淳助のつま
「いちいちお前はうるさいのだ」
淳助は若い妻の髪をつかみ、放り投げてゴミ箱に捨てた。
どうやら酒飲みの勘にさわったらしく、淳助はなんどもなんども妻の頭を蹴った。
そういうことをされても妻は抵抗をするでもなく、テエブルの湯飲みのふちを見つめながら、ただ、なすがままにされていた。
しばらくすると、妻の腹が大きく膨れてきた。淳助は、これはとうとうやりすぎてしまったかと思ったが、妻の腹の尋常ではない膨れ具合にとうとう玄関口まで走って逃げてしまった。
パンパンに膨らんだ妻の腹は破裂し、その血が居間を、台所を、洗面所を、埋め尽くした。
もちろん淳助にもその血がかかったが、彼にそんなことを認めるすべはなく、ひいい、と悲鳴を漏らすだけであった。
あふれかえった血の中で、妻は叫んでいなかった。その眼は狂気を帯、かっと見開く。そのまなざしは、獲物の喉笛にかみついた虎のそれだった。さらに悲鳴を上げる淳助に、妻の腹から飛び出した無数のとげが刺し貫いた。
公僕が騒ぎを聞きつけて血まみれの家に駆け付けたとき、妻の姿は見つからず、そこには淳助だけが、こたつで失禁し、高らかに笑っていたということである。
マジラ総合病院の精神科に、また一人新しい患者が運び込まれた。