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一年王国  作者: お赤飯
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一年王国

八代「あのさぁ、・・・・なんで、あんたが、学校にいるのよ?」

瀬能「やぁどうも。家庭裁判所保護観察処分の八代妙さんじゃないですか。」

奴裏祖「・・・・・・まったく、その通りだけど。あんたこそ、学校に不法侵入してきて、不法侵入者として通報するわよ!」

瀬能「はっ!さすが”不良少女と呼ばれて”を地で行く八代妙さん。」

八代「フルネームで呼ぶな!鬱陶しぃ!」

瀬能「あのぉ、こんな昼間から、堂々と公的機関である中学校に不法侵入する馬鹿がいると思いますか?」

八代「・・・・・目の前にいんじゃん!目の前に。あんたよ、あんたぁ!」

瀬能「中学生児童が、先生に向かって、その口の利き方。・・・・ちょっとないんじゃありません?」

八代「先生? 先生ってなによ?」

瀬能「ああ、申し遅れました。非常勤講師の瀬能です。セノキョンと呼んでください。」

八代「馬鹿なの、あんたぁ! ・・・・・・・非常識の間違えでしょ?」


八代「まぁいいわ。あんたが非常識講師で来た、って事は理解したわ。」

瀬能「非常勤です。ちょっと伺ったんですけど、一人、急に、異動になった先生がいたみたいですね。それで穴が開いてしまって、なんだかんだあって、私に、話が来たわけです。・・・・・何かしたんですかねぇ?その先生。児童に手を出したとか?八代妙さんが懇意にされている十朱先生は息災ですかぁ?」

八代「・・・・・・・・。美寿は平気よ。そういう下衆な言い方、やめてくれない?」

瀬能「失礼。失礼。あなたの顔を見ていると、ついついおちょくりたくなってしまって。」

八代「・・・・・・・・・あと、フルネームで呼ぶなってって言ったでしょ?」

瀬能「はいはい。はいはい。」

八代「はい、は一回!」

瀬能「はい、わかりました。」

八代「ぜったい、わかってないでしょ?」




生徒「なぁ久保。悪いんだけど、俺、塾があるから掃除当番、今日、お前一人でやってくんない?」

久保「え?」

生徒「あとで何か埋め合わせるから。な?な? 頼むよ? 親が高い、特別講習、頼んじゃってさぁ。出ないわけに行かないんだよ。」

久保「あ、ああ。ああ、いいよ。やっとくよ?」

生徒「あぁ!そうか。サンキュー! じゃ、よろしく頼むぜ! あとで何か奢るからなぁ! じゃ!」

久保「・・・・・・・・・・」




皇「お前に学校の先生なんか、務まるのかよ?」

瀬能「やぁ一回は経験してみたいとは思っていました。・・・・・・お前等は腐ったみかんだ!とか言ってみたいじゃないですか。」

皇「そこは、俺は腐ったみかんじゃねぇ!だろ、逆だろ、逆。生徒の方が言うんだよ。」

瀬能「え?一つ腐ると、ぜんぶ、腐るから、クラス全員腐ってるクズ野郎共だ、って意味じゃないんですか」

皇「・・・・・・・腐る腐る言い過ぎなんだよ。みかんに対する風評被害だ。そうそうみかんだって腐らねぇし。腐る前に食えって話だし。」

瀬能「今は一昔前の、分かりやすい学園ドラマみたいな感じではありませんよね。みかんで例えるなら、」

皇「みかんを酷使するな。」

瀬能「金っぱっぁんの時代は、みかんは段ボール買いでしたから、一つ腐れば、全部、移って腐ってしまいますが、現在は完全個包装です。綺麗に綺麗にラッピングされて、一つ一つ個包装。団体戦ではありません。もう個人戦です。個性、個性、個性を盾に、言いたい放題ですよ。」

皇「まぁそうだろうな。教育方針がそういう方針だから仕方がないんじゃないか。個性を優先する時代だから。」

瀬能「大変なのは先生ですよ。学校ってクラス単位じゃないですか。軍隊の名残で。」

皇「名残なのか?」

瀬能「大人数を一緒くたにして、まとめて、勉強を教える。さっきも言ったように、時代は個包装の時代です。個人によって、勉強の得意不得意があるわけで、上に合せるか、下に合せるか、それとも、真ん中に合せるか、先生の考え方ひとつで、授業の進み方が変わってきてしまいます。どこを取っても、授業内容に不平不満が出てくるんですよ。」

皇「上位の奴等は、分かってるから退屈で、あえて、ついて行かないって奴もいるだろうし。完全に下位の人間は真ん中に合せられても、ついて行けないだろうし。・・・・・そのクラス単位の授業っていうシステムが時代とそぐわないのかもな。」

瀬能「そういう事です。学習塾も、個別授業を謳っている所が業績を伸ばしていますし。学習塾なんて成績を上げるのが仕事みたいなもんですから、成績が上がれば自ずと、売り上げは伸びますよね。」

皇「学校の存在意義が、改めて問われるわけだ。」

瀬能「そんな事はずっと昔から言われていますよ。ただ、教育現場を目に向けた時、圧倒的に教職者の人口が少ないし。・・・・・・そもそも。そもそも、勉強がしたいのか、学歴が欲しいのか、その辺も昔と大分、違ってきましたからね。」

皇「学歴だろうな。学校卒業の名前が欲しいんだろ?・・・・・・だいたい、私達の頃からそうだったけど、高校行くのが当たり前、大学行くのが当たり前、みたいな風潮あるからな。完全に高校までが義務教育だろ?」

瀬能「いいえ。大学まで義務教育ですよ。どんな大学でも、大学、出てないと、え?って言われる昨今ですから。・・・・一応言っておきますけど、良い悪いは別にしてですよ。」

皇「学歴偏重と実際の教育システムにミスマッチがあるから、当事者は変な苦労するし、その歪みで食ってる奴もいるって事だ。行きたい学校に行かせるっていうのが商売で、わからない所を補修履修する意味の、塾はもう皆無だな。」

瀬能「一時期、教育特区で、高校での前期後期の二期制、授業選択の自由。いわゆる単位制を試験的に導入する動きがありましたが、けっきょく、そんなに流行らず、そのまま衰退してしまいましたね。授業選択をさせるより、学校側がカリキュラムを組んで一方的に授業して、期末テストで単位つけた方が楽っていうのが分かってしまいましたから。」

皇「自分より偏差値が低い高校が、そういう画期的な授業をしていても、高校のネームバリューと大学進学率で考えれば、流行りはしねぇよ。本当に勉強が好きな奴なら別だけど。」

瀬能「そこなんですよ。そこ。勉強が好きだから、大学に行って、好きな教科を好きなだけ研究できるっていうのが本来の在り方ですからね。本来の。」




八木「久保。久保。」

久保「・・・・なにか用か?」

八木「なあ、みんなでこれからハンバーガー食って帰ろうかって話になっているんだけど、久保。お前、行くだろ?」

久保「ああ。ああ、俺はいいよ。・・・・テスト、そんなに出来なかったし。帰ってから復習しないと。」

八木「そんなもん明日やればいいだろ? まぁ俺達もマクドで反省会するつもりなんだけどな、反省しないけど。」

久保「今日はやめておくよ。」

八木「・・・そうか」

生徒「おい、八木、行こうぜ」

八木「ああ。・・・・・じゃ、久保、また今度な」




瀬能「優ちゃんは遊んでいていいんですか?」

優「失礼ねぇ。こうやって、杏子ちゃんの手伝い、してあげているんでしょう?」

瀬能「・・・・・私が学校にいるのが珍しいからでしょう?」

優「それは、あるけど。」

瀬能「他の子、部活だったり、塾いったりしてるじゃないですか、優ちゃんはそういうの、しないんですか?」

優「私だって塾、行ってるわよ。学習塾。・・・・・・半分、付き合いみたいなもんだけど。」

瀬能「お付き合い?」

優「??? 杏子ちゃん、塾、行った事ないの? そうかぁ。そういう時代だもんねぇ。・・・・・・・松下村塾?」

瀬能「あのぉ。人を歴史上の人物みたいに言わないで下さい。学習塾くらいありましたよ。私は行きませんでしたけど。」

優「??? なんで? そっか、寺子屋かぁ。」

瀬能「あの・・・・・私、頭が良かったんで、塾に行く必要がなかったんです。」

優「絶対、嘘でしょ?」

瀬能「嘘、言ったってしょうがないでしょう。優ちゃんごときに。」

優「???・・・・馬鹿にされている気がするんだけど、まぁ、いいわ。」

瀬能「そうですよ。まぁ、いいんですよ。」

優「杏子ちゃん、これでいいの?教材、全部、運んだけど。」

瀬能「ありがとうございます。もし、優ちゃんのクラスを担当する事があったら、贔屓しますからね。贔屓。こういうロビー活動も授業の一環ですからね。」




瀬能「スクールカーストですか?」

皇「一軍とか二軍とか、そういうのあるんだろ? 私は学生時代、常に、女王様だったけどな。」

瀬能「そりゃぁありますよ。ある日突然、子供だと思って生きてきたのに、人間の優劣を他者から押し付けられる。しかも順位をつけられるんですから。・・・・社会の仕組みを肌で感じる、洗礼ですよ。」

皇「・・・・欧米みたいに生まれた時から、半ば強制的に、自立を促される国と違って、日本は、ハードランディングだからなぁ。突然、牛、豚を出荷するように、否応なく選別されて、等級に振り分けられる。お前は優れている。お前は劣っている、ってな。・・・・まぁまぁ酷い話だぜ。」

瀬能「泣いても喚いても助けてくれる人がいませんからね。これまで泣けば親が助けてくれましが、社会生活の中では、泣いたところで誰もは助けてくれないし、なんなら、二十四時間、泣かせっぱなし。下手をすれば泣くなと恫喝されて、虐待されてしまう事だってありますからね。言ってしまえば、監獄と一緒です。・・・・・ま、それでも、保育教育が時代の流れなのか、両親共働きが増えたおかげで、生まれたばっかりでも保育施設に預けられてしまうもんですから、今の子は、社会性を早くから身に付けられるんですよね。欧米より早いかも知れない。」

皇「・・・・それだってハードランディング過ぎるだろ? なんで日本はソフトランディングしないんだろうなぁ。遅いか、早いか、極端過ぎる。」

瀬能「簡単な話ですよ。予備訓練をしないからです。欧米は、家庭で自立を促す訓練を始めます。自分の命は自分で守るというのが当然の国ですから、嫌でも自立をしなければ命に関わります。それに引き換え日本は、愛護愛護、可愛い可愛いで育てますから、自立が促される事はまずありえません。過保護の極みです。過保護でなければ親に保育園が訴えられてしまう事もありますから、保育教育も板挟みで大変なんですよ。」

皇「・・・それもよく分からない話だよな」

瀬能「他者との関係性の中で、自分の居場所を見つけなければなりませんから、遅かれ早かれ、社会に揉まれなければ自己を確立する事は出来ません。心理学でも、他者と比較することで自己性を再確認する、っていうのがありますからね。」

皇「ロールプレイって奴だな」

瀬能「少し違いますけど。他者との関係そのものが、社会性です。そういうのを理解できないと、孤立するだけなんですよ。ただ、有名幼稚舎、有名小学校に入るような子は、必然的にその教育を受けるので、最初から自分の立ち位置、言わば存在意義が分かってしまい、それを証明しつづけなければなりませんから反対にギスギスしたりするみたいですけどね。どっちが良いのかは分かりませんが。」

皇「それも人間関係だからなぁ。」

瀬能「特に中学校は、多くの子が社会の洗礼を受ける、最初のイベントですから、カーストというか、順位の羅列を作る場所です。極めつけの高校受験は、目に見える形で、その人の人間力を順位化します。きれいごとじゃなくて、完全先着制の椅子取りゲームですからね。頭の良い順の。」

皇「でも、勉強の良し悪しと、学校生活の優位性は、そんなに比例しないだろ?」

瀬能「いいえ。比例します。だいたい顔の良い人は頭もいいし、運動も出来る。ついでに言うと、心に余裕と自信があるから、性格も良い。おまけに家柄だって良いし、家の世帯年収だって高いんですよ。」

皇「・・・・悪いところ、ねぇじゃねぇか。」

瀬能「そんなもんです。悪い所がないから、階級羅列で、上位になるんですよ。」

皇「お前は、・・・・・・最底辺だろ?地下に、井戸の中に、潜ってただろ?」

瀬能「誰が地底帝国ヨミ編ですかぁぁ!」

皇「お前はいつも自分のことは、良い風に言うよな?」

瀬能「中学生のスクールカーストは目まぐるしく入れ替わりますよ。生き馬の目を抜くとは、まさに、この事です。実際、中学生本人達にしてみたら、ちょっとした事で階級順位が入れ替わってしまうんですから、毎日がサバイバルですよ。」

皇「サバイバルねぇ。」

瀬能「成績の順位は目に見える形で、自分のカースト順位を表してくれます。成績次第で学校生活が薔薇色にも、ドブ色にも変わるんです。しかも成績は廊下に張り出されるから、万人の知る所です。隠す事が出来ません。」

皇「成績なんだから、自分がどの辺にいるかを知っておかく為のものなんだけどな、本当は。学校内でも、全国区でも。」

瀬能「あ、そう言えばいましたね。校内の順番を気にするんじゃなくて、全国模試の順番、気にする人。・・・・頭、いかれてるんじゃないかと思っていましたけど。」

皇「お前ねぇ、考えてみろよ?身の丈って言うのがあるんだ。馬鹿な高校に行って反対に気苦労するより、同じ読解力を持っている人間が集まっている学校に行った方が、楽だろう。」

瀬能「身の丈ってそういう意味で使う言葉でしたっけ?」

皇「あのなぁ。馬鹿な奴に合せて話をするのは大変な労力なんだよ。いちいち、相手の頭に合せて、話をダウンコンバートしないといけなんだ?話が通じるよに。」

瀬能「それはそうですけど。」

皇「階級制度はそういう意味でも、地味に機能しているんだ。話が合う奴同士の方が楽でいい。」

瀬能「でもですよ。スクールカーストの怖い所は、・・・・小学生時代、ガキ大将っぽく学校で、人気者だった人が、中学校に入った途端、勉強についていけず、カーストの階級を下げたって話、よくあるんですよ。」

皇「まぁ逆もあるだろう? そんなに目立つタイプじゃなかった子が、成績が注目されるようになると、頭が良かったことがバレて一躍、上位昇格。カースト上位入賞だ。」

瀬能「サバイバルですね。サバイバル。」

皇「学ッ校卒業して分かるけど、中学生高校生の時は、たかだかその三年っていう時間が、永遠に続くと思っていたからな。あの三年は、今の十年、二十年に匹敵する濃さだった。身の振り方ひとつで、その未来永遠につづく時間が、天国か地獄か、決まっちまうんだから命懸けだよ、当事者達は。」




森川「・・・・・。失礼します。あの、新しく赴任されていらっしゃった、先生ですね?」

瀬能「あ、どうも。非常勤の瀬能です。こんにちは。」

森川「生徒会長の森川です。はじめまして。」

瀬能「噂は兼ねがね伺っていますよ。随分、熱心な生徒会長さんだとか。」

森川「? ・・・・あ、ありがとうございます。 あの、よろしいですか?」

瀬能「はい?」

森川「あの、先生は何故、生徒会室に? 授業の準備は、別の部屋があると思うのですが?」

瀬能「あ、ああ。ああ。それはそうですね。それは森川さんのおっしゃる通りです。いやぁ、ただ、なんとなく」

森川「・・・・なんとなく?」

瀬能「なんとなく、生徒会室が懐かしくって、ついつい」

森川「ついつい?」

瀬能「ええ。ついつい、入ってしまいました。特に用はありません。」

森川「そうですか。別段、珍しい物もないと思いますけど?」

瀬能「そんな事はないと思いますけど。ここは、この学校で、選ばれた生徒しか入室できない、言わば生徒の聖域です。」

森川「そんな大そうなものではないと思いますが。」

瀬能「しかも、森川さん。あなたは生徒会長でいらっしゃるんでしょう? 生徒の中のトップ・オブ・トップじゃないですか。」

森川「それは語弊があると思いますが。私は、その、生徒会。生徒自治が好きなだけで。・・・・あの、どうぞ。先生、立ち話もなんですから、おかけになって下さい。狭い部屋ですけど。」

瀬能「いいんですか? 遠慮しませんよ?」

森川「遠慮ならさなくっても。先生なんですから。むしろ、・・・・・・他の先生方も、生徒会の活動にもう少し興味を持っていただきたいくらいに思っていますから。」

瀬能「あら? あらあらあらあらあらあらあらあらあらあら。 あら。それは本音ですか?生徒会長さんの本音ですか?」

森川「その、別に、本音っていう話じゃありませんけど。そういう風には前から思っていました。・・・・・非常勤講師の先生にこんなお話しても仕方がないんですが、生徒会ってお飾りなんですよ。前の生徒会もそうでしたし、学校側もそう思ってる。私は、そういう風潮を変えたいと思って生徒会役員に立候補したんです。」

瀬能「随分立派な志ですね。」

森川「先生達は、どうせ生徒会をやったってそれを内申点アップに使うつもりだ程度にしか考えていないんですよ。・・・・私はそうではありません。本当の意味での生徒自治を運営したくて、生徒会役員になったのです。」

瀬能「これは。これは、思ってもいなかった当たりクジを引いてしまったのかも知れません。熱いですね。森川さん。中学生ぐらいはそれくらい熱くないと、意味がありませんよ。いや、素晴らしい。応援しています。・・・・応援しか出来ませんが。草葉の陰から。」

森川「あ、どうも。ありがとうございます・・・・・・。」

瀬能「それでその革新派の生徒会長さんの元には、優秀な生徒会執行役員が集まっているんですね?」

森川「はぁ。・・・・そこを突かれると痛いんですが。なかなか想いを共にしてくれる人は少ないです。私、一人が熱くなっても、他がついて来なければ何の意味もありませんから。」

瀬能「そうですね。中学生の生徒会で、独裁政治なんて聞いた事がありませんもの。」

森川「生徒会で独裁政権をやった所で、何の効力もありません。嫌でもあと半年で卒業ですし。」

瀬能「中学校を卒業して、高校大学に行っても、中学校の生徒会を牛耳ってるっていうのも、半ば、面白いと思いますけど。」

森川「もし、学校を変えたいなら生徒会を支配するより、学校長とか教育委員になって、上から支配しないと意味ないんですよ。」

瀬能「それはおっしゃる通りですね。」

森川「別に私は教員になりたい訳じゃありませんから。私がやりたいのは、生徒自治。生徒として、学校を良くしていくっていうものですから、まったくの別物なんです。」

瀬能「いやぁ。森川さんは聡明ですね。(誰かさんと違って)」


八代「ヘックシ・・・・・誰?変な噂、しているのは?」




クラス委員「では学校行事の連絡は以上になります。」

市井「クラス委員、質問!」

クラス委員「はい、市井君。」

市井「文化祭にしたって、何にしたって、要件を満たしていればそれでいいんだろ?・・・・必要最低限のメンバーでいいんじゃないか?」

クラス委員「・・・・先生?」

担任「あ?ああ。 ううぅうううぅん。学校行事は生徒主体だからなぁ。教師はあくまでサポート役だ。」

市井「じゃあ先生、俺達で決めちゃって、良いって事ですよね?」

担任「うぅぅううぅん。そりゃそうだが。・・・・クラスとして参加する訳だからなぁ。市井、お前、一人の意見で決める問題でもないだろ?」

市井「それは当然ですよ。先生、俺が言いたいのは、要件を満たしていれば、その中で自由って話で」

担任「・・・・自由だけど、好き勝手されちゃぁ、こっちだって困っちゃうよ。」

クラス委員「市井君の言い方には問題がありますけど、そういうルールですから、ルール内で収まっていれば、ま、自由?っていうか、だから今、決めているんであって。」

担任「常識の範囲内だからな?好き勝手やっていいと、自由は違うからな。」

市井「それは分かってますよ。 ほら、今の生徒会長。学校行事が好きだから。・・・・やるのはいいですよ、でも、巻き込まないで欲しいんですよね。」

担任「クラス委員。話、すすめて。」

クラス委員「市井君はそれで、何が言いたいんですか?具体的に言ってもらわないと。」

市井「受験で忙しいのに、なにもクラス全員でまとまってやる必要はないんじゃないか?って俺は思うんですよ。文化祭、体育祭、音楽祭、いろいろありますけど、出たい奴だけ出ればいいんじゃないですか?面倒じゃなくて済むし。出たくない奴だっているだろうし。」

クラス委員「まぁ、一応、全員参加が基本ですし、市井君。」

市井「もう卒業しちゃった先輩なんかは、クラスの半分も参加してなかったのを実際、俺、見てますし。他のみんなもそうだと思います。そういうのが既成事実としてあるわけじゃないですか?」

担任「お前なぁ市井。そういう悪い前例をもってきて、それがあたかも普通みたいな言い方するなよ?」

市井「実際、そうだったじゃないですか、先生。 俺、あれ見ていてずっと疑問だったんですよ? どうして三年の先輩んとこだけ、やっている人、同じなんだろうって? 自分が三年になってやっと分かりましたけどね。」

担任「受験だからって学校行事をサボっていい理由にはならないからな?」

市井「サボろうなんて言ってないじゃないですか、必要最低限のメンバーだけで運営すればいい、と提案しているんです。」

クラス委員「どうするんですか、先生?」

担任「市井の言いたい事も分かるけども。お前、そういう学校行事が後になって、思い出になるんだぞ?」

市井「そういう精神論はいいんで、先生。・・・実質的な話をすすめましょうよ。」

クラス委員「市井君の意見は意見なので、提案として認めます。では、市井君の意見に賛同する人、挙手をお願いします。」

担任「待て待て待て待て待て!」

クラス委員「?」

担任「そういう前例、作られたら、俺が困るんだよ。市井の言う事も分かる。そういうのは、クラス全員でうまくやれ、いいな? ホームルームが終わった後、各自で、話し合え。いいな?」

クラス委員「・・・・分かりました。」

担任「市井いいか?まったくお前は! 面倒な事を起こすなよ?いいな? 俺を困らすなよ?」

市井「分かってますよ、先生」

担任「・・・・市井。お前よく考えろよ?頭のいいお前なら分かるはずだ。これまで、暗黙の了解で、・・・・サボってた連中もいる。それは確かだ。でもな、それは分からない範囲で上手にやってきたんだ、馬鹿は馬鹿なりに、だ。それを、お前、クラスで決、取って、正式に決めました、ってなれば、こっちだって正式に違反を申し渡さなけりゃいけない。・・・・誰が損すると思うんだ?」

市井「俺達です・・・・・」

担任「なんでもかんでも、表に出せばいいってもんじゃねぇんだよ。いいか、俺は、聞かなかった事にする。お前達で上手くやれ!いいな?」




八木「市井はなんでもやりたい放題だな?先生も困ってただろ?」

市井「俺は別に間違った事を言っちゃぁいない。・・・・先輩が学校行事、欠席してたの、あれ、なんなの?って話じゃないか。」

八木「そういうの建前って言うんだ。お前、そんなんじゃ内申、低いだろ?」

市井「俺は部活で貢献してるんだ。低いわけないだろ?成績だっていい。警察沙汰にでもならない限り、俺の内申が落ちる事はない。」

八木「言うなぁ、お前。」

市井「俺がタバコ吸って、それが、見つかったって、先生だって、公には出来ないだろうなぁ。」

皆川「市井。・・・タバコ、吸ってるの?」

市井「俺?吸う訳ないじゃない。皆川さん。タバコ、幾らか知ってる?・・・・金は高いし、見つかれば学校の騒ぎになるし、リスクとコスト、それにパフォーマンスが悪い。俺に言わせれば、タバコ吸って、いきがってる奴は本当に頭、悪いと思うね。時間も金も勿体ない。」

八木「まぁ、ああいうのは、俺は悪い奴ですよって言う対外アピールだからな。」

皆川「中学生ぐらいが吸うタバコなんて、そんなもんよね。」

市井「オッサンになればタバコの味が分かるようになるんだろうけどさ。やっぱり高いじゃん? どうしてあんな高いモン吸うのか、俺は理解できないね。」

皆川「市井はガキだから。」

市井「えぇぇ?」

八木「お前、そういう所、ほんと、ガキだよ。 皆川さんは吸った事、あるの?」

皆川「あ、ああ、うん。・・・・でも、何がいいのか、分からなかった。私も、子供じゃないアピールで吸っただけだから。自分でも今思うと、大人気なかったなぁとは思うよ。・・・・・ああいうのが美味しいとか言うようになるのかしら。」

市井「所詮、成績なんてものはゲームだ。科目別テストは目で見るパラメーター。内申点は隠しパラメーター。どっちかが高いなんて、あり得ない。ゲームとして成立しないからな。」

八木「たまに市井が凄ぇと思う時があるよ。世間をそんな単純に見てる奴、いねぇよ。」

皆川「じゃあ市井。成績がゲームだって言うなら、パラメーターはどうやって上げるのよ?」

市井「表向きのパラメーターも隠しパラメーターも、俺は、連動していると思ってる。内申点なんて、テストの成績が上がっていけば自然と上がっていくんだ。」

八木「そんな単純な理屈か?」

皆川「・・・・・部活に振り切っている子だっているじゃない?」

市井「振り切るなら振り切った方がいい。・・・ほら、県大会とかそこまで行っちゃえば推薦が取れる。ただそこまで行ける奴が学校で何人いると思う?一人や二人だぜ?他の連中は、ただ部活がんばりました。はい、ごくろうさん。それでお終い。勉強をかまけていた分、志望校を落とすしか選択肢はなくなる。」

皆川「あんたって、・・・・子供っぽい所もあるけど、そういう所、ドライね。」

市井「あのねぇ皆川さん。高校がゴールじゃないのよ?大学がゴールでもない。就職がゴールかと言えば、それもゴールじゃない。」

八木「・・・・・・どれだけ未来、見てるんだよ、お前は?未来人か?」

市井「高校受験対策なんて、もう中学に入った頃から塾でやってる。学校の授業は、あくまで、学校での成績を取る為だけのものだ。いくら、俺が頭がよくて好きな高校を合格できる頭を持っていたとしても、学校の成績が悪かったら、受験資格が無くなるんだ。」

皆川「そこよねぇ。」

市井「大学の入学共通テストみたいに、一斉にドン!なら、わざわざ学校に来て、学校の授業を受けて、学校の成績を上げる必要はない。馬鹿だろうが天才だろうが、一回ぽっきりのテストで決まる。点数だけで学校を選べるなんて逆に俺は、羨ましいよ。」

皆川「そうね。特にうちの塾、行ってる人はみんなそう思ってるでしょうね。」

市井「中学までは義務教育だからな。学校の成績で、受けられる学校が変わる。要は、俺達、生徒が主体じゃないんだ。先生が主体なんだ。だから、いかに先生に気に入られるかなんだよ。成績も含めてな。」

八木「ああ、それで内申点と繋がってくるわけだ。」

市井「そゆこと。学校は、先生に、俺が志望する高校に行く為のプレゼンの場なんだ。」

皆川「・・・・かなり遠回りっていうか、面倒くさいのね?」

八木「仕方がないさ。俺達、身分は、中学生なんだから。」

市井「そ。一番、大事な所を、親と先生に、首根っこを掴まれている。そこを理解していないと、ただ勉強が出来るだけじゃ駄目。スポーツが出来るだけじゃぁ駄目。」

皆川「そんな事、言ったら、生徒会長の森川さんなんて、物凄いアピールしてる事になるんじゃない?」

市井「あいつ。・・・・先生に大分、煙たがられてるの知ってる?」

皆川「え?そうなの?」

市井「ああ。うちの女王様は、改革派だ。ああだこうだ、色々、学校側に提案しているらしいんだが、取り合ってもらえないらしい。」

八木「よくそんな情報、入ってくるな。」

市井「俺はああいう、鼻につく女が嫌いなんだよ。アメリカの大統領だって一期四年だろ? 中学校の生徒会長は一年でお役御免だ。一年毎に変わるんだぞ?一年毎にコロコロ変わるのに、妙な提案を、学校側が鵜呑みにすると思うか?学校側だって思い付きで、なにか、されちゃたまらない訳よ?」

皆川「それで煙たがられているのね。」

市井「生徒だって、森川に何か期待してるわけじゃない。人気投票だ、あんなの。」

八木「森川さん本人は、いたって真剣なんだろう?」

皆川「私は、森川さんに一票、入れたわよ。ああいう人、嫌いじゃないから。」

市井「俺は、皆川さんの方がタイプだけど。」

皆川「それは、見た目の話でしょ?」

市井「皆川さんはつれないよなぁ」

八木「人気投票って言うなら、確かに、森川さんは美人だから、票は取れるだろうな。」

市井「・・・・・だいたい、生徒会選挙なんてお祭りなんだよ。よく知らない人間が登壇して、一回ポッキリの演説して、それで、何が分かるって言うんだ? たかが一度のアピールだぞ?見た目が良い人間が勝つに決まってる。それに対抗馬がろくな奴じゃなかったら、消去法で、森川が勝つに決まってる。今回は、運が森川に味方しただけだ。」

八木「運が味方したなら、それも、才能じゃないか。なるべくして、生徒会長になったんだ、森川さんは。まさに、アフロディーテだな?ビーナスか?」

皆川「頭も良いし、美人で、言うことなじゃない。」

市井「だから鼻につくんだよ、ああいう女は。」

瀬能「あ!」

八木「!」

皆川「あ、こんにちは。」

瀬能「あ、どうも。こんにちは。」

八木「新しく、入った、先生ですよね? 非常勤の。」

瀬能「あ、そうです。よろしくお願いします。」

市井「こんな体育館の裏に、何か、御用ですか?」

瀬能「皆さんこそ、・・・・・・あ、あ、あ、黙っておいてあげますから。」

皆川「ちょちょちょちょっと、ちょっと、」

瀬能「未来ある生徒の皆さんが、多少、レールから外れたからと言って、私は、咎めたりしませんから。他の先生には黙っておいてあげますから。でも、もう、二度と、やっちゃ駄目ですよ?」

市井「先生?先生、何か、誤解されていらっしゃいますけど、俺達、何もやましい事、していませんよ?」

八木「本当です。体育館の裏が、溜まり場なのは認めますけど、校則に反する事、ましてや、社会規範に反する事はしていませんよ?」

瀬能「え? あ、あああ、ああ? またまたぁ~。こんな場所に集まっておいて、善良な学生っていう方がおかしいですよ?」

皆川「本当です。本当。あの、先生こそ、こんな普段、人が来ない所に何の御用があって?」

瀬能「ちょっと一服しようと思って。先客がいたら、一本、貰おうかなぁって思って。だいたい中学校の体育館の裏って言ったら、ヤニふかす、定番ですからねぇ。・・・・・・一本、めぐんで下さい。」

八木「持ってないッスから。」

皆川「おかしいでしょ?生徒から、タバコわけてもらうのって。しかも、私達、中学生ですよ?」

瀬能「またまた~?」

市井「本当ですよ。こんな学校の敷地内で、タバコ吸う、馬鹿、いませんよ?」

瀬能「・・・・・・そうなんですか。はぁ。私の時代は、いっぱいいたのに。」

皆川「いっぱいは嘘でしょ?」

市井「先生。それに、今、公共機関。学校とか病院の敷地内での禁煙は法律で禁止されています。先生も、禁煙を我慢しているんですよ。」

瀬能「えぇぇぇ? そうなんですか! いつから、法律、変わったですか!」

市井「知らないですけど」

瀬能「はぁ。残念です。非情に残念です。私はこれで。・・・・・・そうそう。内申点の話は、興味深く聞かせて頂きましたけど。では、」

市井・八木・皆川「!」




皆川「・・・・・・あれ、久保? 今、帰り?」

久保「ああ。」

皆川「待って。待って、一緒に帰ろうよ?」

久保「・・・・男と一緒に帰ったら、変な風に言われるだろ?」

皆川「はぁ?何いってんの? 気にし過ぎだって。」

久保「俺はよくても・・・・」

皆川「え? 私に気ぃ使ってくれてんのぉ? は、は、は。 まぁいいや。」

久保「・・・・・」

皆川「たまたま帰る方向が一緒だし、並んで帰る事もあるでしょ? たまたま隣を歩いてただけで。あのさぁ、男子ってそういうの気ぃ使うの?」

久保「・・・・使うだろ?」

皆川「はぁ。八木とか市井はまったく使わないけどね。・・・・あいつら、見習ってもらいたいわ。」

久保「皆川と話せる男子なんて、そうそういないだろ?」

皆川「ああ。あ、私、かわいいもんね。あ、それ、自覚してるから。」

久保「・・・・・そういうの自分で言うか?」

皆川「言っておくけど、そこら辺の気ぃ使わない女より、私、ぜんぶ気ぃ使ってるから。前髪だって、肌ケアだって、・・・・時間かけてるのよ? 時間かけて作ってるんだからそこら辺の女に負けるわけないじゃない。ほら?」

久保「・・・・え?・・・・なんだよ?」

皆川「いい匂いするでしょ? これ、そういう香水。」

久保「お前、中学生のくせに香水なんか、使ってるのか?」

皆川「そうよ。オバサンみたいにベッタリじゃなくて、微妙に分かるくらいの。・・・・女の臭いを消すのに使ってるの。」

久保「??? なんだよ?その女の臭いってぇ? わけのわからないことを」

皆川「若い女ってねぇ、毛穴から、独特の臭いを出すの。ま、生理的なものだから仕方がないんだけど。人によっては、乳臭いとか、」

久保「・・・チチ?」

皆川「??? そう。乳臭いとか、血の臭いとか、とにかく、若い女からしか出ない臭いなんだけど、こうやって外ならそんなに気にならないじゃない?でも、教室みたいに密閉した空間だと、どうしても籠もるのよ、臭いが。あ、女の部室とか最悪だから。女臭くて。・・・・酷い人になると女酔いする人もいるんだから。女でね。」

久保「女酔いってお前・・・・」

皆川「臭いのよ。女って。・・・・逆に言えばぁ、雄が興奮する臭いだから、出した方がいいんだろうけどね。でも、私は駄目。臭っさ過ぎる女が苦手なの。だから臭いを消してるの。他人が不快にならないように配慮してんのよ。まぁ、男子の臭さとは別の臭さよね。」

久保「女も大変なんだな。」

皆川「久保もさぁ、少しは、気ぃ使ったらぁ? ニキビが出来ないように顔を洗うだけじゃなくて、なんかこう、サッパリイケメン目指すとか、あるじゃない?」

久保「・・・・・別に目指してねぇから。」

皆川「そう。」

久保「そういうのは一軍の奴等がやることだろ?」

皆川「一軍? ああ、・・・・・・また、あいつらは調子がいいからね。なに?久保は一軍とか、そういうの気にするの?」

久保「・・・・・・お前はどう思ってんだよ?そういうの?」

皆川「私は別に。・・・・・小ガッコの頃からの連れでしょ? 今更何か変わるっ事ってある?」

久保「・・・・・・・あるに決まってんだろ?」

皆川「・・・・・・・」

久保「否応なしにテストの順位が張り出されるんだ。・・・・・・お前は頭が悪いってな。お前は、成績がいいから何か言われたりすることはないだろ?でもなぁ、小学校の頃、ろくにサッカーも野球もできない下手な奴が、中学に入って、テストの順位で、今まで馬鹿にしていた連中に、見返されて馬鹿にされて、」

皆川「誰もそんな事、思ってないでしょ?そんなこと。」

久保「俺はメッキが剥がれたんだ。自分でも分かる。・・・・スポーツの才能も無かった。勉強の才能も無かった。じゃぁ、音楽とか美術とか、オタクの才能も無かった。・・・・・俺は何も無かったって気づいたんだ。一軍のお前等には分からないと思うけどな、ただ学校に行って、大人しく時間が過ごせればそれでいいんだ。俺には学校に居場所なんかない。親に心配かけたくないから高校は行く。ただそれだけだ。」

皆川「・・・・・・久保。」

久保「だから俺に話しかけるなよ。俺は三軍だ。お前みたいな一軍女子が話していい相手じゃねぇんだよ。」




皆川「あ」

森川「・・・・・」

皆川「・・・・・お隣、いい?」

森川「・・・・・いいけど。」

皆川「私以外でここの穴場、知っている人、初めて見たわ。生徒会長っていうのも暇なのね。」

森川「暇?・・・・・あのねぇ、学校は生徒のものなのよ?生徒が学校で知らない事がある方が、おかしいのよ?」

皆川「へぇ。・・・・ハッキリ言うわね。」

森川「技術棟はその性質上、学習棟と違って、空調を完備されているから一年を通して快適なのよ。芸術系の生徒にだけ使わせておくなんて勿体ないじゃない。」

皆川「・・・・・まぁ。そうね。」

森川「ただ、学習棟から離れているから、ベルが鳴ってから移動するんじゃ、授業開始に間に合わない。・・・・休み時間が減ってしまうのは難点だけど、静かなのはとっても居心地がいいわ。」

皆川「女王様はいつでも、取り巻きとつるんでいると思ってたけど、・・・・・今日はいないのね?」

森川「取り巻き?生徒会役員のこと? 生徒会の仕事以外で一緒にいたらおかしいでしょう? あと、なに?女王様って?」

皆川「??? 女王様は女王様の自覚があると思っていたけど、・・・・・ちがうの?」

森川「??? だから、どういうこと?」

皆川「いやだから、みんなが、森川さんの事を女王様って呼んでいるの、知らない? てっきり、自覚があると思っていたわ。」

森川「・・・・・ええぇっと? 私、自分勝手でわがままな女だって、思われているって事?」

皆川「だって、そうじゃなきゃ、生徒会長に立候補なんて、しないでしょ?」

森川「あの、我がままがしたいから、生徒会に立候補したつもりはないんだけど?」

皆川「あ、・・・あ、そうなんだ。・・・・・・へぇ。」

森川「私、そんな横暴な人間に映っているの?」

皆川「ああ、ごめん。私、そういう、学級委員とか班長とか、そういう類の、人の上に立ちたいと思う人種じゃないから、・・・・・ちょっとごめななさい。理解できないわ。下衆い考えを持っている方がわりと理解しやすい。」

森川「え?あ、あ、そう。その、人の上に立ちたいとか、目立ちたいとか、そういうんじゃないから、生徒会は。 生徒会は、生徒の主権を行使して、生徒自治を行う組織なのよ。」

皆川「はぁ。生徒自治? じゃぁ、・・・別に、目立ちたい訳じゃぁないんだ?」

森川「さっきから言っているけど自分が目立ちたいからやれる程、簡単な仕事はないのよ。生徒として、よりよく学校生活を送る為に、生徒会があるんであって」

皆川「だって森川さんは、一軍中の一軍女子でしょ?女王様じゃない?生徒会長なんかしなくても、学ッ校で好き勝手出来るじゃない?」

森川「皆川さん、旧知の仲だから言わせてもらうけど」

皆川「・・・・小学生の時、一回、クラスが一緒だったぐらいで、それほど、親しくはないけど」

森川「それはお互い様でしょう? その、一軍とか二軍とか、なんなの?馬鹿々々しい。いったい誰が決めてるの? 皆川さん。あなただって、一軍女子じゃない?」

皆川「馬鹿々々しいとか言っている割に、そういうのは、知ってるんだ?」

森川「嫌だって向こうから勝手に、発信してくるんだもの。耳を塞ぐわけにもいかないでしょう? 一軍女子っていう冠に、あぐらをかいているのは、あなたの方なんじゃないの?」

皆川「それこそ馬鹿々々しい話だわ。面白くもない作り話ばっかりで。・・・・高校生の彼氏がいるとか、他校にヤリ友、三人いるとか、・・・・・そんな話、ばっかりよ。くだらない。」

森川「え、あ、へぇ。あ、そう。」

皆川「え?なに、信じてたの、私の話?」

森川「ああ、いや、別に。その、あまり他人に興味がないって言うか。別に、そういう彼氏がいたり、セフレ?セフレがいたって、悪い事だとは思わないし。人それぞれだとは思うけど。」

皆川「あのさぁ、それって、遠回しに噂を信じてた、って白状しているようなもんよ?」

森川「だから、あなたが、・・・・・・その、噂が本当だろうがそうでなかろうが、さして私は興味がないの。信じる、信じないじゃなくて。」

皆川「ああ。・・・・・それは同意。それは理解できる。森川さんも私と同じタイプね。」

森川「??? どういうタイプなのかは分からないけど、あまり他人に干渉するのは好きじゃないわ。」

皆川「そう、そうだとは思うけど。そうじゃなきゃ、こんな、誰も来ない技術棟で、一人で、お昼ご飯、食べていないわよね?」

森川「人を、友達がいないみたいに言わないでちょうだい。皆川さんだって、そうでしょう?」

皆川「・・・・・・私は、一軍とか二軍とかで、固まるのが嫌なだけ。好きな人と、好きなように、話せない、そういう異常な状態が嫌なだけ。」

森川「あ、それは分かる。・・・・・・自由なのに自由じゃない。だから苦しいのよ。」

皆川「ポエマー? ポエマーなの?」

森川「あなただって十分、ポエマーじゃない。 人の揚げ足ばかり取って。ポエム読んだのは、あなたが先でしょう?」

皆川「あら、そうだったっけ?」

森川「それで・・・・・・・・好きな人って、男子?」

皆川「はぁ。あなたって、頭が良いのに残念ね。・・・・・好きな人って、別に、男子に限らないじゃない。あ、・・・・・私、そっちじゃないから。ノーマルだから。・・・・・英語で言うなら、フリーよ。フリー。自由に誰とでも話せないとおかしい、って言ってるの。ラヴじゃないから。」

森川「・・・・・あ、ああ、そう。残念ね。」

皆川「??? ま、どういう意味の残念かは分からないけど、残念な状況ではあるわ。ねぇ、森川さん。あなた、生徒会長なら、こういう状況を変えてみせてよ。」

森川「誰とでも仲良くしましょう、法案でも作るの? 子供じゃないんだから。」

皆川「・・・・そうねぇ。それも馬鹿々々しい話よね。子供の頃の方が、しがらみがなくて、本当、自由だったわ。」

森川「それで、セフレがいるのは本当なの?」

皆川「・・・・・・・・・・・」




市井「学生生活をサバイヴするには、幾つか方法がある。ひとつは、テストの成績を上げる事だ。これは一番簡単な方法。なんせテストの成績が良ければ、それだけでカーストの順位が上がるんだ。こんな楽な方法はないだろう?世の中、残酷だと思うだろうけど、所詮、弱肉強食。いくら喧嘩が強くても、学歴社会の波には勝てない。人口減少、少子化だとかのたまわっているけど、日本だって、中国韓国に負けず劣らず未だに学歴偏重なのは変わらない。学歴じゃない、個人の知恵、知識、経験、技術だとか言ってる奴は、その学歴偏重の上澄み部分の、エリート野郎さ。勉強が出来て才能があるから、別の秀でた経験、知識、技術を得られる。だからどう転んでも勝ち組なのさ。そうでない奴は、等しく人生のレールに乗って、イベントをこなすように、ただひたすら勉強するしかない。哀れなもんさ。・・・・頭が良ければ、そんな苦労しなくても済むのにな。くっくっくっくっくく。

そう、だから、志望する高校で、学校内の序列が決まる。一番、頭の良い学校を受験する奴、受験できる奴が、一番、偉い。カースト、トップに君臨する。

それが俺。

あと、俺と合わない女。生徒会長の森川だ。

あの森川って奴は、成績だけで言ったら、ほぼ互角。俺か森川が、だいたい一位。それも誤差、十点内だ。正直、目の上のたんこぶだ。ま、会う事もないし、話す事もないから、関係ないっちゃぁ関係ないんだが。森川は、成績が良いだけじゃない。なんせ生徒会長をやっているくらいだから、内申点は俺よりも高いだろう。勉強以外の活動に積極的なのが、非常に腹立たしい。頭がいい、教師の信頼もある。そして、生徒会活動での実績。誰が見ても、どう考えても、天下は森川のものだ。女王様の名にふさわしい。

森川みたいな奴は、特殊だ。例外だ。

勉強以外の方法で、学生生活をサバイヴするのは、勉強を捨てる事だ。部活特化型。運動でも、芸術でも、その一芸に特化する事だ。この方法が上手く行けば、普通の高校受験のしがらみから脱出できる。馬鹿な奴は、良い学校に入る為に、勉強を捨て、一芸特化したもんだ。それは今も変わらない。プロ野球選手になっている奴で、小学校の頃から野球に特化していた、なんて話はざらに聞く。将来、有望な奴は、小学生の頃から、芽が出ている。それは誰が見ても明らかだ。それは野球だけじゃない、陸上だってそう、サッカーだってそう、それに、ピアノ、バイオリン、アート。体育会系、文科系、問わず、一芸に特化した奴は、一般の枠に収まらず、カースト上位に入ってくる。本当に優れている奴に限られるがな。

多くの人間は、勉強で成績を上げる努力をし、運動、芸術で、無駄に汗を流し、それでも、カーストが上がる事はない。何故なら、答えは簡単だ。・・・・・凡人だからだ。

可哀そうだが、この中学校という世界は、戦国時代と変わらない。非情なもんさ。二軍、三軍、それ以下のカス共は、俺達、一軍の為に、働くしかない。俺達が快適に学生生活を送れるように、動かなければならない。それは、俺達が一軍だからだ。俺達の方が、人間として優れているからだ。

俺は優れた人間なんだ。そうだろ?

くっくっくっくっくっくぁっぁっぁぁっぁっかかぁっぁぁっぁっぁっぁぁぁぁっぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!」




瀬能「学習塾っていうのが、小中高、大学に渡る教育システムの、アウトトリガーであると同時に、必要悪ではないかと、考えられるわけです。」

皇「安全性と、危険性を、両方、孕んでいるって事だな?」

瀬能「そういう事です。学習塾、予備校も含みますけど、それらは、教育システムからは完全に逸脱しています。その存在意義は、進学すなわち希望校合格、それだけだからです。」

皇「そりゃそうだろう。金を払う以上、それ以外の目的はいらないはずだ。行きたい学校に行く為に、そこで、勉強を教えてもらうわけだからな。」

瀬能「それを勉強と言っていいのかは疑問です。勉強というよりかは、攻略法だからです。その、希望する学校の対策、そして予想問題から、攻略を練る場所です。もうそれ以上でもありません。」

皇「??? それのどこがおかしいんだ?」

瀬能「希望校合格に特化した勉強を教えるのが学習塾です。特に、試験科目の国語、英語、数学、理科、社会は、学校で教える範囲を、遥か先を教えています。そりゃぁ前もって、早くから学習内容を教えているんですから、分かっていて当然ですし、馬鹿みたいに思えるでしょう。当然、テストの成績だって上がります。前もって勉強してますから。それの何が問題かと言われれば、学校の授業がつまらないと感じる事です。そりゃそうでしょう、一度、学習塾で習った事をもう一度学校でやるんですから、退屈で仕方がないはずです。面白くもありません。それの積み重ねですよ。学習塾は、どんどん、どんどん、教科書の内容の遥か先を教えますから。」

皇「そうだろうなぁ。」

瀬能「学校の授業は何の為にあるのでしょう? 夜、学習塾に行く為の休みの時間でしょうか?単位を取る為に、ただ椅子に座り、ただ時間を浪費する為の時間なのでしょうか? 学校の授業内容についていけない生徒にとってみれば、授業内容を補填してくれる学習塾は有効でしょう。本来、あるべき姿の学習塾だと思います。それがアウトトリガー。でも、多くは、受験対策、模試対策。志望校合格の為だけのテクニックを教えているだけに過ぎません。それを学習、勉強と言っていいのでしょうか?」

皇「社会でも、必要な解を求める為に、必要な公式を当てはめる、っていうのを考えれば、そのテクニックが身についていれさえすれば、学習塾の意義もあるって事だろう?何も数学だけじゃない。勉強、全般に言える事だ。・・・そもそもだ。義務教育で教える事っていうのは、全部、そうだぞ? 社会に出て、必要と求められる事を勉強する場だ。国語。母国語の読み書き。数学。英語。理科や社会だって、ちょっとした料理は化学だし、地図が読めなきゃ何処にも行けない。全部、繋がっているんだ。」

瀬能「優等生の瑠思亜らしい回答ですね。受験の為だけの技術。それは教育システムからしてみれば必要悪でしかありません。昨今、高校大学は、学習塾のカリキュラムを念頭に置いた、出題を行うようになりました。」

皇「それは、筋違いな気もしないでもないな。」

瀬能「教科書に載っていない、学習指導要領に規範していない、問題を作成するようになりました。・・・・・学習塾に行っていない人間は、解きようがありません。だって習っていない問題を出されるんですよ?それって反則じゃないですか? 高校、大学の言い分は、こうです。学習塾で習っただろ?って。おかしくないですか?非常におかしくないですか? たまに、真に頭の良い生徒は、解く事は可能でしょう。過去の出題傾向やら、公式を組み合わせれば、決して解けない問題ではないはずです。でも、正答率一%とか二%の問題を、正常と言って良いのでしょうか? 私は異常だと思います。解けない問題を出して、それで、学習塾に勝ったとか負けたとか言っている学校側もクソだし、それは学生主体ではありません。教育産業っていう闇のマーケットそのものですよ。教育で金を儲けているだけ。決して、良い話ではないと思います。精神的も、金銭的にも。もちろん学生本人にもです。」




市井「お前等、みんな、馬鹿なのか?

俺が頭が良いんじゃない、お前等が馬鹿なだけなんだ。どうして俺が頭が良いか?って、簡単な話だよ。俺は、テストの答えを知っているからだ。

不正?

中学校くらいのテストで不正して何になる?中学校のテストで不正をしてたら、大学入試、場合によったら、医師や法律関係の国家試験を通らないだろ?俺は陳腐な事はしないんだ。

お前等は、目の前にあるテスト勉強しかやらない。だから馬鹿なんだ。いいか?よく考えてみろ、本屋に行けば、一学年二学年、上の教科書が売っているんだ。教科書だけじゃない、教科書を解説してくれている参考書だって売っている。それを見れば済む話だ。全教科、全教科、売られている。

お前等、馬鹿だから本屋にも行かないのか?本屋は宝の山だ。俺の知識の、秘密がそれだ。あぁ、漫画だけうっている大手のチェーン店じゃない。昔からやっている、古い、本屋だ。だいたいそういう古い本屋は、実は有名で、高校受験、大学受験の参考書を置いてある。俺の父親も、母親も、その上の祖父も、祖母も、その本屋を知っていた。受験じゃ有名な本屋なんだ。別に、隠しているとかじゃない。行けば、そこに、本屋はあるんだ。行けば済む話だ。

俺はそこで、小学生の時、中学校の教科書と参考書を買った。意味は分からなかったが、読めば、理解は出来た。そのうち、塾で、それを教えるようになったから、更に、内容を深く、理解出来た。

みんな、みんな、一年、二年、先の勉強を何故、やらないんだ?俺には不思議でならない。そこに、本屋に、全部、売っているんだ。それを読めば済む話だ。

俺は思う。勉強なんてものは、最後は、丸暗記だ。国語だろうが、数学だろうが、英語だろうが、丸暗記してしまえば、それで終わりだ。理科と社会は、当然、丸暗記の問題しか出ない。いちいち考える必要なんてない。丸暗記してしまえば、何を聞かれても、それを答えるだけでいいんだ。考えるから頭を使う。考えるな、暗記しろ。

反復して暗記すれば、あらゆる問題を答えられる。

俺はそうしてきた。教科書を暗記した。意味は分からないが、聞かれた事には、答えられる。そのうち、意味は後からついてくる。それでいい。大事なのは、テストで出題された事を、返せるか、それだけだ。意味なんかは二の次だ。Aと聞かれたら、反射で、Bと答えれば、それでいい。

簡単な話だろう?

そうやって教科書を丸暗記していると、テストの出題傾向が、自ずと分かってくる。

聞きやすい問題、答えが先にある問題っていう具合に、出題傾向が見えてくる。あと、出題傾向が高い文言を、重点的に、暗記すればそれでいい。滅多に聞かれない文言は、忘れてもいい。それが傾向と対策だ。

俺は、暇さえあれば、教科書を読み込んで、暗記に力を入れている。

・・・・・そこにいる、馬鹿共。お前等だ、お前等。

テストっていうのはな、よく、思い出してみろ? さっき言った医師の国家試験、大学入試、高校入試、全部、文部科学省が出題範囲を決めているんだ。反対に言えば、そこからしか出題されない。だから余計な事を覚える必要はない。教科書だけ、重点的に、丸暗記すればいい話なんだ。

おまけに、過去問というものがある。

大学、高校、すべての入試の過去問は、世の中に出回っているから、更に、傾向を掴みやすい。過去、十年分の問題を見直せば、嫌でも、出題される問題が分かってしまうんだ。

言っておくが、中学校のテストだって同じだ。一つ上の先輩に、テストの問題をもらう。それだけで対策は十分だ。同級生に、兄や姉がいる奴を捕まえて、更に、過去の問題を入手する。

・・・・・テストっていうのは、情報戦なんだよ。情報を制した奴が、最後、勝つんだ。俺、みたいにな。」




火野「そういう意味だと学校教育は崩壊していると思うわ。」

瀬能「過激ですね」

火野「学校の機能が失われている以上、崩壊って言っていいんじゃない? 学校は次のステップに行く為だけのステージ。欲しいのは学歴。もう、過程が大切なんて言っている時代じゃないのよ。」

皇「・・・まぁ、でも、中学校までは義務教育だからな。」

火野「そこよ、そこ。お金に余裕のある家は、最初から、私立に行かせるの。義務教育で教える公立の学校に行くっていう発想自体がないの。・・・・平たく言うと、教育格差ってやつよ。」

皇「そうは言っても、教育を受ける権利は、憲法で保障されているからな。」

瀬能「教育を受ける権利は保証されていますけど、同時に、受けない選択もあるわけです。義務じゃないから、強制的に、教育を受けさせる、っていう話じゃありませんからね。」

皇「憲法の発布の歴史から見ると、誰でも、教育を受けられる権利を保障されているって、恵まれた事なんだけどな。」

瀬能「それが当たり前になってしまうと、ありがたみが薄れてしまうんでしょうね。教育を受けられなかった時代、教育を今でも受けられない貧困国の人を想うと、読み書き計算が出来るって、凄い事なんですけどね。就労にも関わりますし、ひいては、国力にも影響する問題ですから。」

火野「公立学校って義務教育なのよ。だから最低限、教科書の事を教えるだけ。法律の建付けがそうなっているから、仕方がないんだけど、じゃぁ、実際、偏差値の高い有名高校に行くには十分か?って言ったら、まったく足りていない。だから学習塾に行って、受験対策するわけだし、ハナっから公立の小中学校に行かず、レベルの高い私立に行けば、偏差値の高い授業が受けられる。高い教育を望む人間にしてみたら、公立学校は足枷でしかないのよ。」

皇「その話は分からないでもないけど、万人の受け皿なんだから、仕方がないと思うぜ?」

瀬能「そうです。嫌なら、私立に行け!って話ですし。」

火野「だから私立に行く人が増えているんじゃない。教育にお金を掛けられる家庭は、より偏差値の高い私立学校に。そうでない貧しい家庭は、公立学校に。」

皇「どこもかしこも二極化だなぁ。」

火野「私立学校は、勉強にしろスポーツにしろ、金に糸目をつけないスタイルだから、設備、講師もそれなりに一流を呼ぶ。結果、成績は上り調子。それで学校の名声が上がれば更に生徒が増える。ウィンウィンでしかないのよ。それに対して、公立学校は、昔ながらの公務員スタイル。あれもこれも現場の先生が重複して担当して、それでいて公務員だから給料だって増えないから、疲労と苦労で頭がハゲちゃうわよ。」

瀬能「昭和の学園ドラマを今見ても笑えないように、先生という仕事が好きじゃなきゃ務まらない世界ですよ。二十四時間、先生でいる事を求められる過酷な仕事だと思いますよ。」

皇「やりがいだけじゃぁ、メシは食えねぇけどな。」

火野「先生の数が限られているのに、不良だったり不登校だったり、地域自治体との連携、給食、給食費の課題、やる事なす事、てんこ盛りよ。」

皇「・・・・余裕がある親だったら、ちょっと金、出しても、安全でしかも、高い教育を受けられる私立学校に入れた方が、子供の為にもなるもんな。」

瀬能「それが教育格差ですよ。そういう、高い教育を受けられる子供は、より多くの体験型学習をするそうですよ。」

皇「なんだよ、それ?」

瀬能「あれです。ボーイスカウトとか、海外旅行とか、・・・・あと、習い事全般ですよ、少年野球やピアノ、サッカー、スイミング?バレエ、とか、とか。」

皇「??? そんなん、普通の事だろ?」

火野「うわぁ! あんた、ブルジョアなの?ブルジョアの家の子なの? スネ夫?スネ子?」

皇「???」

瀬能「瑠思亜いいですか?教育格差っていうのは、家庭の所得格差そのものなんです。お金に余裕があるお宅は、子供に、潤沢にお金が使える。家族旅行で、富士山登ったり、北海道の自然を満喫したり、沖縄のビーチで遊んだり。普段の生活では出来ない経験をする事が出来ます。それに、習い事はお金がなければ、幾ら本人の意欲があっても出来るものではありません。有名スポーツ選手が幼少期からそのスポーツを続けられているのは現に、その親の金銭力にかかっているんです。学校で経験できない多くの事を、どれだけ親が用意出来るかで、成績にも影響を与えると言います。・・・いわゆる内申点って奴で。」

火野「それに一般の家庭は、夫婦共働きが多いから、子供を旅行に連れだしたり、物理的に難しいのよ。杏子が言ったように、お金がなきゃお教室にも通わせられない。勉強だってスポーツだって、音楽芸術だって、学校以外の所でどんどん伸ばされたら、置いてけぼりにされるのは当然でしょう?」

瀬能「文科省は表立って言っていませんけど、情操教育を高める為にも、体験型学習を推奨しているんですよ。」

皇「・・・・たまたま、私だって、習い事してただけじゃん?別に、それが普通だとは思っていないけどさ。」

火野「東大出身の親を持つ子供は、だいたい、東大を卒業するっていう話もあるくらいよ。親の所得が、子を、物理的に育てるの。」

瀬能「もうダービースタリオンと同じですよ。血統です、血統。サラブレッドはサラブレッド。駄馬は駄馬。・・・・お互い、同じ土俵に立つ事はあり得ません。」

火野「所得の高い家庭は、次の世代も、所得が高くなる。教育が、所得の、二極化を後押ししているの。おかしいと思わない?」

皇「おかしいと思うけど、・・・・・親の人生はどうにもらないぜ?なぁ? 親ガチャって言葉もあるし。」

瀬能「本当に勉強が好きなら、社会に出てからお金を貯めて、学校に行き直すでしょうし、頭の優れた学生なら、学生ローンじゃない方の奨学金や、特待生制度もあります。ただ、学歴偏重の日本では、有名学校を卒業した方が就労に便利ですし、そうでなければ苦労するのは目に見えています。日本という国は、意外に、そういう所がサバサバしていて、ドライで、残酷なんですよ。」

皇「ああ。・・・・この国は、落ちると、這い上がれない、頭のおかしい国だとは思っているぜ?」




八木「こればっかりは、勉強の出来る出来ないは本人の才能だから、仕方が無いと思いますが? 先生はどう思いますか?」

瀬能「そうですね。その通りだと思います。」

八木「スポーツの才能、音楽、芸術の才能、それと同じで、勉強が出来る才能っていうのも当然あって然るべきだと思うんです。」

瀬能「八木君の言う通りだと思いますよ。」

八木「それなのに、その重要性に気づいていないと言うか、なんなんでしょうか。だって、みんな、中学の次は高校で、高校受験があるなんて、常識でしょう?それなのに、この三年の土壇場になって、志望校だの、成績だの、そんな事言っても遅いと思いませんか?」

瀬能「・・・・確かに。」

八木「俺・・・・私は小学校から学習塾に通っていたんですが、そのせいか、高校受験が言わば学習塾のゴールだったので、嫌でも、その気にさせられたっていうのもありますが、それでも、他の連中は呑気過ぎると思います。」

瀬能「そうですね。学習塾は、年が変わる頃になると、どこどこ高校合格!とか、合格者何人輩出!とか、塾の成果を発表しだしますからね。それに塾からただならぬ緊張感が伝わってきます。」

八木「あ、分かります。俺も、毎年、それ、感じます。だって、本人達にしてみたら人生、かかっていますからね。」

瀬能「八木君の言う事は最もですが、私の経験だと、勉強が出来るっていうのも個性の一つなんですよ。」

八木「個性?ですか」

瀬能「八木君は理解できないかも知れませんが、世の中には、机に座って、黙って、勉強が出来ない人もいるんです。そういう人は、勉強の重要性は理解していも、勉強を行えませんから、決して成績が振るう事はありません。」

八木「それって、ADHDとか、そういう奴ですか?」

瀬能「そうでしょうね。たぶん診断を受ければきっとそういう名前がつくと思います。そういうのも、グラデーションですから、確実に器質的障害が見つかれば違う選択肢が用意されるのでしょうが、ある程度、知能があれば、ただ落ち着きのない人っていうレッテルを貼られてお終いです。意外に多いんですよ。そういう人。グレーな人って。八木君が言うように、高校受験を見てみぬフリをしているだけならまだいいですが、病気の疑いのある人もいるから、なかなか難しい問題なんですよ。」

八木「へぇ。そうなんですね。」

瀬能「机に座って勉強が出来ないって、勉強にとっては致命的です。まぁ・・・・・頭が良過ぎて、見ただけで教科書、授業内容を理解してしまえるなら別ですが、本当に勉強が出来ないって悲惨だと思います。」

八木「俺に言わせれば、そういう人じゃないなら、三年も時間があったのに、なに、やってたんだ?って話になると思うんですよ。」

瀬能「勉強が好きな人ばかりじゃありませんからね。将来から目を背け、目の前の試験勉強しかやらない。ま、成績が伸び悩むのは当然でしょう。」

八木「そうでしょう! 先生、俺は、ずっとそう思っていたんですよ!」

瀬能「大人になってから中学高校を振り返れば、その重要性を認識できますが、ですが、当事者はその重要性を理解できない。八木君の様に理解できていれば皆、もっと真剣に取り組むと思います。・・・・何分、当時の私は優等生だったから、勉強しなくても成績が好調だったので、そんな悩みはありませんでしたねぇ。」

八木「・・・・・・自分でそう、言っちゃんだぁ。」




市井「正に俺の絶対君主制だ。」

皆川「市井。あんた、恥ずかしくないの?そんな事、言って?」

市井「いや。事実を言っただけだよ、皆川さん。実際、この学校で、今、俺に逆らえる奴なんていない。・・・・先生だって、手の平、返してくる有様さ。」

八木「市井さぁ。それって先生も受験で、忙しいし、面倒事に巻き込まれるのが嫌だから、上っ面で返事しているだけじゃないのか?」

皆川「・・・・・・」

市井「仮にそうだとしても、先生が俺の言う事を聞く、この体制は変わらない。」

皆川「あんたさぁ、こんな、郊外の公立中学で、カーストトップだかなんだか知らないけど、大きな顔していて、・・・・端から見ているこっちが恥ずかしいわ。」

市井「公立だろうが、私立だろうが、俺は学校のトップだ。これは変わらない。どんな城でも、絶対的王者にしか見えない風景があるんだ。」

八木「後輩も問答無用で言う事聞くし、確かに、気持ちはいい。」

皆川「高校行ったら、王様気取りは通用しないよ? どうせ、あんたみたいな王様気取りが集まった学校なんでしょ?」

市井「いやぁ皆川さん。俺を舐めちゃぁいけないよ? 簡単な話さ。王様の中の王様になれば、今と、変わらないじゃないか。俺は高校に行っても、トップ・オブ・トップ。キング・オブ・キングの座にすわる自信があるねぇ。」

皆川「呆れた。・・・・・その、根拠のない自信は、どこから来るのよ? 八木、あんたも、何か、言ってあげたら?」

八木「ああ、そうだねぇ。中学、卒業したら、市井とは会う事はないと思うけど、市井は、ずっと、そんな感じのような気がするなぁ。まぁ、がんばれよ。」

皆川「・・・・・八木は冷たいね」

八木「俺は市井と同じ高校に行くつもりはないし、それに、行く気もないし。」

皆川「あれ? 手が届く範囲じゃないの?」

八木「・・・・まぁ、偏差値だけで言ったら範囲内なんだけど、どうも、俺の性格に合わなそうなんだ。・・・・あそこの高校。頭、デッカチって感じでしょう?普通科だけで。勉強しかしない。」

市井「そんな事はないぞ?」

八木「俺は、市井と方向性が違うの。勉強と部活が、うまい具合にバランスが保たれているのが好きなんだ。それに無理に上を目指したくないし。・・・・皆川さんが言ったように、無理に、上の高校入って、ついて行けなくなったらそれこそ本末転倒だろ? 自分のキャパでやれる高校が一番、いいんだ。」

皆川「市井。・・・・八木を見習いなさいよ?」

市井「俺はそんなんじゃ面白くない。俺は天下を取りたいんだ。」

八木「馬鹿言ってんなぁ。」

皆川「・・・・八木。友達なんだから最後まで面倒見てあげなさいよ?」

市井「皆川さん。俺は、本気だぜ?」

八木「・・・・皆川さん。この馬鹿、本気なんだよ。こいつ、受けれる高校、ぜんぶ、受けるつもりなんだ。」

皆川「はぁ?」

八木「ほら、市井。皆川さん、困ってるじゃないか」

皆川「市井。高校を受けるのは自由だけど、・・・・受かる、自信、あるわけぇ?」

市井「あるに決まっているじゃないか。」

八木「皆川さん。こいつ、本気だからね? 世話ないだろ?」




教師「困ったものですよ、市井君にも。もう、誰も手が付けられない。」

瀬能「そんなに素行が悪いんですか、市井君というのは?」

教師「・・・・違う意味の素行の悪さなんですよ。」

瀬能「違う、意味?」

教師「ええ。彼、頭がいいでしょう?行うテスト、どれも一位で。テスト、考える、こっちより彼の方が頭がいいんですから、テスト、やる意味、ないんですよ。」

瀬能「はぁ。」

教師「テスト作る身になってもらいたいもんですよ。せっかく、時間かけて作ったテストだって、簡単に解かれちゃうんですから。こっちだって面白くもないですよ。」

瀬能「そりゃぁ、面白くないですね。」

教師「頭がいいから、やりたい放題ですよ。なんて言うですかねぇ、テストでいい点数、取ったらいいんでしょ?みたいな、そんな態度なんです。」

瀬能「それは素行が悪いですね。不良とは反対の素行の悪さです。」

教師「受験担当の先生に聞いたんですけど、彼、受験資格がある高校、片っ端から受験するそうなんですよ。」

瀬能「はぁ。変わった子もいるもんですねぇ。」

教師「そうでしょう?私も、なにが目的なのか、さっぱり理解できませんよ。頭のいい子は。そんなに受験する意味があるんでしょうか?訳がわからないです。」

瀬能「私の頃も、記念受験なんてものもありましたけど、そういうものとは違うんですか?」

教師「大学の記念受験ならまだ分かりますけど、高校の記念受験って意味あります? それに、いっぱい高校を受験すれば、それだけ受験料を支払わないといけないんですよ? 親も何も言わないのか不思議でありません。」

瀬能「まぁ。きっと。頭が良い子だから、こと、勉強の事に関しては子供に一任しているんじゃないでしょうか。・・・・・常識からは逸脱していると思います。」

教師「そうでしょう?瀬能先生も、そう思うでしょう? 主任の先生も、市井君を呼び出して、説教したみたいなんですが、暖簾に腕押し、馬の耳に念仏、豆腐の角ですよ。」

瀬能「・・・受けるのは自由ですから、学校の法律・・・・・いえ、校則で縛りがないなら、その彼の行為を取り締まる事は出来ませんものね。」

教師「でも、常識が・・・・」

瀬能「常識の外にいるんでしょう?きっと、その彼は。そういう頭のいい子は、校則とか法律の、抜け道を上手に突いて来るんです。屁理屈というか、規定の中に納まっていれば何をしてもいいって考えなのでしょうから。手を焼きますね。」

教師「まったくその通りなんです。・・・・・親を呼んで、相談するかも知れないって言っていましたね。」

瀬能「親が来て、学校の味方になってくれればいいですが、こと、自分の子供に関しては、学校の味方をしてくれない可能性だってありますからね。ある意味、勝負してみないと。」

教師「あぁぁ。ほんと煩わしい子ですよね。どうして、他の子と同じが出来ないのかしら。」

瀬能「素行の悪さに、頭の良し悪しは関係ありませんからね。むしろ昔の不良の方が、筋が通っていて可愛かったかも知れません。そんな屁理屈、一休さんみたいな子、私、嫌ですもん。」

教師「でも私達教師は、子供を選べませんからね。今年は運が悪かったと思うしか。」






皆川「・・・・・・市井。あんた、久保に、パン、買わせてるってホントなの?」

八木「・・・・」

市井「久保? 誰?」

皆川「はぁ?」

市井「いや、ごめん。・・・・・冗談じゃなく、本気で、久保って誰?」

皆川「ホント、あんた、舐めてんの?」

八木「待って待って待って皆川さん。怒らないで。怒らないで。怒るだけ損だよ、こんな奴に。」

皆川「あ゛?」

八木「こいつ、本当に、分からないんだ。久保の事。」

皆川「・・・・・眼中にないって事?」

八木「そういう事。こいつ、自分と同じ位の奴しか、目に入ってないんだ。」

皆川「・・・・・・・・」

市井「皆川さんには申し訳ないけど、俺、なんで、キレられているか、正直、分からないんだけど? あのさぁ、手ぇ。良かったら、その手、放してくれないかなぁ。」

皆川「・・・・・・・。あんた、病気よ。病気。」

市井「それは心外だよ。・・・・・・だって、話が通じる奴しか、俺、顔、覚えてないんだもん。話が通じない馬鹿は、顔すら思い出せない。あえて言うなら、顔を覚える必要がないだろ?相手にしない人間を覚える程、俺は暇じゃないんだ。だったら英単語のひとつも覚えた方が脳の有効活用になる。そう思わない?」

皆川「・・・・・・・・」

市井「クラスの奴の顔、覚えていない所で何も困らないけどね。」

皆川「呆れた。あんた、本当に王様気取りなのね?」

市井「気取っていないよ。本気で俺は王様なんだよ。」

皆川「・・・・・・・・・」

八木「何度も言うけど、皆川さん。こいつ、冗談で言ってないから。」

皆川「それで久保にパン、買いに行かせているわけ?」

市井「??? パンを買いに行く奴に、パンを買っておいてって頼むのが、何がおかしいのさ? おかしな事をいうねぇ、皆川さんは。どうせ買いに行くんだろ?手間が省けて丁度いいじゃないか。」

皆川「頼んでも、文句を言わない奴を選んで、買いに行かせているっていうのが、おかしいって言ってんのよ。」

市井「まぁ・・・・・言われてみれば、確かに、皆川さんの言う通りだけど。文句を言われた事は無いね。言う事を聞く奴を、実際、選んでいるから。・・・・・・・・でも、どうしちゃったの、皆川さん。正義に目覚めちゃったとか?」

皆川「正義? 人としてどうなの?って言っているのよ?」

八木「別に文句とか言われていないんだから、いいんじゃないの。久保も嫌がってないんだし。」

皆川「はぁ?」

市井「皆川さんだって、クラスの女子に、贔屓されているじゃない?何かと、特別扱いされているの、俺は、知ってるよ?」

皆川「は?・・・・贔屓・・・・・?」

市井「俺は男子だから分からないけど、女子特有のそういうの、あるって聞いたよ。例えば、更衣室のロッカーとか。・・・・一番、使いやすいロッカー、使っているんでしょう?本当はみんな、使いたいけど、気を使って、皆川さんに使わせてあげているって。」

皆川「馬鹿言わないでよ!」

市井「気が付かないわけないじゃない。どうして、いつも、同じ、ロッカー、使えるの? 一軍の皆川さんだから、みんな遠慮して、使わないだけなんだ。 みんな、皆川さんには逆らえない。一軍のトップだからね。」

八木「皆川さんもさぁ、購買でパン、買って来てって頼んでみたら? 誰でも買って来てくれると思うよ?嫌な顔、一つせずにね。」

皆川「・・・・・・・・・」

市井「皆川さん。・・・・・もう、仲良しごっこはお終いなんだよ。」

皆川「・・・・・・」

市井「王国は完成されてしまったんだ。この、王国は階級によって支配される。絶対、王政。王の権力は絶大だ。

皆川さんも、その権力を行使しているんだよ、見て見ぬふりをしているだけで。

逆にさぁ。それは、下々の者に悪いと思わないかい? 王は王として君臨すべきだ。その自覚をもって、支配すべきなんだよ。なぁ、八木?」

八木「・・・・ま、このシステムを良いとは思わないけど、俺は精々、このシステムを有効に使わせてもらうよ。なにせ俺は、上の人間だからね。」

皆川「・・・・・・・・・」




ガラガラガラガラガラ~

瀬能「おおっと、黒板消しトラップは無いようですねぇ・・・・・・」

三年「・・・・・・・・」

瀬能「あ、すみません。急遽、数学の先生に変わりまして、代役で、務めさせていただきます、瀬能です。よろしく。」

生徒「起立、礼、ちゃ」

瀬能「ちゅ~も~く」

生徒「注目?」

瀬能「注目。・・・・注目です。」

生徒「・・・・?」

瀬能「知らないんですか? え? 皆さん、知らないんですか? 起立、礼、注目、着席。これが群馬県の礼節ですよ?」

生徒「・・・・先生、ここ、群馬じゃないから」

瀬能「ええええ? ええええええ?」

生徒「・・・・・・・・・・・・いや、あの、驚かれても困るんだけど」

瀬能「群馬県のスタンダードは世界のスタンダードだと思っていたのに・・・・・・カルチャーギャップです。」

生徒「・・・・・・・・先生、カルチャーショック、カルチャーショック」

瀬能「ああ、そうとも言います。」

生徒「・・・・・・・・・・・」

生徒「・・・・大丈夫か、この先生」「非常勤の先生だろ?」「たまに廊下ですれ違うよな」

瀬能「美人で有名な、瀬能です。・・・・・・・自分で言うな、っつってぇ」

生徒「・・・・・・・・・・・」

瀬能「えぇぇ、では、場も和んだようなので、これからテストを行います」

生徒「え?」「いや、あの」「え?」「先生、何も聞いていません!」

瀬能「それは当然です。何も教えていませんから。極秘事項です、機密案件です。」

生徒「・・・・・・・」「いやいやいやいやいやいやいや」「抜き打ちとか卑怯だよ!」

瀬能「昨日から、代打が決まってから、ワクワクして眠れませんでした。眠れないから、一晩中、テストを作ってしまいました。」

生徒「小学生か!」「ちょっと待ってよ!」

瀬能「まぁ皆さんも、受験ですから、もう数学なんて、やり慣れて、やり尽くしているかも知れませんが、腕試しだと思って、解いてみて下さい。はい、では、問題を配ります。あ、私が配りますから、皆さんは、そのまま、待機していて下さい。」

生徒「え?」「あ、はい。」

瀬能「はい。では、皆さん、全員に、問題が行き届きましたか? ま、私が配ったんだから、届いてますよね。そりゃ当然です。

一応、念の為、注意事項を説明します」

生徒「いいよ、もう」「先生、早く、テスト、」「もう始めていいですか?」市井「・・・・・・」

瀬能「このテストは、完全なカンニング防止策を施したテストと、なっております。あ、ちなみに、私が考えた、カンニング対策です。」

生徒「はぁぁぁああ?」「なにそれぇ?」「普通のテストじゃないの?」「カンニングなんかしねぇよ!」

瀬能「実は、このテスト、全員、問題が違っております。」

生徒「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああ????」

生徒「なにそれ?」「え? 全員、違うの?」「どういう事?」「先生、無駄に手間かけてるなぁ」

瀬能「テストでカンニングが行われるのはどうしてか? 何故だと思います? それは全員が、同じ問題を解いているからです。全員が違う問題に取り組んでいれば、カンニングのしようがありません。自分の問題は、自分で解くしか、ないからです。よって、皆さんは、自分の問題にのみ、最大限に集中して下さい。」

生徒「なんだよそれぇぇぇ」「そんな事しなくても、誰も、見ねぇわぁ!」

八木「先生! 質問です」

瀬能「はい八木君。」

八木「あのぉ、全員が違う問題をやるっていうんなら、採点はどうなるんですか? 全員が同じ配点じゃなきゃ、テストの意味がないと思うんですが? 問題を解かせるっていうだけの意味なら、配点すら意味がなくなってしまいますけど。」

瀬能「ああああ。八木君は賢いですね。」

生徒「おい、八木! 説明しろよ?どういう意味だよ?」

八木「いや、だから。みんな、問題が違っているって事は、点数にバラつきが出るだろ?その整合性はどうなってんだ?って話で」

生徒「意味わかんねぇー」「余計混乱するわ」

瀬能「はい、そこは、ぬかりありません。私は、顔も良ければ頭も良いので。」

生徒「いや、聞いてないから」

瀬能「問題に関しては、問題の構造は、全員、同じです。違うのは、数値だけ。ですから、全員に違う問題を用意したのは間違いありませんが、本質は、同じ問題です。」

八木・皆川「ああ、なるほど」

生徒「納得すんなよ」

瀬能「そして、ランクアップチャ~ンス!」

生徒「はぁ?」「なに?」「今度はなに?」「ランクアップチャンス?」

瀬能「今回のテストは、ランクアップチャンスを導入しました。」

生徒「だから、何ですか?それは」

瀬能「普段行われる、中間試験、期末試験等のメジャーどころのテストでは、頭の良い人が成績上位を独占し、そうでない方は、下位に甘んじてしまいます。」

生徒「当然だろ」八木「・・・・・・」生徒「先生、今度こそ、なに言ってんの?」

瀬能「このテストはそういうのを度外視し、下位の皆さんをどんどん、上位に送り込む、ランクアップチャンスを設けております。

では、その画期的な方法はといいますと、元来、どこのテストも、大学入試テストもそうですが、難しい問題に高い配点が割り当てられております。」

市井「・・・・・」

瀬能「これはテストの攻略法のひとつで、全部の問題を解ける裁量と時間があればよいのですが、それが出来なかった場合、優先順位をつける必要があります。テストは時間が限られていますから、その時間内で、高得点を取らなければなりません。ならば、配点の低い問題を捨て、高い配点の問題を優先して、解いた方が、結果的に、高得点に繋がります。」

生徒「なるほど」「先生、頭いい」「いや、常識だろ?」

瀬能「皆さんが行うテストは、簡単な問題。反復して解く計算問題などは、配点を高く。逆に、文章問題や、計算に恐ろしく時間を要するような問題の配点を低く設定してあります。」

生徒「先生、グッジョブ!グッジョブ!」「みんないい点、取れんじゃん!」「先生、ナイッス!」

瀬能「・・・・・・・当然、上位の方々は、全部の問題を解いてくれると信じておりますが。ランクアップチャンスに負けないよう、がんばって下さい。」

市井「・・・・・・・・・」

八木「要するに、点数に差が生まれにくい構造だって事でしょ? 先生、それは成績上位者に対する当てつけ?」

瀬能「どう捉えて頂いても構いません。いっつも、同じ人が一番じゃぁ面白くないでしょう?」

生徒「先生、性格、悪いよ」「俺、がんばっちゃおうかなぁ」

瀬能「さらに皆さん! 出血、大サービス! 教科書、ノートの持ち込みを許可します!」

生徒「は?」「は?」「え?」「はぁぁぁぁああああああああああ?」「なに考えてんの?」「は?」「いや、まじ?」

瀬能「科目によっては辞書、教科書の持ち込みが許されていますから、今回は、それを導入してみようと思いました。」

生徒「先生、それは法律とか、そういう奴のテストでしょ?」「数学のテストで教科書持ち込みOKとか、頭、どんだけぶっ飛んでんだよ?」

瀬能「あなた達。何か勘違いをしていませんか? これが理科や社会なら、答えが載っていますからね。カンニングと同じです。ですが、これは数学の問題です。いくら教科書やノートを見たところで、答えが載っている訳ではありません。あくまで、ヒントが載っているだけです。先程、ランクアップチャンスと言いました。教科書、ノートを参考にして、ランクアップチャンスを活かして下さい。」

生徒「先生、マジ、天使~」「いや神だ」「女神様だ!」

瀬能「フフン。もちろん、上位の皆さんは、教科書を開かなくても、解けると思いますが。」

生徒「俺、俄然やる気出てきた!」「あたしもぉぉおおお!」「これは行けるぜ!」

瀬能「さぁ、皆さん。テスト開始でぇぇぇぇぇええす!」

市井「・・・・・・・・」八木「・・・・・・・・・・」皆川「・・・・・・・・・・」




教師「もう市井君はやりたい放題ですよ。」

瀬能「でも、パンを買いに行かせるだけでしょう?カワイイもんじゃないですか。」

教師「そうでもないんですよ。・・・・・後輩とかに、パンとかハンバーガーとか、奢らせているらしいんです。」

瀬能「奢らせている・・・?」

教師「奢らせているっていうか、奢るっていうか、後輩達が、市井君に、奢るそうなんですよ。自主的に。」

瀬能「ちょっとした接待じゃないですか。」

教師「そうです。接待。・・・・学校の帰りなんかに、コンビニとかハンバーガー屋で、市井君に接待するんですって。」

瀬能「へぇ。」

教師「これが、別に市井君が催促しているんじゃないから、だから、恐喝でもないし、カツアゲでもない。だからこっちは何も言えない。」

瀬能「それに生徒同士の問題ですしね。」

教師「そうなんです。もう、市井帝国ですよ。」

瀬能「皇帝ですか。あははははははははははは。」

教師「笑いごとじゃないですよ。益々、図に乗りますよ、あれは。」

瀬能「そうでしょうねぇ。でも、皇帝陛下じゃ仕方がないじゃないんですか。誰も皇帝には逆らえませんもん。」




主任「ああ、瀬能さん。もう、帰り?」

瀬能「主任先生。お疲れ様です。」

主任「受験も一段落した事だし、みんなで、中休みしようと思うんだけど、瀬能さんもどうだい? 一杯」

瀬能「あ、よろしいんですか?」

主任「ああ、もちろんだよ。この時期、どこの学校も、受験受験で大騒ぎだからね。毎年の事だけど。」

瀬能「大変ですよね。お察しいたします。」

主任「気晴らし。気晴らし。たまには息、抜かないと、詰まっちゃうから。」

瀬能「・・・・・送り出す方が神経つかうんだから、もう少し、先生方のご苦労も察して欲しいものですよね。生徒も親御さんも。」

主任「そ! そうなんだよ! そうなの、瀬能さん。よく分かってる。よく分かってる。生徒はさぁ、自分で、勉強している気になってるけど、それ、教えているこっちの方がどれだけ気ぃ使っているか、分かってないんだよ。そりゃぁ一生の事だからカリカリするのは分かるけど。でもまぁこっちも仕事だからね。」

瀬能「人の人生に関わる大変なお仕事をされていらっしゃる。素晴らしいと思います。」

主任「そう?そう思う?いやぁ。こういう仕事は子供、好きじゃないと務まらないよ~。瀬能さんみたいに理解ある人が増えてくれたらいいのに。みんな、この時期、神経使い過ぎてハゲちゃう人も多いんだよ。」

瀬能「ハゲちゃうんですか?」

主任「冗談じゃなくて、ホントだよ。若い、先生なんか、女の人でも、円形脱毛症だよ?」

瀬能「十円ハゲ!」

主任「そうそう十円ハゲ。女の人にハゲなんて言えないけど、あ、言っちゃってるか! なぁ? はははははははは!ははははははははははは!」

瀬能「今日は主任先生、絶好調ですね!」

主任「高いお店、行けないけど、居酒屋でさ、中打ち上げ。あ、電話番号、教えておくから。あとで、電話してきて。場所、わかる?」

瀬能「主任先生、申し上げにくいんですけどぉぉぉ、今日、たまたまぁ、お財布、家に忘れてきちゃってぇぇ、このまま、直行してもいいですかぁ?」

主任「いいよ、いいよ、構わないよ、出すよ、出す、俺がなんとかするよぉ!」

瀬能「いやぁん! さすがぁ、主任先生ぃ!」




ガヤガヤ! ガヤガヤ!!

教師「生徒はねぇ。まるで先生を分かっていないんですよ。」

瀬能「ですよねぇ」

教師「受験対策で、過去問、どれだけ用意して、コピーして、指、黒くしているの、知らないんですよ。」

瀬能「おっしゃる通り」

教師「それでですよ、分かるまで、教えなくちゃいけない。分かるまで、教えないといけない。・・・・あれが面倒なんですよ。教科書、行ったり来たりですよ。何回、公式の話したか分かりませんよ?」

いらっしゃいませぇぇぇぇええ! 何名様ですかぁぁぁぁ!

教師「こっちだってそうですよ。毎年、出ている、歴史の問題。もう、サービス問題ですよ。それを教えているのに、分からない。暗記すらしない。舐めてんのか!って思いますよ!」

教師「だいたいですよ。頭のいい奴等はいいですよ、ほっとんどの生徒が、分からないんですから。」

教師「ああいうの、塾で教えていないんですかねぇ?最近の塾は!」

教師「おかしいですよね。出題、下手すりゃぁ、あれ、高校から情報、漏れてるんじゃないかってくらい、ピンポイントで教えるくせに、学習要項を無視しているっていうか、沿ってないっていうか、あれ、なんなんでしょうね。」

教師「塾もアテになんねぇからなぁ。」

教師「やれやれですよ!」

教師「聞きました?市井君の話。」

はい生!生、五つぅ!

瀬能「なんですか?」

教師「この前の、テスト。彼、時間、半分くらいで終わっちゃって、教室、退室したんですって。中学生じゃないですよ。」

教師「まぁ。分かりますけど。小学生や中学生がする、テストじゃ、やらないですもんね。相当、テスト慣れしているんでしょうね。」

タコマリネ三つお願いします!

教師「先生、退室していいですか?ですって。そうしたら、他の生徒も真似しちゃって。」

教師「そんな簡単に解ける問題出す先生が悪いんですよ。」

教師「それ、言います?」

教師「市井王国もあと少しですよ。卒業しちゃえば、こっちのもんだ。」

教師「まだ市井王国は扱いやすかったですね。前の、前の、奴は、どうしようもなかった。」

ジンジャーハイボール、お願いします

瀬能「そうなんですか?」

教師「そりゃぁ大変でしたよ。教師を玩具にするような奴だったんで。・・・・手に負えなかったですね。しかも、自分じゃぁ手を汚さないタイプだったから。」

教師「最悪ですよ。手をあげたら、こっちが負けですから。」

教師「子分を使って、突っつかせて、面白がっている様な奴でしたからね。それに比べたら、市井なんて可愛いもんだ。」

教師「警察沙汰になっても、自分は逮捕されない所にいるんだから。命令だけして。捕まるのは子分。・・・・あれは酷かった。学校もどう対処していいか、困りましたよ。」

教師「知能犯ですからね。」

教師「卒業しちゃえば、こっちの勝ちですけどね。」

教師「毎年、毎年、新しい王様が誕生するんです。良い年もあれば、最悪な年もある。それはもう、王様次第。来年は、市井を見ているから、少しは落ち着いた王様が出てくるといいんだけど。」

サービスで、じゃんけんに勝ったら、ジョッキがピッチャーになりますけど?挑戦しますか!

教師「本年度も、無事、終わりそうで何よりですよ。」

教師「まったくです。」




二年生「これ。・・・・・市井から手にいれたぜ。」

二年生「ああ、理科の前期試験の問題か。あいつ、性格悪いから、そういうの、くれそうにないだろうに。よくくれたな。」

二年生「ああ、ちょろいちょろい。あいつ友達いないから、ちょっと、金つかって、困った後輩のフリすれば、すぐ、くれたぜ。」

二年生「ちょっと、コピーさせてよ。」

二年生「なんだったら、国語と英語もあるぜ?」

二年生「大好き!愛してる!」

二年生「全部、市井か?」

二年生「そうだよ。あいつは、少し、おだてれば、好きなだけ情報を吐いてくれる。いいカモだよ。本気で。」

二年生「あいつ、調子に乗ってて、気持ち悪いんだけど。」

二年生「変な目で私達の事、見てるのよね? 気があるのかしら。」

二年生「あるに決まってるだろ? 三年の女に相手にされてないんだから、一年二年の女に行くのは当然だ。なんせ王様だからな。」

二年生「カモにされている王様がいるかよ?」

二年生「俺達に踊らされている、哀れな王様だよ。」

二年生「!」

瀬能「あ、」

二年生「!」「!!」「?!」

瀬能「あ、どうも。」

二年生「こんにちは。」

二年生「先生、どうされたんですか?こんな所に」

瀬能「一服しようと思いましてぇ、」

二年生「先生、ここ。ここ、学校ですよ?」

瀬能「知ってますけど?」

二年生「そういう事じゃなくて。」

二年生「あの、学校は、校内は、禁煙なんですよ?」

瀬能「え? え? え?」

二年生「先生、知らなかったんですか?」

瀬能「ああ、ああ、そうだったんですか。ああ、そうだったんですね。ああ、そうか。・・・・・体育館の裏に行けば、喫煙所があると思ってたのに。・・・・・残念です。」

二年生「それは残念ですね。」

二年生「学校の敷地の外に出れば、吸えますよ?」

二年生「でも先生、今、勤務時間内じゃないんですか?」

瀬能「あははははははははは もちろん。休憩時間ですよ。自主的な。」

二年生「自主的って・・・・・」

瀬能「あぁぁ、残念だなぁ。一服したかったのにぃ。ところで、・・・・・・あのぉ、皆さんは、こんな所で、何をしていたんですか?」

二年生「いや、何も。」

二年生「いや、ちょっと、話して帰ろうかなぁって。」

瀬能「そうですか。・・・・・それ、何ですか?」

二年生「それって?」

瀬能「その、プリントです。それ。」

二年生「いや、何でもないです。」

瀬能「・・・・・へぇ。難しい勉強しているんですねぇ。もう三年生の内容を。感心ですね。」

二年生「・・・・・・・」

二年生「・・・・・・・」

瀬能「来年、それと同じ、問題がテストに出るといいですねぇ。」

二年生「!」

瀬能「私、うっかり、理科の先生に、来年は違う問題を出してみたら?なんて口、滑らせちゃいそうです・・・・・・」

二年生「・・・・・・」

二年生「・・・・先生、何か、あの、俺達で良かったら、お手伝いできる事があったら、何でも言って下さい。」

二年生「何でも協力します。何でも。」

瀬能「本当ですか? 悪いですねぇ。何か催促しているみたいで。」

二年生「いや、俺達も来年、三年ですから。是非、先生にご協力したいと思いまして。はい。なぁ?」

二年生「いや、本当です。」

二年生「そうです、そうです。」







八代「ほら、協力したんだから、コーヒーぐらい奢りなさいよ!」

瀬能「ええ?」

八代「ええ?じゃないわよ、非常識講師」

瀬能「でも八代妙さんのおかげで、いいコマが手に入りました。」

八代「フルネームで呼ぶなって言っているでしょ!」

瀬能「他の生徒の皆さんも、八代妙さんを見習って欲しいですよね。」

八代「は? ちょっと話、聞いてた?」

瀬能「その、何事にも媚びない姿勢。是非、見習うべきだと思います。ただ、あなたは、もう少し、目上の者に対する礼儀が足りないので」

八代「尊敬できる人間にはそれ相応の態度を取るのよ、あんたにはその要素がないだけ!」

瀬能「なんですか! なんですか! やるんならやりますよ!泣いても知りませんからねぇ~」

八代「あああぁ! 相手になってやるわよ!」




ガヤガヤ! ガヤガヤ!!

教師「学校で、王様を気取ったって、たかだか一年かそれくらいの話ですよ。王様はそれが分かっていない。」

瀬能「はぁ。」

教師「この国を動かしているのは誰だと思います? 代議士だと思いますか?いいえ違います。 官僚ですよ。」

教師「学校も、それと一緒です。学校は小さい、小さい、国家ですからね。」

教師「我々が動かしているんですよ、王様を。・・・・・それに気づかないなんて、王様もまだまだ子供なんです。」

教師「ただ・・・・」

瀬能「ただ?」

教師「今年は厄介のがいた。」

教師「いた!いた!厄介な生徒が!」

教師「気づいちゃった生徒がいたんですよ。気づかないフリして学業続けていれば良かったのに。」

教師「まだ裸の王様より頭は良い。聡明ですよ。・・・・危険ですけどね。」

教師「・・・・・生徒自治なんて本気で言う奴の方が、よっぽど危険ですよ、我々にとってはね。」

教師「あやつれない、あやつり人形ほど、面倒なものはありませんよ。」

瀬能「いやぁ。勉強になります。」

ガヤガヤ!! ガヤガヤ!


※全編会話劇

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