第六十六話 人生のデバッグ
第六十六話 人生のデバッグ
いっちゃんは、ショックだった。
今まで、いや、一生変わる事のない夢見がちな性格は、別に悪い訳ではない。
むしろ、鬱病が蔓延する今のあまり良くない雰囲気の時代には、必要な性格だ。
早苗ちゃんに、殆どの生活費を出して貰っているのに、他人様の卒業式や入学式を心配するなんて、いっちゃんは、やっぱり馬鹿で、地に足が付いていないのか?!
お化けアパートに帰ってきて、夜中に目が覚めたいっちゃんは、社長に貰った古酒のナポレオンを、紙タオルで越してロックグラスに入れて、叩き割った氷を入れて飲み出した。五十年以上や、百年超えるウヰスキーや高級酒には、時々小さいゴミなどが下に沈殿しているのだ。
ほんの少しだけなら良いが、大量だと、もうコレクターにしか売れないので、持って帰ってもいい事になっているのだ。
コルクが浮いてると最悪で、もう飲めない。味がまったく変わるのだ。
開ける時に入ったコルクは、綺麗に全部取り除いて、一日、二日経てば、殺菌されてまた飲める様になるが、それが正しいのかはわからない。いっちゃんが勝手そう判断しているだけだ。飲める程度に戻るのも、また事実だった。
「は〜ぁ」
お化けアパートの薄明かりの中でいっちゃんは、ため息をついた。
以前、昔の彼女に、
「ため息つくと幸せが逃げるよ」
と言われたのを想い出した。
かすかに鳴るロックグラスの音で早苗ちゃんは寝返りをうった。眠っているのか起きているのか、いっちゃんは全く気にもしてなかった。
早苗ちゃんは急に振り向いて、
「売ってもいいんぢゃない?!一回くらい。しょっちゅうやると、ただの阿保か偽善者だけど、宗教も自己満足だから救われるのかな?!
自分自身の辛さを浄化出来なければ、他人を幸せにする事なんか出来ないわ。だから布教活動するのかしら?!
解放された人間は、今度は余計な事をする。まさにいっちゃんね。あたしが経済的に解放してあげたら、今度は調子こいて余計な事をする。笑笑 でもね、少しくらいは良いよね、いっちゃんの幸せが戻って来て溢れたら、他人に分けてあげてもいーかもね」
早苗ちゃんは今、母親より怖かった。
似非哲学者を気取ってるいっちゃんは恥ずかしくなった。
しかし、何故か小さいゴミを越したナポレオンは、美味しかったのだ。
いっちゃんは、固まってしまった。涙も出ない。
「早苗ちゃんには負けるわ、恥ずかしくなった」
そう言うと、二人で笑ってしまった。残ったナポレオンを、早苗ちゃんは横取りして、グッと飲み干して、いっちゃんを引っ張り込んで、抱きしめて、眠ってしまった。
「早苗ちゃん、痛いよ」
「ふふふ」と言って二人は、睡眠体制に入った。
お化けアパートの天井は、昔のオーナーが意地で綺麗して、モダンな作りだった。
次の日の朝、いっちゃんは、早く起きて早苗ちゃんに、
「学校に行ってくるよ」と言って、梅田へ向かう阪急電車の駅に向かった。
改札を抜けて、朝の満員電車の中に飛び込むと、
「フーッ」息を吐いた。
電車が勢いよく走り出したのだ。
コンパイル完了!!
続く〜




