第五十八話 友達へ
第五十八話 友達へ
びっくりした。
本格的なミニスタジオだったのだ。防音はもちろん、狭い部屋の中に、プロツールや、Mac G4、D16や32もあった。しかしなにより、ギターのコレクションが凄かった。
フェンダーのテレキャスや、ギブソンのレスポールはもちろん、マーチンなんかもあった。マーチンにマグネット式のピックアップをつけていたのは笑ってしまったが、
「アコギも弾いてたんや」と、どちらかと言うと、アコギの方が好きないっちゃんだったが、ジャズコやマーシャルまであって、なんぢゃこりゃだったのだ。
しかもよく見りゃヤマハもあった。
「……なんでこんなところに、ヤマハのF100があんねん」
倉庫の隅で埃を被っていたのは、かつてのスタジオの定番、でも今は誰も見向きもしないヤマハの古いトランジスタアンプだった。
「いっちゃん、動くの?」
「どうかなぁ〜こいつは機嫌損ねたら音出ぇへんからなぁ」
いっちゃんは、サンライズをつけたマーチンを持ち上げて、シールドを突っ込んだ。
案の定、シールドを突っ込むと「ブツッ……ザザッ」と嫌な音が響く。いっちゃんはジャックをグリグリと回し、接点の機嫌を伺う。
「……お、きたな。これやなこのちょっと冷たい音」
「さっきの金色の箱を持って来て」と早苗ちゃん言う。そして、ケンタウロスを噛ませて、ギターを弾いた。
冷徹だったヤマハのアンプが、真空管のような色気を出して鳴り始めた。
「……凄い、音が変わったわ」
早苗ちゃんが驚いたように耳を傾ける。
「こいつ(ケンタウロス)が、アンプに魔法をかける」
でも、接触不良で時折音が途切れる。それがかえって、この倉庫の静かな空間には刺激が良かった。
けれど、段々と馴染んで来た。
「なんか弾いてくれる?!」
「しゃあないなぁ〜」と言いながらビートルズを一曲弾く。
昔は正直ビートルズ好きではなかったが、バンドの相方がビートルズが好きだったのだ。技術力も才能も少しいっちゃんより優れていたが、歌はいっちゃんがギリギリ勝って、作曲能力はいっちゃんの方がほんの少しだけ上だったが、ステージでは完全に負けていたのだ。バランス感が全然違っていた。いっちゃんの方が、ほんの鼻くそ程度、歌や作曲で勝っているとかいってもトータルなパフォーマンスでは圧倒的に負けていたのだ。プロミュージシャンはパフォーマンスが全てだ。
仲良かったり、悪かったり、ギターぶん投げたり、殴り合いしたり、大喧嘩も何回したかわからない。尊敬もしながら嫉妬もするという、素晴らしいパートナーだった。いっちゃんを捨ててひとりだけで、プロで飯を食べて行けるくらいのスキルもあったのだが、いっちゃんと同じで安売りをしなかったのだ。
そこは共通だったので、一緒にいたのかも知れない。そんな“奴”が教えてくれたのが、ビートルズだったのだ。
ケンタウロスはゲインを絞るとアコギの太い音が鳴った。防音設備があるので、
「if I fell」と「I‘ll be back」をがっつりやった。早苗ちゃんはいっちゃんのカラオケしか聴いた事がないので、予想外の一面に言葉が出なくなってしまっていた。
「これを連れと三声の所も色々考えながら二声でハモっていたのさ」と言うと、
早苗ちゃんは、泣き出してしまっていた。馬鹿ないっちゃんにも取り柄があったのだ。そこから早苗ちゃんの態度が変わったのは嬉しいが、これだけのお宝は、紹介して貰った持ち主に報告しない訳には行かなかった。
「これは売ったらあかんやろ〜」
倉庫の中のモノは全て売っていいと言われていたが、流石に。
続く〜




