を──」

「ッ!?」


 アラタの言葉に、ミリアは思わず息を呑み胸に手を当てながら次の言葉を待つ。


「──大切な友人だと思っているからだ」


 ミリアはその言葉を聞いて、思わずガクリと脱力した。彼女の思わぬ反応にアラタは首を傾げていたが、一方のミリアはそれどころではなかった。

 直前のアラタの言葉を聞いててっきり告白されるものだと思い心の準備を始めたところに、とんだ肩透かしを喰らわされた形だ。


「……朴念仁」

「は?」


 不満のあまり思わず罵倒が口から零れた。幸か不幸か、アラタは何のことだか分からなかったようだが。

 ミリアはアラタの煮え切らない態度に不満を抱くと共に、何処かホッとしたような複雑な心境だった。彼の職務や肩書きのせいで色々と複雑になってはいたが、考えてみれば今の状況はまるで悪の組織に囚われた姫を王子が助けるようなシチュエーションだ。控え目に言ってもロマンチックで、この状況で愛の言葉でも囁かれたらミリアも雰囲気に流されてしまった可能性が高い。アラタが正体を隠して近付いて来たことについては不信感を抱いたが、それでも彼自身のことは憎からず思っていたこともある。

 しかし、そんなやり取りを交わしたおかげで思わず感情的になっていたミリアの頭も冷えた。余裕が無かったせいでつい彼のことを批判してしまったが、此処まで助けに来てくれた相手に対して申し訳ないと罪悪感が沸いて来たのだ。


「アラタが私のことを助けたいと思って此処まで来てくれたことは分かった。さっきは酷いことを言って、ごめんなさい」

「いや、構わない。俺がお前のことを騙していたこと自体は事実なんだからな」


 ミリアの謝罪に、アラタは問題ないと首を横に振る。そして、ふと思い出したように問い掛けた。


「ところで、お前に一つ聞きたいことがあるんだ。出来れば気を悪くしないで欲しいんだが……」

「何?」

「俺が改竄犯罪取締官で疑義リストに載ったお前を調査していたことはさっき言った通りだが、そもそもリストに載ったことに対して心当たりはあるか?」


 アラタの問い掛けは「お前は改竄犯罪を犯していたのか」と直接投げ掛けたに等しい。無実であれば、これに気を悪くするなと言う方が無理だろう。

 しかし、ミリアは彼のその問いに対して気まずそうに視線を逸らした。それは、心当たりがあると言っているも同然の仕草だった。


「あるのか?」


 アラタの声に信じたくなかったという色が含まれていたように感じたのは、自身の願望が入ってしまっているのだろうかと自問しながら、ミリアは心当たりについて説明した。


「……うん、昔一度だけシステムのアクセスコードを使ってズルをしたことがある。お父さんが居なくなった後にお母さんが病気で倒れて手術するためのポイントが必要で、こっそり増やした」

「そういうケースなら、行政が支援に入る筈だが」

「私はその時はまだ小さくて、そんなこと知らなかった」

「そうか」


 まだ高校生のミリアが「昔」と言う以上、中学生か小学生の頃の話だろう。それであれば、行政のサービスなどを熟知していないのも無理はない。勿論、そう言った時は親などの保護者が対応するのが筋ではあるが、彼女の場合はその親が倒れて頼ることが出来なかった状況だ。彼女だけが唯一持つ不正手段に手を出すのも、やむを得ない。

 しかし、改竄犯罪であることには変わらない。


「私、どうなるの?」


 ミリアが不安そうにアラタに問い掛けた。過去に改竄犯罪を犯したことを、よりにもよって改竄犯罪取締官の前で自白した形だ。相手が改竄犯罪取締官としての立場を超えて助けに来てくれたアラタと言えど、この件を見逃してもらえるとは彼女も考えてはいない。


「改竄犯罪に科される刑罰は非常に重い。勿論、改竄行為を行った頻度や度合いによっても量刑は変わってくるが、最低でも二十年は監視が付くことになる」

「? それだけ?」


 アラタの告げた刑罰が想像していたものよりも軽く思えたのか、ミリアは拍子抜けしたような声を上げた。

 彼女の場合、過去に一度だけ母親の手術に必要なポイントを手に入れるために改竄行為を行っただけなので、量刑としては最低基準になる可能性が高い。当時の彼女の年齢や、やむを得ない事情があったことによる情状酌量の余地もある。

 てっきり刑務所に入れられるものだと思っていたミリアからしてみれば、監視が付くくらいは大したことには思えなかった。

 しかし、アラタの表情は優れない。


「それだけと言うが、これは結構キツイものだぞ? 何しろ四六時中常に監視された状態で生活することになるんだ。それこそ、着替え中や入浴時、挙句の果てにはトイレの中まで見られることになる。ノイローゼになってしまう者も居るくらいだ」

「そ、そんな!?」


 監視員に尾行される程度だと軽く見ていたミリアは、アラタから告げられた監視の内容に青褪めた。年頃の少女である彼女にとって、そんな生活は死ぬよりもつらいものだ。


「どうにかならない?」

「と言われてもな……」


 思わず縋ったミリアに、アラタも困り顔になる。彼としても親しい友人がそんな目に遭うのは忍びないのだが、改竄犯罪取締官は被疑者を調査して捕縛するまでが任務であり、その後の裁判などには基本的に関与しないのだ。多少の融通くらいなら利かせることも出来るかもしれないが、刑罰を覆せる程の権力はない。

 その時、未来に待ち受ける困難のことを考えて頭を悩ませていた二人に、突然入口の方から声が掛けられた。


「ああ、お二人さん? 何か色々と取り込み中みたいだけど、取り敢えず此処から逃げてからにしないか?」


 驚いてそちらを向くと、扉に背を預けた赤毛のポニーテールの少女が呆れたような表情で二人を見ている。


「ルイか」

「ルイか、じゃないよ。見付かったのなら速やかに合流して退くべきだろう。何で仲良くダベってるんだよ、此処は敵地なんだってこと、分かってんのか?」

「す、すまない。つい……」

「ったく」


 苛立った口振りで批難するルイに、アラタは謝るしかなかった。この場合は、ルイの言い分が百パーセント正しい。彼女の言う通り此処は敵地であり、いつ捕まっても不思議ではない状態なのだ。いくら重要な話だったからといって、そんな状況で呑気におしゃべりしていた彼らが悪い。


「誰?」


 初対面の少女に対して、ミリアが警戒心を露わにして問い掛ける。


「初めまして、不破のお姫様。あたしは榊ルイってんだ。レジスタンス『気高き狼』のメンバーだよ」

「────ッ!?」

「ミリアを助けるために、利害が一致して協力して貰ったんだ」

「そういうことさ」


 悪名高いテロリストグループを名乗るルイにミリアの警戒心が更に増すが、アラタが取り成すことで取り敢えず落ち着きを見せた。


「そういうわけで、さっさと此処から出ようぜ」

「そうだな」

「待って」


 逃げようと告げたルイにアラタは同意したが、その時ミリアが二人を制止した。止められたアラタとルイは、彼女の方に振り向く。


「何だい、お姫様。くだらないことならこのビルを出てからに……」

「お父さんから預かった専用端末を取り返さないと」

「何だって?」


 怪訝そうにするアラタとルイにミリアは簡潔に説明を行った。彼女が父親である不破教授から預かった物は二つ、システムに直接アクセスするための専用端末と、それを使用するためのアクセスコードだ。専用端末はミリアが肌身離さず持っていたが、捕らえられた際に竜胆に取り上げられてしまった。

 説明を聞いて彼女の意見については理解した二人だったが、その方針に従うか否かという点で意見が分かれる。


「大切なのは分かるが、今は此処から逃れるのを優先すべきじゃないか」

「いや、あたしはお姫様の方に賛成だよ。その端末とやらが奴らの手の内にあると、相手は手段を選ぶ必要が無くなる。これまでは万が一にも端末を壊してしまわないように加減していた部分もあるだろうが、その枷が外れることになるんだからな」

「アラタ、お願い」


 アラタは所詮は物でしかない端末よりもミリアの身柄を安全なところに移動させることを優先するべきと主張したが、この点に関してはルイがミリアの側に立って取り戻すべきだと話した。

 彼女の意見には少し首を傾げたアラタだったが、ミリアからの懇願もあり、結局渋々ながら逃げる前に専用端末を取り戻すことを了承した。


「……分かった」




 ◆  ◆  ◆




 ミリアが監禁されていた部屋から出た三人は、専用端末が置かれているであろう竜胆の部屋を目指した。幸いにしてミリアが監禁部屋に放り込まれた時に通ったルートを記憶していたため、それを逆に辿る形でスムーズに進むことが出来た。

 しかし、そのスムーズさに対して、アラタは一抹の不安を覚えていた。


「妙だな」

「何が?」

「此処まで誰にも会わないのは不自然じゃないか?」

「そういや、そうだな……時間帯のせいかとも思ってたんだが」


 そう言いながらもルイが竜胆の部屋の入口に手を掛けると、ロックも掛かっておらずあっさりと開いてしまった。中を覗き込んでみるが、人の気配はない。どうやら、部屋の主は留守にしているようだ。

 入口からも見えるように、竜胆のデスクの上にポツンとミリアの端末が置かれている。それを見た瞬間、アラタの警戒心が一段跳ね上がった。


「やっぱりおかしい、順調過ぎる。まるで、誘い込まれているかのようだ」

「つまり、罠だってことか?」

「かも知れない」


 三人は警戒して周囲をよく探るが、特に怪しい点は見付からなかった。いつまでもこうしているわけにもいかず、下手をすれば行動が遅れたせいで見付かりかねないとして、慎重に部屋の中に入ってデスクへと近付いてゆく。

 しかし、結局何事もなく専用端末を手に取ることが出来てしまった。


「あっさり取り返せたな」

「ああ、あっさり過ぎて不自然なくらいにな」

「あと考えられるとしたら、実はこの端末が精巧に作られた偽物とかか? お姫様、念のためにアクセスコードを入力してシステムにアクセス出来るか確かめてくれ。それが出来るなら本物だろう」

「分かった」


 ルイの促しを受け、ミリアは端末を起動させると突然上着を脱ぎ出した。


「な、何を!?」

 下校中に攫われてきた彼女が着ている学校の制服で、上着を脱いだからと言って別に裸になるわけではない。しかし、服を脱ぐという行為自体にアラタは慌てて顔を背けた。そんな彼を横目に見ながら、ミリアは脱いだ上着で端末のキー部分を隠すようにしてアクセスコードを打ち込む。そして、甲高い音がしてアクセスに成功したことを確かめると、手早くログアウトして端末を落とした。


「何でわざわざ脱ぐ必要があったんだ」

「お父さんから、アクセスコードを入れる時は絶対に誰にも見られないように隠せって言われたから」

「ああ、そういうことか……理由は分かったけど、次があったら事前に言ってくれ。上着なら俺のを貸すから」

「ん、分かった。取り敢えず、本物みたい」


 ミリアは脱いだ上着を着直しながら、ルイの方へと顔を向けながらそう告げた。一瞬、ルイの表情に苦々しげなものが浮かんでいたが、ミリアが彼女の顔を見た瞬間にその表情は消えていた。ミリアは不思議に思うも、彼女に対してそれ以上問い掛けることはしなかった。


「そうか、それなら一安心だ。なら、後はこのビルから脱出するだけだな」

「ああ、急ごう」


 アラタはミリアから端末を受け取り、部屋の外へと歩み出た。周囲を警戒するが、相変わらず人気は無い。不気味ではあるが好都合だと考えることにして、三人はエレベータの方へと向かった。

 エレベータの扉の前で少し待ち、やってきたカゴに乗り込む三人。幸いにして行きと異なり、出る時は一気に一階まで降りることが出来るようだった。

 端末を手に持ったアラタは、入口から見て奥の左側にある手すりに軽く寄り掛かるようにし、その横にミリアも寄り添った。ルイは入口側にある操作盤の前に立っている。


「このビルを出たら、どうするの?」

「安全になるまでは、家には帰らない方がいい。何処かに身を隠すしかないが……」


 今後のことについて不安そうに問い掛けるミリアに、アラタは頭を悩ます。今回はアラタが救出することで逃げることが出来たが、家に帰って学校に通っていたら再度攫われてしまうのは目に見えている。竜胆財閥はミリアの持つ専用端末とアクセスコードを諦めはしないだろうし、彼女がそれを持っている以上は何度でも襲ってくるだろう。

 その一方で、巨大な竜胆財閥自体をどうにかするのも無理難題だ。所詮一個人である彼らにどうにか出来るような存在ではない。


「それなら、あたしらの所に来るってのはどうだい? あそこだったら、奴らの手は及ばないからね」


 悩む彼らに、ルイが背を向けたまま自分達のアジトに来たらどうだと誘いを掛けた。確かに彼女の言う通り、行政の手すら及ばないスラム街の中なら竜胆財閥もそう簡単には手が出せない筈だ。

 しかし、そんなルイの提案にもアラタは難色を示す。


「確かに竜胆財閥の手は及ばないかも知れないが、そもそもスラム自体が危険だろう。そんなところにミリアを置いてはおけない」

「そうか、それは残念だよ……のこのこ来てくれたら、手間が省けたんだけどな」

「何?」


 ルイの発した不穏な台詞に、アラタが気色ばんだ。だが、そんな彼が行動を起こすよりも早くルイは振り返り、いつの間にか手に持っていた拳銃をアラタの額へと突き付けた。


「ルイ、何をっ!?」

「っ!?」


 ルイの突然の行動に、スタンロッドを抜こうとしていたアラタと隣に立っていたミリアは共に驚愕の表情を顔に貼り付けながら硬直した。


「おっと、懐からゆっくり手を抜いて貰おうか。ついでに、左手に持ってるブツをこっちに寄越しな」


 ルイは左手で銃を突き付けながら右手で手招きするように、アラタの持っている専用端末を引き渡すように要求する。

 アラタが仕方なく端末をエレベータの床へと置くと、ルイは二人から視線を外さないようにしながらそれを手に取った。


「あとはアクセスコードだな。お姫様、王子様を殺されたくなかったら、素直にアクセスコードを言いな」


 専用端末を手に入れたルイは、アラタの額に銃を突き付けながらミリアへと脅迫の言葉を向けた。普段無表情の彼女が目に見えて動揺しており、ルイの脅しが効果を為していることを表している。


「裏切るつもりか?」

「裏切る? そもそも、あたし達は利害関係の一致から一時的に協力していただけだろう。それに、別に奴らに寝返ったわけでもない。単に、あたしら『気高き狼』もコイツが欲しいってだけの話だ」

「そういうことか……っ!」


 彼女の言動から狙いが理解出来たアラタは、こうなることを予期出来なかったことに歯噛みする。


「どういうこと?」


 一方で、未だに理解が追い付かないミリアは戸惑いを浮かべている。


「彼女は……いや、『気高き狼』はあの端末からシステムの中枢にアクセスし、システム自体を破壊するつもりだ」

「そんなっ!?」

「流石、改竄犯罪取締官様は頭が回るな。そういうことだ。システムにアクセスして改竄出来るなら、システム自体を止めることも出来るだろう」

「最初からそのつもりだったのか」

「勿論、そうさ。あたしらレジスタンスの悲願が、これで叶えられるってわけだ」


 狂気の笑みを浮かべて陶酔した表情になるルイに、銃を突き付けられているアラタとミリアの背に冷や汗が流れる。


「さぁ、そろそろ一階に着く。答えを聞かせてもらおうか。言っておくが、ハッタリだと思ったら大間違いだ」

「ま、待って! 言う、言うから……」

『それは良かったです。彼を使えば、質問に答えてもらえるようですね』

「何っ!?」


 ミリアがアクセスコードを口に出そうとした瞬間、エレベータ内のスピーカーから第三者の声が聞こえた。その声に、ミリアは聞き覚えがある。竜胆の配下であるシオンの声だ。

 直後、エレベータは機械音と共に一階へと到着した。左右の扉が開き露わになったそこには、拳銃を構えた黒スーツの男達が十人以上待ち構えており、その先頭には金髪の少女シオンの姿があった。彼女の耳と口元にはヘッドホンとマイクが付けられており、おそらくあれでエレベータ内のアラタ達の言葉を聞いてスピーカーから声を発したのだろう。


「お話の続きは上で聞かせてもらいます。折角降りて来られたところ申し訳ありませんが、上に戻ってもらいましょう」


 拳銃を持った大勢の男達に囲まれて両手を挙げた三人は、有無を言わさないシオンの言葉に従って先程居たフロアに逆戻りすることになった。

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