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無題  作者: 入表 山猫
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前略2

学校内で聞こえたカラスの鳴き声はいつの間にか止んでいた。今は帰宅する学生は自分達だけになり少し寒々しい風が吹き、落ち葉がかすれる寂しい音が聞こえるだけだった。


「あーっ、寒い!去年はまだ暖かった気がするのに。」


「去年は冬の入りが遅かったし、天気は曇りが多かったしね。」



「...なあ、確かに去年はニュースでも冬初めは12月だったし暖かく曇りが多かったけど、昼間はむしろ曇りだと冷えるじゃなかったけ?夜は知らんけど」


そ、そうなのか。ちなみに自分よりトオキは頭がいい。

それをごまかすように確かに三日前に聞いたことを訊ねる。

「そういや、トオキのかの...」そう言った瞬間、トオキはやっぱり気になるよねと言いたげな顔になり、水を得た魚のように一気にしゃべった。


「俺の彼女は金髪でその輝きは太陽に勝るとも劣らない美しさで蒼き瞳は全てのものを魅了するほどの暖かさと神々しさ。そしてなんと言っても全てを包み込むような包容力、彼女の心から迸るような....」


いくら心の許せる友人だとしてもさすがに、比喩ではなく耳が痛くなってきた。

やっぱり三日間前と同じようなこと言ってるな。

この友人のトオキを簡単に説明すると、女好きである。しかし自分ルールのようなものがあるらしく、修学旅行で京都に行った時露天風呂にて女湯に行かなかった。

その時は少し驚きを感じた。彼が堅物という訳でなく勿論男好きという訳でない。

旅行後、彼に聞くとそんな卑怯な真似はするつもりはないとのこと。ただ修学旅行に行く数週間前にクラスの女子達が覗きは下劣だとか卑怯だとか風上にも置けないだとかそういうことを小耳に挟んだらしいが。

あっ、モチロンジブンハオンナユヲノゾクナンテヒキョウナコトシテナイデスヨ。


半分上の空で適当に相づちしているが、当の本人のトオキは気付いた素振りを全く見せず、まだ自分の世界に浸っている感じで自分の彼女について話して

「・・・そして黄金のような肌に体格も鋭くシャープ!それらが合わさりさい・・・」

いた。


前々から彼女が出来たらこんな感じなると予測はついたが、出来ればこんな予測外れてほしかった。


もうそろそろ彼女自慢だか説明だかなんやらが一周するな・・・

ちょっと待って・・・金髪で蒼い瞳?


三日前の記憶を思い出しながら延々と喋っていたトオキに割り込むように話した。

「・・・そんでもって彼女は」


「なあトオキ聞き間違いかもしれないが、金髪で蒼い瞳て言ったよな?」


「えっ、あ、ああそうだよ。ヤナギも一目見れば気づくはずさ、まるで宝石のような・・・」


「三日前さ、トオキはたしか・・・銀髪で赤い瞳の彼女が出来たと言ってなかった?」


「えっ、ああ。確かに三日前お前に自慢してたが・・・ん?」


トオキは歩みを止め、頭を書きながら少し気まずく

「ごめんごめん、同じ話してた?」


それについちょっと笑って

「あはは・・・



はぁ、そんなこと前々から知ってたよ。トオキが女性のことでループするのはね。」


「例えば、トオキの兄のことでさ。アイドルがどうのこうのでとかなんとかとか。今は慣れたけどさ、いくら話聞いてくれる友人が少ないからってさ。」

それを少し暗い顔で言ってると


トオキは本当に申し訳ない顔になり


「ごめん、こんな話話せる人少ないんだ。」


「分かってるよ、それに親友に相談されてるって逆に言えばそれは信頼していることだよね。」


そう言うと

さっきまでの気まずそうな顔は一気に晴れ、つい少し前に彼の彼女のことについて話してた時みたくなった。


彼には兄がいて、トオキだけでなく、兄も女好きという・・・

兄は俗に言うアイドルオタクである。

すっ・・・ごくどうでもいい話であるが、話が噛み合わなく取っ組み合いになったらしい・・・。

話を聞くにトオキが某アイドルのことを青蕪と言ったのがきっかけと思われる。


ちなみに、慣れていなかったのは耳のほうである・・・


おっと、違う違う

「・・・そっちじゃなくて銀髪で蒼瞳って言って・・・」


「んー。そんなこと言ったかな。聞き間違いじゃないか?蒼瞳は合ってるけど。」


そう言われても府に落ち・・・いや案外聞き間違いかもしれないトオキの話聞くのが慣れたし(聞き流すのが上手くなったとも言う)


「それはそれとしてヤナギあいつどうすんだよ。」


あー、そろそろ家に着くな。両親はまだ仕事で大阪に出張しているからまたばあちゃん(ちょいケチ)と慎ましく夕食かな。ばあちゃん料理上手いけど和食しか作らな・・・


「まあ、聞こえないフリするのも分かるけどさ、もうそろそろ引っ越すだろ。」

カサカサ、サクサクとじゅうたんのように敷かれたような落ち葉の踏まれた音、時折風によって落ち葉が舞い落ちる音しか聞こえない。

そう、ここまで来るとばあちゃんが待っているであろう自宅は次の角を右に曲がると着く。


「今日木曜日だったよな、また明日」

と逃げるように角を曲がると後ろから


「金曜ってことは明日行ってしまうぞ。心残りになるぞ。だから言ったじゃないか。うだうだするより行動だって・・・」


いや、分かってるつもりなんだけど・・・


トオキに八つ当たりするわけにもいかず、少し歩きを早め、その場から去る。


風の冷たさを肌で感じながら・・・


どうにか・・・ならないかなと考えながら・・・

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