第三話 繭
助太刀に入るべきか。いや、やめておこう。しゃしゃり出て、初対面の相手に面と向かって何て言えばいい? 絶対に事故る。上手く話せたとしてそれはそれで嫌だ。僕が僕自身を勇者に売り込んでるみたいで。
バルログは勇者に任せよう。僕は他のことをする。確か教会の地下は避難所になっている。生き残っている人がいるはずだ。
何気に石壁の下を覗き込む。
眼下にはギルドの施設を兼ね備えた城門があった。石壁にへばりつくように建設されたそれは石壁同様、右半分は崩れ落ちている。元々施設の左右の角はD形の側防塔だった。その残った左側、その屋上。
月明かりに照らされた幾つもの大きな繭。それは不規則に壁や床に貼り付けられ、アンバランスに積み上げられている。
土蜘蛛の仕業。別に食うわけじゃない。やつらの目的は冒険者の無力化。捕らえて何かしようってわけじゃない。ただ単純に放置するだけ。けど、ダンジョンではそれで十分。
ロープをギルドの施設に向かって投げ、それを伝って降りていく。
数は全部で五十個ぐらいか。早速目の前の繭から手をつけることにする。中の人を傷つけないよう慎重にナイフを刺し、切れ目を入れるとそこに手を突っ込んで軽く裂く。まず、ジェル状の液がどっと流れ出た。ある程度それを見送ると次に両手で繭をガパッと割く。女の子がぐらっと僕に向かって倒れ込んで来る。
受け止めた。ジェル状の液に人を殺傷する効力がないのは承知している。意識を奪い、防具やら剣やらを溶かすだけ。とはいえ、あまり体に掛けたくないものだ。ちょっと油断したら意識を持っていかれる。持ってかれたら最後、その液体が体についているうちは、意識は戻りづらい。
ダンジョンなら即終了。偶然助けられたなんて都合のいい話は聞いたことがない。ましてやわざわざ土蜘蛛の巣になんて誰も入りたがらない。入って助けたとしても、三日以内だ。人は三日も繭に閉じ込められちゃぁ死んでしまう。
女の子は当然無力化されている。それはつまり、素っ裸だということ。倒れて頭を床に打たないようしっかり胸に抱く。生きているようだ。心臓の鼓動を感じる。そっか、スタンピードになってまだ二日。これなら繭にされた皆、助かる。
僕の肩に乗った女の子の柔らかい頬の感触。ダークブロンドのショートヘア、襟足の整ったうなじ、すらりとたおやかな首筋、滑るような肌の背中。おっぱいの圧がすごい。小柄だけど結構デカかった。
生唾を飲み込む。心臓が早鐘を打っている。全身の血の量が急激に増えたように感じられる。やばい、ぼくのものが。
これ以上触れているとどうにかなる。女の子をゆっくり離すと床に置いた。ハアハアと荒くなっている息。まず、それをどうにかしなければならない。鼻から大きく息を吸ってみる。床に横たわる女の子、そのボディーライン。
大人の女性。女の子じゃない。小柄だから勝手にそう思い込んでいた。
あまりにも無防備な姿。こぼれ落ちそうな、たわわな二つのおっぱい。そして、それにピッタリなサイズ感のピンクの乳輪。ローズトパーズのような乳首が僕を呼ぶようにツンと立っていた。
むらむらと触れたい欲望をかき立てられる。ちょっとならいいだろう。ゆっくりと人差し指を伸ばす。静かに、狙いを外さないよう慎重に、ギリギリまで近づけて、息を止める。生唾が喉を鳴らした。
いくよと心の声。指を進め、ボタンを押すように、タッチ。
くわぁっ! やっ! 柔らかい!
うぉぉぉぉぉぉぉ! あまりの柔らかさに驚き、いや、幸せで声が出そうになる。
こ、声はまずい。目をつぶり、胸の前でぐっと手を握って神様に祈るように堪える。鼻の下に生暖かい液体がつつっと滑った。
ぼ、僕は何をしてんだ。
慌てて鼻血を拭う。普段の僕なら身の程を知ってるはず。女性の救護なんて役不足だときっと誰かにバトンタッチした。
そっか、徹夜三日目だからか。ハイになって、たかが外れてる。頭をブルブルと振って、ほっぺを二、三度ペチペチ叩く。
僕的にも、この女性的にも、このままっていうのはダメだ。早々にどこかに移動させ、真面目にちゃんと処置しないと。
バックパックから毛布を取り出す。そして、それを女性に掛けると抱きかかえる。階段を下りて城門を出るとコミュニティガーデンだった場所に女性を下ろす。よし、次だ。繭はまだまだ沢山ある。
繭を裂く。取り出したのはまたも女性、金髪碧眼の美女。ロングヘアで胸はデカすぎず、小さすぎず。手足が長く、細面で眉が長い。毛布を掛け、抱きかかえると移動、最初の女性の横に寝かす。
次も女性。短髪の黒髪で胸とヒップ以外、全身が日に焼けていた。ビキニアーマーを着てたのか。小柄でちっぱいの細マッチョ。ボーイッシュ女子。コミュニティガーデンへと運ぶ。
その次も同じ性別。今度は肉感的で妖艶な美女だ。お尻と胸でバランスをとっていると思うぐらいグラマーでムチムチ。続いて救出したのも女性だった。
あああっ、女性率高すぎ!
これはどう考えても変だ、と思いつつ、コミュニティガーデンに十人並べたところで、はたと気付く。最初に助けた女性、あれはブリタニー・コニーだと。
思想や信条で縛られた冒険者組織クラン。メンバーはパーティの垣根を越えるという。ブリタニー・コニーが最初にその仕組みを創った。彼女は時代の旗手だそうだ。辺境のダンジョン都市ダウラギリに全くそぐわない人物。なんでここにいるんだとダウラギリに現れた時はだいぶ話題になったものだ。
クランのメンバーほぼ全てが女性。ブリタニー・コニーは確か、女は男の小間使いじゃないと訴えていたような。目抜き通りで冒険者の男と話しているところを僕は何度か見た。横たわる女性の寝顔を覗く。そうか。あの時はメガネをかけていたんだ。それで気付かなかった。
となれば、繭の中全てが女性ってことも有り得る。掛けてあげる毛布はもうない。僕はテントを立てた。これから助ける女性は全員ここに入れる。僕のテントは結構広いんだ。普通の平屋ぐらいはある。
次々とテントに運んでいく。終えてみれば大体僕の思ってた通り、助けた五十四人のうち男は三人だけ。中年に年寄り。もちろん、その辺に投げておく。
一息入れた。けど、落ち着いてはいられない。まだ誰も蘇生してない。土蜘蛛の繭に入った場合、心臓マッサージなんて役に立たない。先ずはブリタニー・コニーからだ。
その体に付着している粘液を布で丁寧にふき取る。恥ずかしい部分もしっかりやった。ちょっとでも粘液が付いていたら意識は戻りにくい。僕は何にも悪くない、悪くないと自分に言い聞かせつつも心臓はというと早鐘を打ち、手は震え、股間は脈打つ。
何とか正気を失わず、全て粘液を取り除く。今度は回復薬。エクサ―を二ダース、エクスポーション三ダース、ハイエーテル三ダースをブリタニー・コニーの枕元に置く。
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