第七十一話 愛しい人のファイヤーウォール
第七十一話 愛しいひとのファイアーウォール
月曜日の最終練習、火曜日の本番試験の事はもう何も考えない事にした。
週末にはのんびりしようと思う。
アルマゲドンが来る訳でもあるまいし、就職駄目ならタイメーがある。
六十歳から貰う年金までしのげば良いだけだ。
恥ずかしがらずに、早苗ちゃんにも働いて貰えば良いし、保険で、古物商の免許も取る事にした。
もちろんプログラマーになったら、研修後は、専念して、気合いを入れて働かなければならない。
今まで、雨の中風の中、台風の日だってびしょ濡れで郵便配ったり、立ちの悪い客に怒鳴られたり、ごねられたり、交通マナーがどうのこうのと言われて、
「動画撮ったからな」
とか、ごちゃごちゃ通報されながらも、良く三十年も耐えて来た事を思えば、冷房暖房の効いてるオフィスで働けるなら、何とかやってイケるはずだ。
そりゃあ、人間関係などエグいかも知れないが、うっとかったら辞めりゃあーしまいだ。それなら、それで、ヒモになって印税十二円を万倍くらいまで持って行ってやる。
それだけ渡せば、物書きでも許してくれるだろう。とにかく考えても意味がない。現実に立ち向かうしかなかったのだ。
最悪、郵便局に戻ると言う手もあった。実は、内勤のバイトをお断りされてしまったが、配達のバイトなら雇って貰えるはずだ。人が全く足りていないのだから。
それと、バイトなら一局断られても他所の局に行けば良いだけの話だ。
日本国中、人が足りていないのだから。
郵便局を裏切って、“山猫クロト”に行った後輩に、
「山谷さん、いつでも社員で迎え入れるよぉ〜」と、元局員に誘われた事もあったし、それくらい物流業界人手不足なのだ。
更に今更、別に何でも何処でも働くから、落ちても良かったのだ。
土曜日の朝、早く目が覚めて、早苗ちゃんの顔を見ながら考えていた。
(朝ごはん、どうしよう 笑笑)
いっちゃんも開き直れば、楽観主義者に変貌するのだ。更に
(味噌汁飲みたいなぁ〜)と思っていると、
「お味噌汁、温める?!」と急に目を開けた超能力者の(笑笑)早苗ちゃんに言われてしまった。
「トーストも食いたいんやけど」
「あるある」
と言って早苗ちゃんは、朝ごはんの準備をしながら、
「ねえ、途中までの卒業のプレゼンの資料と、プログラム見せてくれる?!」
と早苗は急に言い出した。
「いっちゃんが言っていた。クリスタルの言葉って、学校のファイアーウォールに引っ掛かるんぢゃない?! 昨夜いっちゃんが帰って来る前に、ジェミニっ子が言ってた」
早苗ちゃんは、卒業プレゼンまで心配してくれていたのだ。
「Crystal!! そうか、なんか聞いた事あるぞ、メタンフェタミンだろ?!、でもそんなんで引っかかるんかよ」
「日本の学生は知らんけど、外国の学生の、お薬の取り引きは深刻みたいね、その流れなんぢゃない?!」
「しょーもな」
「いっちゃん、学校のファイアーウォールはね、個人情報はもちろん、学生の安全の為の最強のファイアーウオールよ、たぶん、先生だって突破出来ないわ、フラッシュメモリーとかで、家から持って行って、ファイル名変えても良いけど、それぢゃあ、いっちゃんらしくないわね、そもそも普通にアナログにしちゃえば?!I2Cのシステム使う必要ある?!
今は、温度センサーの表示すら出来ないんでしょ。そもそもコンパクト化するにしても結構矛盾してるわよ、ラズパイ直でやれば良いのに、何でアルディーノを更にくっつけて使う意味があるの?!
やってみたかったのは凄い大事よ、いっちゃんはプログラマーとしては、まだまだ生まれたての子供と同じだから、学習してくのは凄い大事なんだけれどね」
そう言えば早苗ちゃん自体、エンジニアだったのを忘れていた。大手のITの会社に行ってるが、受付や事務員では無かったのだ。
「ぢゃあ、どうすれば?!」
「それを考えんのはいっちゃんでしょ?!」
早苗ちゃんは、一瞬意地悪な顔になったが、また優しい顔に戻った。
「とりあえず見せてみて?!」
で、書きかけの資料を渡した。
失敗しても、事実の経過プロセスでレポートはすぐに出せるように、いっちゃんはリアルタイムで顛末を書いていたのだ。
続く〜




