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わたくしの名誉へのこの度のご尽力、誠にありがとうございました。

作者: 高梨恋鳥

わたくしの家は孤立している。


まず、王族から嫌われている。そして、他の貴族からも嫌われている。


理由は知らない。優秀な人材を今までに数多く輩出しているから、その妬みでもきているのかと思うのだけど…



わたくしは、今学園に通っている。


もちろん嫌われている。先生たちにも、生徒たちにも。だから、面倒事を押し付けられている。


例えば森に強力な魔物が出たから倒しに行ってくれないか。例えば、授業で敵役を延々とさせられる。


先生によって、意地悪は様々だ。


だけど、共通していることがある。どの先生も、わたくしがそれを成し遂げたとしても見て見ぬふりをすること。

そして、わたくしの訓練になることを押し付けてくること。


わたくしの家はわざと孤立しているんじゃないかしら?そう思うくらいに、わたくしの訓練になるものが来るのだ。…いくら人がそれを面倒事だと思っていたとしても。


今日も、わたくしは面倒事を押し付けられていた。


明日校外学習があるため、そこにいる魔物を倒しておいてくれないか、という要望だ。

まあ手応えがありそうだったし、もともとそういうのは断らないのがわたくしの家だ。だからより押し付けられるようになるのだけど…


そこはまあまあ国の端の方だった。


なぜわざわざこんなところで校外学習をするのかしら?もし誰かが間違えて隣国に行ってしまっては問題よ。


まあそんなことも考えつつ。魔物を倒していく。


「なぁ、国境越えちゃったけど大丈夫か?」


「大丈夫さ、こんなところこんな時間に来るやつなんていない。」


あのー…わたくしはいるのですが。

まあいいでしょう。

なにか深刻そうな話をしそうなので、黙って聞いてみることにした。


「最近うちの国忙しいじゃんか。給料はそのままなのに働く日数を増やされるしさ。」


あぁ…そんなこと自国では言えませんわね。

もしバレたら退役、もっとひどい場合もあるかもしれませんももね。

わたくしがこれの証拠を掴んで送りつければ一発ですが…やめておきましょう。面倒くさいし。


「はぁなんであんな嫌われ者の領地を攻撃しなくてはならないのか…」


あら?

わたくしの家と似た立場の家があちらにもあるのかしら?


「あの家って優秀なんだろ?そんな領地を攻撃して何になるのか。負けるんじゃねえの?」


まあ!優秀なところまで同じなのね!不思議な偶然ってあるものね。


「知らね。俺達はとりあえずこっそりでも生きて帰ればいいんだよ。」


「それもそうだな。ベスティーア家なんて放っておけばいいか。」


ベスティーア家…わたくしの家のことね。そんな偶然ってあるのかしら…


なんて思うわけがない。


あらら、思わぬところでいい情報を手に入れてしまったわ。

これはお父様に伝えるべきね。



「ただいま帰りました。」


「おかえり、アリアナ。」


「お父様、後でお話があります。」


「分かった。執務室に行こう。」


流石お父様。話が分かるわね。



「それで、何があった?どうせ面倒事で面倒事を手に入れたのだろう?」


「ええ、そうですわ。本当なら知りたくないことでした。」


「それで、どんな内容だった?」


「我が家の領地が帝国に脅かされそうになっております。」


「そうか、それでどこからの情報だ?」


流石お父様。これだけでは驚きもしないのね。正直…少しくらいは驚いてほしかったわ。


「兵隊からですわ。」


「兵隊か…ふむ、戦争が起こるのは我が家だけかな?それとも他の家も巻き込むのかな?アリアナはどう思う?」


「そうですね…少し情報が足りないのですが…」


今までのことを思い出す。




少し前、見たとある資料。


それには我が家とこの国の標準を比べた資料だった。


我が家はどれも抜きん出ていた。


いくら他のところから嫌われようとも、中が豊かなのだから人は集まる。


それは貴族たちには手を出せないところだ。




「普通に考えますと、我が家だけを襲撃するメリットはないわ。」




しかし、あの兵隊たちは一般的なものだ。


彼らのような者たちばかりで構成されている帝国軍が我が王国全部を相手にする?


帝国はそこまで軍隊の規模はなかったはずよね…




「しかし帝国軍の規模からすると、王国全部とは考えにくいわね。」




では…我が家が狙いでは無いとしたら?


そう、我が家をダミーとして使い、他の領地を狙う…。


狙う価値がある領地は…


隣のスラローム領はあまりいい領地だとは言えないわ。わたくしたちの領地に何人も移住してきているもの。


ではクロベータ領はどうでしょう?


あの家は行商が盛んね。帝国にも盛んに行っている行商達がいるからきっと狙わないわ。


となると残りのデストレイア領かしら?


確かあの領は…。鉱山があるわ!でしたらそこが最も可能性が高いわ。




「デストレイア領のダミー…かしら?」



「それが結論か?」


「ええ。」


「では私の考えたことを話そう。」


まずお父様も私と同じくデストレイア領のダミーだと考えた。しかし、我が家をダミーに使う意味はない。だったら何も不思議なことはない、我が領が狙われているのではないのか?


「私はそう思った。」


「なるほど…確かにダミーに使うならもっと手応えのありそうな領を使うわよね。…!」


「お、気付いたか?」


「我が領をなぜ帝国は狙うことにしたのでしょう?」


「さあな。ある程度の自信はあるかもな。」


ありえないわ。


わたくしたちの家の実力は昔から知らしめられているはずよ。それなのに狙うなど…

そんなこと…


なにか兵器でも開発…いや、何か強い魔術師でも見つけたのではないとやるわけがないわ。


それだったら最悪ね。


「帝国は…いい人材でも見つけたのでしょうか?」


「さあな。ともかく私たちは自領を守ればいいのだ。」


「そうね。学園は休むわ。」


「まだ時間はあると思うが?」


「心配だもの。」


「そうか。まあもともと嫌われているし、問題ないか。」


「そういうわけよ。」


そこから、少しお話して、驚いたりして、今、領地に戻っている。



「お父様、帝国はいつ襲撃してくるかしら?」


「分からないな。その方が面白いだろう。」


「お父様!民の命もかかっているのですよ?」


「分かっている。今は情報を集めているんだ。そう急かすな。」


「…本当に王家に助けて貰わないのですね。」


「もちろんだ。あんな家、我が家を助けてくれないからな。」


「そうですか…」


まあそうよね。仕方がないわ。



「使者が参りました。通しますか?」


「通せ。」


「はっ。」


何か連絡があったのかしら?


「帝国軍がいよいよ出発の兆しを見せているようです。」


「分かった。こちらも準備しよう。」


「いよいよね。楽しみだわ。」


「それは良かった。暴れるぞ。」


「もちろんです!」


この日をどれくらい待ち望んだか。早く攻撃に来て欲しいわ。楽しみね!




「アリアナ、準備はいいか?」


「はい!」


「そなたらもいいな?」


「「「「「「はい!」」」」」」


「では出陣だぁ!」


「「「「「「「おう!!」」」」」」」




「…え?」


「あら?」


「「敵が少なくないか(しら)?」」


「「まさか!」」


ダミーだったの!?でしたらきっとデストレイア領よ!急がないと!


「お父様、わたくしが行ってまいります。」


「あぁ、騎士の半数も後で連れて行く。」


「迷惑ですわ。一人でなんとかします。」


「いちおう後から行かせるだけだ。」


「…分かりました。」


デストレイア領侵攻の際に邪魔になるのは我がベスティーア家。ベスティーア家は侵攻を防ぐだけの力がある。だからここの領を狙うと見せかけて、ベスティーア家は自領の防御に専念してもらい、小規模な軍隊を送り、軽く足止めしている間にデストレイア領を狙うのね。


ベスティーア家ともあろうものが騙されてしまったわ。


ここは…あちらが一步上だったと認めないといけないわね。もっとも、戦闘力において負けるつもりはまったくありませんけど。



「見つけたわ。」


帝国軍は追いついたとき、森にいた。


「障壁!」


兵隊全部を囲うように土壁を築く。


休憩時間だったのかしら?一つにまとまっていてくれて助かったわ。


「さて、殺戮の時間よ。わたくしの…ベスティーア家の力を見せてあげるわ。」


そう言葉にし、一人一人倒していく。


わたくしは、魔術よりも剣術が好きだ。その方が倒したという実感がある。魔術だと、間接的に倒したという感じがするから、それが嫌いなのだ。



近くにいる兵士が気づき、わたくしを狙いにやってくる。だけどそんな簡単に負けはしない。


魔術で来られたら魔術で返す。剣で来られたら剣で返す。それがわたくしの流儀。そして、わたくし自身で葬ることで、その死を無駄にはさせない。その思いを持ってどんどん敵を倒していく。


魔術での攻撃を魔術で返すとき、他の人も大勢巻き添えにしてしまったようだけど…まあ気にしている暇はないわ。その人達はまだ剣で攻撃してきたわけではなかったのですし。


「ぎゃああああ!逃げるぞおおお!」


あら、もうそんな頃合いかしら?だいぶ人数は減ったわね。では障壁を狭くしてあげましょう。


「解除、障壁!」


「なんだ? うわあああああああああああああ!」


気付いたようね。ではまた殺戮ショーを開始しましょう。


「ぎゃあああああああ!殺さないでくれえええ!」


「え?無理よ?あなたはわたくしのためにも死んでもらわなくては」


「ひいいいいいいいいいいやめてくれえええええええ!」


うるさい方ね。えい!


「ぎゃあああああああ…。」


よし、これで静かになったわ。…ってあら?


「皆さんどうされたの?かかってきなさいよ。」


「嫌だああ!降伏するから助けてくれえええ!」


えぇ…人数が多いと大変なのよね。まあいっか。捕虜を連れて帰るのも名誉になるでしょう。


「分かったわよ。拘束!」


「「「「「ありがとうございます!」」」」」


感謝されるのは悪くはないわね。


さあて、戻りましょう。


ええとロープは…あった!これで頑丈に縛って…


「あのー」


「何かしら?」


「きつくて…動けません。」


「はぁ?面倒くさいわね。」


仕方なく少しだけ緩めた。まったく、手間がかかるわ。




「ただいま帰りました。」


「おかえり、無事なようで何よりだ。…捕虜か?」


「ええ。全員切っても良かったのですけど懇願されてしまって…」


「そうか、まあ悪いことではないだろう。私が責任をもって預かっておく。」


「ありがとうございます。」


「では王都に戻ろうか。」


「そうね。お母様も待たせているし。」




「お母様!ただ今帰りました!」


「おかえりなさい、アリアナ。ところで陛下からパーティーの招待状が来ているのだけれど…」


へ?どういうことかしら?我が家は嫌われているはずよ。


「名誉が授与されるみたいよ。」


まあいいわ。この機会に遊んできましょう。




そしてパーティー当日。


「アリアナ・ベスティーア。そなたを、自領ならず他領まで守り抜いたとして、神人の名誉を与える。」


まあ!与えられる名誉は神人でしたの?


これは自慢できるわね。神人なんて人が与えられる最上の名誉よ。


そして本当に王家の方が名誉をくださったわ。驚きね。


「何か一言言いなさい」


「わたくしの…ベスティーア家の名誉へのこの度のご尽力、誠にありがとうございました。」



◇◆◇


領地に戻る前にお父様と帝国が脅かしてきていることを伝えた後の会話で。


「ところで、お前はなぜ我が家が嫌われ者になっているのか気になったことはないか?」


「もちろんあるわ。」


「この機会に教えてあげよう。我が家は名誉をもらうために嫌われているのだ。」


「嫌われたら名誉など遠ざかるかと思いますが…」


「我が家が参加するものには他家は参加してこないだろう?そういうことだ。」


なるほど。


「そして、我が家は戦争を仕掛けられるタイミングを100年間も待っていた。」


「100年も?スケールが大きいわね。」


「それだけ、我が家は優秀であるとともに顧みられない一族だったのだよ。」


「しかし、王家の方はわたくしたちに名誉を与えてくれるのでしょうか?」


「知らないな。その時はその時だ。」


「…」


「あと、理由はもうひとつあってな。鍛錬をするためだ。」


「あぁ…やはりそれもあり、わざと嫌われていたのね…。」


まさか本当にわざと嫌われるなんて…


◇◆◇



わたくしも知ったときは驚いたわ。


そしてこの名誉は多大なる方々の尽力で出来ている。


例えば、ベスティーア家の先祖様。そして嫌ってくれた貴族の方々。そして、鍛錬のためにわたくしに程よい面倒事…いえ、鍛錬を押し付け…いえ、くださっ方々。さらには、王族の方々も。


わたくしがそう考えている間、貴族たちは…。


(何!?まさか嫌われていたのもこのときのため…)

(いや、そんなことはないだろう。嫌われ始めたのは100年以上前だと聞いたことがある。)

(だが、あそこはベスティーア家だぞ。)

(確かに…)

(では…我々は…)

((都合よくこの名誉のために使われてしまっただけだというのか!?))

(あの発言…そう考えると納得がいく)

(つまり、我々は…)

(そうだな…)

((騙されたのだ。))

(やられたな…)

(しまった…)


そんな会話をしていたり、していなかったり…。まあ少なくとも、一部の頭の出来の悪い者を除き、みんな悔しさを感じていたのは間違いないだろう。


「では、パーティーを再開してくれ。」


わたくしもパーティーに行くべきかしら…と考えていると、国王陛下に呼ばれた。


「何か気になることはないか?」


「もちろんありますわ。なぜ、嫌われ者のベスティーア家に神人という最上の名誉を与えたのですか?」


「我の家は昔、そなたらの家の者と約束したのだ。嫌い続け、よりよい仕事を与え、活躍した場合にはちゃんとそれ相応の名誉を与える、とな。」


あら?


「嫌われているのは、ベスティーア家が何かわざと嫌われることをしたのではない…ということなのでしょうか?」


「いや、そうではない。そなたらの先祖は、ちゃんと嫌われることをした。ただ、我の家もそれを手伝ったのだ。」


「それの目的はいったい…?」


「ベスティーア家がそう要求してきた。まず、一家だけそなたらベスティーア家は秀でていて、貴族からもともと多少は嫌われていたのだ。我の家の者…その当時の王は特に嫌うことはなかったのだが、それでもほかの者が嫌っていたから…な。」


「えぇ、分かりますわ。」


そこまで親しくするわけにはいかなかったのよね。


「そんなときに、ベスティーア家が我が家を嫌っって欲しいと頼んできたのだ。」


なるほど…。


「理解いたしました。お話はそれだけでしょうか?」


「あぁ。」


「わたくしのためにこんな時間を作っていただき、ありがとうございました。」


そして、国王陛下のもとを離れた。


その後、パーティーはつづがなく終わったそう。


その後も、我が家は面倒事を押し付けられはするものの、嫌われはましになってしまった。


少し残念に思ったのは…お父様との秘密よ。

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