プロローグ2
出発して1時間ぐらい経ったけど・・・腰が痛い。
ゲームだった時も馬車はあったけど、痛みとか無かったから良かったけど、現実だと結構辛いな。
まあ、それは仕方ないけど・・・お腹すいたなぁ。よく考えたら、こっちに来てからまともに食事してないし。
えっと、何かあったと思うけど・・・・・・あ、あった。
僕が出したのはドーナッツ。
基本的には、HP回復用アイテムでもあるんだけど、美味しいからプレイヤーの中じゃ効果とか関係無く、ただ食べてる人も結構居た。
「はい、ダン」
「ん、サンキュウ」
いっただきま~・・・・・・ん?
「(じ~~~・・・・・・)」
見てる、メアリちゃんがメッチャ見てる。
これは、もしかしなくてもドーナッツが欲しいんだな。
「はい、どうぞ」
「(ぱあぁぁ)ありがとう、お姉ちゃん」
「どういたしまして」
そう言うと、メアリちゃんはドーナツを渡した。そしたら、凄く可愛く笑顔を浮かべながら食べてる。
なんか、こういうのって癒されるな。
・・・・・・? 馬車の外が騒がしいな。何かあったのか?
「た、大変だ!『ベルハウン』の群れが襲ってきた!」
ベルハウンってレベル30位のモンスターで、レベル的に言っても下の上。
低レベル時の最大の壁だけど、それ以降はほとんど雑魚扱いになる。でも変だな。あいつらは深い森にしか出現しないから、この辺には生息して無かった筈じゃあ・・・
「やっぱ、1000年も経ってたら、生態系も変わるんだな」
「・・・みたい」
僕の表情を読み取ったみたいで、ダンが僕にそう言ってきたど・・・・・・
ベルハウン位なら騒ぐほどじゃない気も・・・いや、今の世界の人間のレベルとスキルはかなり低い。実際に、この馬車を護衛してる人のレベルは平均で25位だ。
だとしたら・・・
「ベルハウンでも充分に脅威、って事か!」
ダンが叫んだ。
「っく、来たぞ。もっと早くならんのか?!」
「無茶言うな!これで精一杯だ!」
「っく、止むを得ん。迎撃に入る!全員何かに捕まってろ!」
騎手の人とか護衛の人達が言い合ってるけど、捕まるって、うあっ!
い、痛い。頭打った・・・・・・。
「このっ」
う、うう・・・ぶつけた頭を摩りながら発砲音の方を見ると、馬車に居る人達は、銃身の長い銃を撃ってるけど威力が低いのと、狙いが甘い所為で、中々ベルハウンは死なない。
そうしてる内に、1体が一気に馬車に迫ってきた。
でも、僕は別に慌ててなかった。だって
「ギャウン・・・」
一発の銃声と共に、馬車の目の前まで迫っていたベルハウンは倒れ、錐揉みしながら転がって行った。
馬車に乗ってた他の人達が、銃声のした方を向くと、そこには右手には黒色の、左手には白色の拳銃を握ったダンが居た。
ダンは、ベルハウンが現れてた時点で、既に双銃『魔聖双曲』を構えてた。そして、迫って来ると同時に頭を1撃で打ち抜いてた。
ダンが使った『魔聖双曲』は銃の中でも最高レベルの装備。
以前に、2人でクリアした特殊イベントの景品で、ゲームの時でも持ってる人はほとんど居なかった。
「あ、あんた・・・一体・・・」
護衛の人が驚いてる。まあ、そりゃそうだよね・・・って、次のが来た、けど
「ギャッ」
次のもダンが1撃でまた仕留めた。
まあ、レベルを考えれば当然だけどね。
っ! マズイ! あっちの馬車が襲われてる。流石に僕も見てるだけ、って訳にはいかないな。
「【ブルースト ウェント リア ホプス】 『蒼風の声』」
僕は、馬車から身を乗り出して杖を構えて魔法を放った。僕の放った風の塊は、馬車を襲っていたベルハウンを1度に2体吹っ飛ばした。よし、残りは8体。
それでその内、こっちに近付いて来てるのは5体。
あ、向こうの馬車に乗ってた人が唖然とした表情で、こっちを覗いてきた。
って、今はそんな事はどうでも良っか。
それよりも・・・
「俺が近付いてくるのを潰すから、リリィは残りの3体を頼む!」
あら、先に言われちゃった。まあ、良っか。とりあえず・・・
「了解!」
そう返事をして、僕は遠くに居る3体に狙いを付けると
「【セリア ウェント アス アス ストラスト】 『猛き風の導き』」
魔法が発動すると、幾重もの風が矢の様になって放たれて全てのベルバウンを絶命させた。
「ダン、そっちは・・・って聞くまでも無かったね」
ダンは全部のベルバウンを仕留めてた。
えっと、もう大丈夫かな? 他の人は怪我してないよね?もし居るなら回復魔法をかけなきゃいけないけど・・・・・・
「あの~、怪我はありませんか?」
「あ、ああ。だけど、今のは・・・・・・」
怪我をしてる人は居ないみたいだけど、あ~、どうしよう。このままだと厄介な事になりそな気がする。
う~ん、どうしたも・・・・・・
「あの!」
「ん?どうしたの?」
「助けてくれて、ありがとうお姉ちゃん」
っ! やばい。今スッゴク嬉しい。
現実じゃ、こんな風に感謝されないから余計に嬉しい。
あの後、メアリちゃんのお蔭で僕達への追及は無くなった。
そして、それからは何事も無く馬車は進んで行き、夕暮れになると止まった。
「それじゃあ、ここで野営をする。周囲にはモンスターが居るだろうから、動き回らないようにな」
護衛の中でリーダーっぽい人が皆に言ってる。
まあ、僕とダンなら出歩いても平気だろうけど、疲れたし、何というか、もう今日はあんまり歩き回りたくないからね。
「ダン、どうする?」
「ん? 取り敢えず、飯が出来るまで寝とく・・・・・・」
「すまないが、ちょっと良いかね?」
ん? 誰だろ?
・・・あ、確か僕達が乗ってた馬車の護衛の人だ。
「何ですか?」
「いや、先程の事の礼を言おうと思ってね。君達が居なければ、怪我人が出てた。いや、もしかしたら死人すら出ていたかもしれない。本当にありがとう」
「あ~、別にそこまで大した事はしてないぞ」
ダンが、頭を掻きながら素っ気なく言ったけど、ありゃ嬉しいんだろうな。まあ、僕も嬉しいしね。
「それで、出来れば君達にも護衛をお願いしたいんだ。勿論、お礼はさせてもらうよ」
「・・・・・・どうする?」
「まあ、良いんじゃねぇ」
即答な上、軽いな。ダンらしいといえば、らしいけど。
まあ、反対する理由もないから別に良っか。
「そうか、それじゃあ明日からよろしく頼む」
「はい、よろしくお願いします」
そう言うと、他の人の所に行った。多分、今の事を伝えに行ったんだと思う。
護衛だったらクエストで何回もやった事があるから大丈夫だよな。それにモンスターのレベルも低いし。
「それはそうとリリィ」
「ん? どうしたの? ダン」
「腹が減ったから何か作ってくれ」
「ああ、了解。ちょっと待ってて」
そう言って僕はアイテムウィンドウから『料理セット(野外版)』を出した。これは、野外で料理をする為のアイテムで包丁やまな板、鍋といったアイテムが一纏めになった物。
えっと、この材料なら・・・・・・うん、シチューにするか。
まずは野菜と肉を切って、おおっ!凄い。リアルじゃ料理なんて全く出来なかったのに、手が面白いように動く。
よし、次は炒めなきゃいけないから火を起こして、炒めて・・・・・・・・・・・・煮込んで・・・・・・・・・・・・はい、上手に出来ました!
おお!良い匂い。ゲームの時はここまで匂いはしなかったからな。
後は、皿に盛りつけて。
「ダン、出来たよ」
「ん、おお~、やっぱゲームの時よりも上手そうだな。それじゃあ、頂きます」
僕の傍で寝てたダンを起こして料理を渡したら、早速食べ始めた。僕もお腹空いたし、
「頂きま~す。・・・・・・うん、自分で言うのも何だけど美味しい。料理スキル上げといて正解だったな」
「ああ、確かに名。それに現実でもこんなに美味いシチューは食べた事が無い。んぐ、全く、リリィが居なかったら、どうなってた事やら」
「そこまで言ってもらえるなら、作った甲斐があるな・・・・・・ん?」
背中側から視線を感じるような・・・・・・って
「メアリちゃん? どうした・・・・・・って聞くまでも無いか」
「ふぇっ!? あ、あの(きゅ~~~う)////」
「ぷっ、くく。はい、メアリちゃんもどうぞ」
「良いの!?」
「うん、これでお腹の虫を静かにさせると良いよ」
「う、うん。ありがとう」
僕に指摘された途端に顔を真っ赤にさせたものの、シチューが入った皿を渡されたら、ドーナッツの時以上の笑顔になって、お母さんの所に走ってた。
やれやれ、転ばなきゃいいけど・・・・・・
う~ん、ご飯は食べ終わったし、食器とかも片付けたし、何をしようか・・・・・・
「あっ、お姉ちゃん」
「ん?ああ、メアリちゃん。どうしたの?」
「あのね、この近くに川があるんだって。だから、今から皆で行って綺麗にするから、お姉ちゃんを呼びに来たの」
「綺麗にって・・・・・・つまり、僕も一緒に?」
「? うん、そうだよ。お母さんが言ってたの。女は常に体を綺麗にしないといけないって。だから一緒に行こ」
いや、待て待て待て。
皆でって事は他の女の人も居るんだよね?!
だとしたら、流石に不味いって。見た目は女でも中身は男なんだよ?!
それに、この体だって、厳密に言えば僕の体じゃ無くて、『リリィ』の体なんだよ。つまりは、他人の体。
それを見たりしたら・・・・・・・・・・・・うん、正直、冷静でいられる自信が無いな。
ここは、断ろう。
「あ、あのね。僕はちょっと・・・・・・」
「えっ!? お姉ちゃん、行かないの?(ウルウル)」
っぐ、そんな涙目で見ないでくれ。そんな目をされても・・・・・・
「(ウルウル)」
されても・・・・・・
「(ウルウル)」
はぁ~~~~
「・・・・・・うん、行こっか」
「(パアァァ)うん、私がお姉ちゃんの背中を流してあげる」
「は、はは。そ、それは嬉しいね」
僕、大丈夫だろうか?・・・・・・・・・・・・