第六話 大将
第六話 大将
大将は、修行時代は、結構頑張ったらしい。自分より一個上で、同じ世代なので、バブルも経験している。
小僧の頃は、洗い場ばかりで、当時は、何かと良くしばかれたらしい。昭和だ。
それでもシャリを炊く頃には、客相手も上手になり、当時は客がチップを良くれたし、大阪北新地の店で働いていたので、給料も良くて、食うには困らなかったが、給料は殆ど、同じ修行中の先輩と二人で、芦屋や、東京まで出張して、有名店の寿司を食べ歩いたらしい。
沢山の寿司屋を廻ると、何も有名店ばかりが、良い寿司を出してくれる訳ではないと気づいてからは、口コミで聞いた店や、洋食の店まで通って勉強したらしい。
それで店を何とか、30歳になった時に、先輩とは別々に兄弟店を出したらしい。
そして、開店の日に、偶然、昼休みに来てくれた近くの会社の女の子と結婚して、店も大きくしたが、ある日息子と嫁に店を任せてこの街にやって来た。何故かは知らない。事情は色々あるものだ。
昔自分が景気が良い頃、女の子を連れて行くと、最後に少し大きめの皿に、いっぱいのデザートみたいな少し薄い卵焼きを作ってくれるのだ。上品で甘い味がした。
女の子達はそれを一回食べさせてると、余りの美味しさと品の良さに、何回も一緒にこの店に付き合ってくれたのだ。それで今も自分は通っていると言う訳だ。
そして、今日も大将は酔っ払いの相手をしてくれる。開店前から酔っ払って入ってくる客を操るのが上手かったのだ。
それで土日はだけは、自分たちも開店三十分前から呑んでいると言うわけだ。
「しんちゃん使いもんに何のかなぁ〜」と言うと、
「まあ、一カ月だけは最後に面倒見てやるさ、その後は、兄弟の店でやっていけるかどうかだなぁ〜」と言う。
「やる気だけは、ありそうだけどなぁ〜」
と丸男が言うと、
「まあなぁ〜」とか大将は言っていた。
そんな時に、急に思いっきり派手な阿保そうな女の子が入って来た。
「しんちゃんいますか?!」
「はっ?!」流石の大将も空いた口が塞がらなかったが、すぐにトイレから帰って来たしんちゃんが、
「すみません、嫁です」とか言い出した。
「えっ」一瞬空気が止まっていまったが、
女の子は「宜しくお願いします」と頭を下げた。意外と礼儀正しい感じがしたが、
流石に自分も丸男も黙ってしまった。
丸男が、
「二人で頑張りや」と言うと、大将も呆れて、
「1カ月だけやで、その後は、兄弟の店に紹介するけど後は知らんで」と言った。
「わかっています」としんちゃんは言い、
結局、明日から、朝から入って、女の子の嫁は忙しい時だけ手伝いに来る事になった。そして二人はきちんと挨拶をして帰って行った。
「漫画みたいな話やなぁ〜」と自分が言うと、
「漫画も人生やろ」と丸男が言うと、大将も少し笑っていた。
それから、丸男と馬鹿話の続きになり、そんな噂を聞きつけた、隣の居酒屋の店長も入って来て、大賑わいとなった。
続く〜




