四の冬
静葉と緑が出会ったのは、この屋敷の縁側だ。
時は夏、木々が青々と茂る頃合い。
緑は人間の匂いを頼りに、山を下りた。
腹が減っていたのだ。
だから人間を脅かして食料と銭を盗ろうと思い、静葉の屋敷を見つけた。
静葉は庭の夏草を眺めていて、塀を跳び越えてきた俺に気付く。
金の髪だ、すぐに異端だと気付いたろう。
だが静葉は俺を見て驚きはしたが、追い出そうとはしなかった。恐かったからではないと思う。
たぶん…静葉は淋しかった。
詳しい境遇は知らない。でも静葉は、ずっと独りだった。
夏草も紅葉も雪も桜も、独りで眺めている日々。
俺はなんだかほっておけなくて、だから歌を覚えて詠み始めて――
つまり、こんな勝負事になるのは不本意なんだ。
鬼黄との歌合わせは三日後。題は、紅葉。
あんなに堂々と振ったくせに、勝負を受けるのは俺。
…おかしいだろ。
「そこは師匠がやるべきでしょう、弟子の買い言葉は師匠が受ける!」
…だからソレおかしいだろ。
静葉は歌合わせを知って、鈴のように笑う。
「では緑が真剣になってくれぬと、静葉は盗られてしまうね。こわいこわい」
笑う静葉。俺は腹が立ってはいたが、静葉の笑顔に安心していた。
よく笑う女になったもんだ。
御簾の奥で笑う静葉と、縁側に腰掛けて笑う春輔。
この屋敷も暖かい雰囲気になったものだ。
俺は庭の木にもたれながら、紅葉を眺める。
また静葉のために、良い歌を詠もう。
「師匠、どうです。紅葉は」
縁側に腰掛けていると、春輔が嬉しそうにやってくる。
静葉も慣れたものになってきた。
御簾の奥で共に歌を詠んでいる。
「いい頃だな。つーか師匠ってやめろよ。
…静葉と同じく、緑でいい」
「あら、緑がそう言うなんて、はじめて」
静葉が驚く。
照れ臭さを隠すために、春輔に紙を押しつける。
「春輔、お前が最後の歌を詠め!」
「ええ、だって私はまだ…」
「詠まないなら、俺が静葉を連れていくぞ。
…俺も、鬼なんだからな」
春輔の目が真剣になる。
意識的に緊張させることが必要だった。
春輔はすぐおちゃらけてしまうから、本気にさせないと。
それに……
二日目の夜。静葉が俺を呼んだ。
月を眺めていた俺は、すぐに縁側に跳ぶ。
「…どうした、不安なのか?」
静葉はふるふると頭を振った。
月に映える黒い髪。妖艶な雰囲気も手伝って静葉はぞくぞくするほど、奇麗。
す、と俺の手を握る。暖かい、ヒトの感触。
「静葉は、緑に感謝しておる」
暖かく、やわらかい感触。
「緑がいてくれたから、今までの幸せがあった」
きゅ、と握られる。
「ありがとう、緑」
俺は泣きそうになる気持ちを押さえる。
静葉の言葉どこか重かった。
きっとその言葉には、俺の知らない過去の哀しさが含まれている。
淋しい気持ちを、たぶん静葉も隠している。
「静葉が笑わなくなったら、俺がさらいにくるからな…
…ちゃんと笑ってろよ」
静葉は笑う。俺も、笑った。
さぁ、明日が勝負の日だ。




