3 準備完了
5、
4、
3、
2、
1、
…………はよ鳴らんかい。
――――キーンコーンカーンコーン
定時のチャイムが鳴った!
内線用のPHSの電源を切り充電台へ置く。
自分用のノートPCの電源を切る……はよ切れろ。
――切れた。
ノートPCをデスクの中に入れて施錠する。
「お疲れさまでしたー、お先に失礼いたしまーす」
笑みを浮かべておじじ達に挨拶する。
「お疲れーーー」
異口同音でみんな返してくれる。
なんだかんだ言って働きやすい職場なのだ。
事務所を出た私は大急ぎで更衣室へ。
とは言っても着替えるわけではなく、会社の上着を脱いでコートを着るだけだ。
今は3月初旬。
まだまだ夕方は冷える。
更衣室を出た私は、猛ダッシュで従業員玄関へ向かう。
タイムカードをサッと切り、靴を履き替えると従業員用駐車場へ急いだ。
車に乗り込むと、あまりの肌寒さにひと震え。
――しまった、アプリでアイドリングしておけば良かった。
そう。
最近の車はリモートスターターではなく、アプリで暖機運転が出来るのだ。
あまりにも気が急いていたため、完全に忘れてた。
ええい、行くぞわたし。
寒さを我慢して車のアクセルを踏む。
早くコンビニに行かねば。
会社の駐車場を出た私。
しかしそこで待っていたのは渋滞だった。
今日は水曜日。
ここら一帯は全て関連会社なのだが、水曜日は「定時の日」となっていたため、帰宅車両が信号機の無い十字路に殺到し、帰宅難民と化す時があるのだ。
よりによって今日かよ。
「ちっ」
人様には見せられないような舌打ちをするも、仕方が無いので大人しく車が進むのを待つ。
…
……
………
…………やっと十字路まで来た。
直進しようとした時、信号機の無い交差点のため右側から車が割り込んできた。
「ちょ……左方優先でしょうがあ!」
思わず車内で叫ぶ。
たぶん傍から見たらすごい形相をしていたと思う。
美人が台無しである。
がるるるっと今にも嚙みつきそうにその車を見ると、よほど怖かったのか後部座席に乗っていた小さい男の子が涙目になってこちらを見ていた。
……いかんいかん。
私は鬼の形相から満面のスマイルに切り替えて、その男の子に美人の笑顔をお見舞いしてやった。
するとその男の子は余計に強張った表情のまま、車は目の前を通り過ぎて行った……。
はぁっと大きくため息をつく。
いかん。いかんぞ。
急いては物事を仕損じる。
そなたはこれから戦国の世に行くのだ。
落ち着け落ち着け……。
この付近に居る人々の中で(世界中でだけど)、こんな訳の分からない事を考えているのは私だけであろう。
そう考えるだけで可笑しすぎて笑える。
そうこうしていると無事にコンビニに到着し、兵糧丸ならぬシャケのおにぎりと、どぶろくならぬ柚子のチューハイ、梅干しならぬキムチを買うと、家へ向かった。
帰宅するや否や、まずは腹ごしらえである。
買ったシャケのおにぎりをほお張り、チューハイ片手にPCを立ち上げる。
モニタを見つめながらキムチを肴にチューハイをぐびぐび飲む。
すると、PC立ち上がった。
飲み干したチューハイの空き缶をゴミ袋に捨ててキムチを冷蔵庫へ入れると、ゲーム用の椅子に座り、ヘッドセットを頭に装着した。
ドキドキする。
お願いだからうまくいってよね……
さぁ、いよいよ冒険の始まりである。




