あの日、声をかけてくれた君は
「〇〇ちゃんと話してみたい」
それは確かに私の名前だった。
この声は、あの海馬くん?
正直言って苦手だ。
目つきが鋭いし、何を考えているのかわからない。
なんでよりによってこの人なんだろう。
でも、このクラスになってから半年くらい経つのに、
海馬くんとはほとんど話したことがない。
話したいとも思ってなかったし、
いつも同じ人としかいないイメージ。
他の人と仲良さそうに話してるのも見たことがないし、
女子と喋っているところなんて、全然見たことがない。
海馬くんの席は、私のすぐ後ろ。
話せない距離じゃないのに、どうして話しかけてこないんだろう。
そう思い始めてから、ずっと気になっていた。
「ガチャン」
背後で物音がして振り返ると、ハサミが落ちていた。
海馬くんが落としたんだろう。
拾って渡すと、
「ありがとう」
その声は、思っていたよりずっと優しくて、甘かった。
ちゃんと声を聞いたの、初めてかもしれない。
キンコーンカーンコーン。
授業が終わった。
まだノート書けてないし、最悪。
トントン、と肩を叩かれる。
振り返ると、海馬くんがノートを差し出していた。
「これ、見る?」
突然で驚いたけど、困ってたからありがたかった。
「え、いいの。ありがとう」
ノートを受け取って、思わず聞く。
「なんで貸してくれたの?」
「書き終わってなくて困ってそうだったから」
淡々とした声。
でも、ちゃんと周りを見てるんだって思った。
すごいな、って思っていると——
「話したかったし」
ボソッとそう言った海馬くんの頬は、少し赤くなっていた。
その日から、海馬くんと話す機会が増えた。
授業でわからないところを聞いたり、
どうでもいい話をしたり。
最初は見た目で避けてたけど、
話してみると、海馬くんはよく笑うし、
楽しそうに会話してくれる。
楽しい。
こんな時間が、ずっと続けばいいのに。
気づけば、頭の中は海馬くんでいっぱいだった。
声が、ずっと頭の中で響いている。
どうしちゃったんだろう、私。
今までこんなことなかったのに。
「なぁ、俺〇〇ちゃんのこともっと知りたい」
急にそんなことを言われて、戸惑う。
私も知りたい。
でもこの流れって——
もしかして、告白?
海馬くんからしてほしい。
私のこと、どう思ってるの。
ただの友達?
「そんなわけない」
はっきりした声だった。
「俺は〇〇ちゃんのことが好き」
まっすぐな目で見られて、
胸が一気に熱くなる。
嬉しくて、その場で飛び跳ねてしまった。
それからは、授業中も海馬くんのことばかり考えてしまう。
会話は今までと変わらないのに、
全部が少し特別に感じる。
この人を好きになってよかった。
心から、そう思った。
海馬くん。
私の視界に入ってきてくれてありがとう。




