第四話 金色の瞳
僕の今回のクエストは肉体労働者ポーター。貴族二人と、その人たちに雇われた冒険者二名の合計四人、その荷物を運ぶ役目だった。いつもデカいバックパックを背負っているためか、この種の依頼が僕指名でよく舞い込んでくる。依頼者は大体ふざけた人たちで、ダンジョンでパーティーでもしたいのか、荷物を大量に持って行く。
回復薬は全て貴族二人のものだった。他に貴族二人は下着それぞれ二週間分、服が十日分。雇われの方はスケジュールに見合った下着五日に服の着替え二回分。防具や武器のスペアも四人から預かっている。
僕のは下着が十で、上着が三回分。靴と帽子はスペア一つ。一昔前に流行ったものらしいけど、ものは悪くない。機能性重視の行商人スタイルで肩にはケープ。前開きでなく頭からスポッとかぶるタイプのやつで、足はズボンではなく毛織物のタイツ。チュニック(下着)のすそに結び付け止める。靴はつま先が丸いダックビルシューズ。頭にはフェルト製のバレット(円形の帽子)。
それら全てをバックパックから取り出すと横になっている十人の前に積み上げる。バックパックはさっき出したテントとで半分以下に縮んでしまった。
ブリタニー・コニーの枕元の箱からエクサ―一本取りだすとそれをブリタニー・コニーのハートマークのようなかわいい唇に注ぐ。ブリタニー・コニーはゆっくりと目を覚ました。起き上がったかと思うと咳込む。
僕はというとその場から気配を断って静かに離れる。服や回復薬をあれだけ置いておけば十分だろう。後は女同士。ブリタニー・コニーには悪いけど、ある程度は自力でお願いします。助けた者の中には回復が得意な聖騎士や白魔術師、巫女や神官職の者がいるはず。メンツさえそろえばどうにでもなるだろ? 僕はさよならだ。
やばい土蜘蛛の繭から救ったってぇのが僕ってね、ちょっと笑えない。無力化されたところを見られたブリタニー・コニーも面白くないに決まってるし、ブリタニー・コニー推しからしてもとんでもない。こんなことはお互い無かったことにした方がいい。
にしても、結局ルキフィナさん。繭の中にはいなかった。
ギルドの受付じゃ最前線は無理か。かといってね、ブリタニー・コニーのクランに入っているはずもなし。ギルドは結構待遇よさげだもんね。
おそらくはギルド施設、市庁の方にいる。街の中心街、目抜き通りを進めばすぐそこにある。
はずだけど、市庁は綺麗さっぱりなくなっていて辛うじて瓦礫が残っているぐらい。石壁の回廊から確認して分かってはいたけど、もしやと思って来てみてもやっぱりダメだった。
瓦礫に混じって木片があちこちで燃えている。見渡す限り、残骸と炭の荒野。中心街が一番ひどいかも。目抜き通りを通って来たバルログをギルドの役人や冒険者たちが中心街に入れまいと迎え撃ったって感じかな。
教会も中心街にある。市庁からほんの少し先。確認するまでもない。これじゃぁ教会の地下も疑わしい。
赤々と燃えた空に満月。バルログと勇者の戦いで異常なまでの熱気と湿度。息苦しい。正直、疲れた。休み無しで急いでダンジョンから帰って来たけど結局何も出来なかった。凹むってもんじゃない。足から力が抜ける。座り込む。
あれ? って思った。五十マール(50M)向こうに人影。
今さっきは、確かに誰もいなかった。突然現れたとしか思えない。魔物ではない。見た目や匂いでの認識は当然のこととして雰囲気で分かる。僕は伊達に魔物に育てられちゃぁいない。
生きて活動している人がまだ残っている。ここまで持ち堪えたんだ。相当な手練れに違いないけど、追って来ているやつが厄介だ。小さな赤い光の大群。それぞれが流れ星のようにスッと筋を引いてやって来て人影を囲む。凄まじい数だった。百や二百じゃない。千は超えている。
ボマー・ビー。普段は緑色に発光し、ふわふわ漂っている何の危険もない魔物。けど、そういう類は要注意。怒らすと見境がなくなる。赤く発光し、ちょっとでも触れたら爆発する。
蜂ほどの大きさだから一個一個の爆発は致命傷足り得ない。それもあって心の油断を招く。一匹見付けたら百匹いると思え。それがダンジョンでの教え。けど、今はスタンピード。常識なんて通用しない。
千の赤い光が人影を照らす。足元がひらひらの服装から人影は女性。
もう彼女の出来ることは何もない。ダンジョンだったら赤色発光が緑色に変わるまで動かないこと。でも、その教えもスタンピードには通じない。
彼女はもうおしまい。誰も助けられない。普通ならね。でも、僕がいる。僕の魔法でならボマー・ビーがどんだけいようが、赤色だろうが何だろうが関係ない。対処出来る。
「大丈夫! 動かないで! 僕がやる! 僕に任せて!」
言葉を発しておいていうのもなんだが、自分でも驚いた。何の躊躇もなく言葉が自然に出たんだ。むこうも聞こえたらしく、僕の言葉に笑顔を確かに返した、かのように見えた。女性は鞭を手にする。
「渦潮」
鞭技に魔法を合わせた魔法剣ならぬ魔法鞭。女性を中心に水の渦が起こり、水の鞭げきがのべつ幕なし、辺り一帯に飛ぶ。あっという間に千のボマー・ビーが駆逐されたかと思うと次の瞬間、大爆発が起こる。僕はとっさにバックパックを盾にする。
物凄い風圧だった。こらえ切れなくて結局は飛ばされてしまったが、そう遠くまでは行かなかった。
あれほどの爆発だ。女性は影も形も残ってない。転がったまま爆心地に目をやる。
あれ? 足元がひらひらの人影がこっちに向かってくる。
あっと思って目を伏せる。さっきは気軽に声をかけてしまっていた。あの爆発で生き残るなんて相当な強者だ。何か文句を言われるに違いない。
伏した目線で女性の足元を観察する。赤いブーツだった。その歩みがどんどん近付いて来る。それはやがて僕の前で止まる。
「わたしはエミーリア」
そう言って僕の前に手を伸ばす。握手? いや、体を起こすのを手伝ってくれるって感じだ。どうしよう。それに答えるべきか。エミーリアと名乗った女性は満面な笑みでもう一度、手を伸ばす仕草。
遠慮するなってことだろう。僕は思い切って、彼女の手を取る。ぐいっと引っ張られたかと思うと体が起こされる。彼女の顔が目の前にあった。雪のような真っ白の肌にプルンとした艶のある唇。真っ赤な手袋で僕の体に付いた塵を払う。
黒いワンピースに男性が着るような上着。首元はクラバットという赤いネッククロスで覆い、軽い細身の剣を腰に差す。
麦わら素材の帽子を被ってた。それは黒いリボンのついた広つばのキャペリンハットで、そのつばの下から覗く眼差しはアーモンドアイ。透明感のある黄色、いや、金色の瞳が澄んだ白目に浮かんでいる。
エミーリアは白いハンカチを取り出す。僕の顔を優しく拭う。なんでこんなに親切にしてくれるんだろう。僕は彼女と知り合いだったか? いや、絶対に初対面だ。顔を拭き終わったエミーリアは立ち上がる。赤いロングの髪が揺れる。
「あなた、お名前は?」
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