第十六話 タイメー
第十六話 タイメー
飛魚で呑んで、「カラオケ行く?!」と言うと、
「流石に今日は真っ直ぐ帰るわよ」とかずみちゃんと早苗ちゃんは言った。
「そーやな、俺らも帰るか」で家に帰ってきた。
今日は流石に勉強したくなかったので、シャワーを浴びて布団に入った。
お化けアパートには、シャワールームしかなくて、湯船はなかったのだ。
それで、時々、風俗がてら、垢すりに行くのであった。
もちろんシャワーだけでも、ちゃんと身体は洗って、綺麗にするが、湯船が無いのは日本人として悲しかった。
しかもこのお化けアパートも昔は、自分自身の所有のアパートで、他の部屋から家賃を貰っていたのに、今は自分が家賃を払う側になっているのだ。女が悪い
かなぴ〜ぃ。笑笑
結局、シャワーを浴びたら、布団の中でごろごろと、YouTubeの旅行とか、ネットフリックスのドラマとか観ていた。
一応、いっちゃんは、誰も知らない売れない作家で、ストーリー展開をパクる様な事はしないが、面白さや、人間の良心にまだ期待して、心を浄化させたいのである。
”世捨て人”と言っても何処か少し甘っちょろい所があるのだ。
でも、最近は、似たようなドラマばかりだ。
良い作品も、もちろんあるが、飛び抜けた作品は少なくなった様な気がする。
子供の頃は、俳優の石立鉄男氏のドラマが大好きで良く観ていた。
いつか自分も“気まぐれ天使”みたいなドラマを書きたいと想っていた。
いっちゃんは、布団の中で考え事をするのが大好きなのだ。
良いドラマを観て気分が良くなったら、(もしも、金持ちになったらとか、一発ベストセラーどころか、ノーベル文学賞が取れたら?!)とかのふざけた妄想の世界に入るのである。
その一方で、あちこち安いバイトにも文句を言わず、行ったり出来る、貧乏と闘うリアリストでもあったのだ。
良くバイトは行った。
『タイメー』には助かる。即金でお金をくれるのだ。振り込み手数料も無料だ。短時間だけ働くのが好きだ。
実は、詳しく言うと、『タイメー』と言うアプリがあって、登録すると、とっぱらい(当日払い)でお金が貰えるのだ。
”隙間時間に働きましょう“と言うやつだ。三、四時間働くのが自分は、気に入ってる。ちょうどイイのだ。職種は沢山あった。
デリバリーや掃除、居酒屋の店員や、コンビニのレジ。ありとあらゆるアルバイトがあった。
その中でいっちゃんが好きだったのが、デリバリーだ。
某寿司屋やパソコンみたいな名前の挽き肉サンドのお店や、弁当や、デリバリーは沢山あるが、寿司屋とパソコンによく行っていた。
外に出て配ってくれば良いだけなのである。出前が少ないと、中の仕事をやらされるが、週末なら殆ど出っ放しだ。
三時間くらいあっという間なのだ。
四時間の時でもそんなに変わりはしない。
デリバリーに来てる人は、殆ど大学生か専門学校生かと思っていたら、実は、殆ど社会人なのである。
会社の給料が安いので、奥さんに行けと言われている人や、同じく社会人で、お小遣いが少ないからと来ている人もいた。
デリバリーをやってる人は、大抵そこら中の色々な有名な店舗を一度は入っている。
なので皆んな良く情報交換するのだ。
「あそこの店長もマネージャーも優しいけど、あの職員はカスだ」とか、
「バイトの癖にあいつは、タイメーいじめる」とかだ。いつも一番下だからかどうか知らないが、タイメー来たら、ここぞととばかりに使う奴がいる。ほどほどにして欲しい。時間ギリギリに「ガソリン入れて来い」と言う無神経な女もいたのだ。
「残業時間付けてくれれば良いのだが、そいつに権限などあるわけ無い。店長おらん時に何言うてんねん」
まー皆んな色々、お互いに言い分はあるんやろうけどね。
逆に恐縮するくらい大事に扱って頂く事もある。
スタミナジュースや唐揚げ、果物が出る時がある。なけなしの現金の為に働きに行ってる時は、有り難くて、泣きそうになったりする。
まあ、そんな、辛かったり楽しかったりする現実にも生きてる、いっちゃんだが、妄想世界の中で、その晩は眠ってしまった。
続く〜




