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第二十話 ボス攻略法

四人の頭上から覆いかぶさって来ようかとする灼熱の劫火。それをエイブラハムは腕を組んで待ち構えた。ローズは斜に構え、サイエスはファイティングポーズをとる。バーバラは神にその身を任せるように静かにたたずんで目を閉じる。


瞬く間に四人を灼熱の劫火が飲み込んでいく。僕はというと石柱の一番高いところにへばりついていた。まるで神殿遺跡が水没するかのように灼熱の劫火のかさが増していく。危うくバックパックに到達するところで劫火の勢いは止まり、流れを乱す。渦を巻いたかと思うと四人にぶつかったところから押し戻され、逆流してウルク=ハイを飲み込む。


灼熱の劫火の中、ウルク=ハイはまるで溺れるようにもがいていた。けど、それも終息し、ウルク=ハイの大の字に横たわる姿が石板タイルの上に残される。くすぶっているだけでまだ、倒してはいない。ウルク=ハイはこっちから仕掛けるまではずっとブレスで攻撃をし続けると僕は教わっていた。


だから、バーバラだった。“ぎゃくふう”持ちとはエイブラハムも考えたものだ。ウルク=ハイは身を起こし、剣を杖代わりにのっそりと立ち上がる。また大きく息を吸う。僕にだけ“ぎゃくふう”は掛かっていない。僕は天敵に襲われそうになったヤモリのように素早く石柱の影に身を隠す。


もう勝ち確定。ウルク=ハイのブレスは人一人分なら満タンのライフを一発で刈り取っても余りある威力がある。そのダメージをウルク=ハイはさっき、きっちり四人分受けた。もう一回同じダメージを受ければ確実にウルク=ハイは終わり。とは、ならなかった。放たれたのはブレスじゃなく、咆哮。


四人はそれをまともに食らった。エイブラハムは片膝を付き、ローズは両膝を付く。サイエスは重装備だからマシだった。アーメットヘルムがある程度、咆哮を防御してくれた。


ただ突っ立っていたバーバラはもちろんダメだった。もろに食らい卒倒する。当然“ぎゃくふう”は皆、きれいさっぱり剥がれ落ちている。このボスの正しい攻略法は“おいかぜ”だったんだ。重ね掛けし、時間をかけてウルク=ハイのライフを削っていく。


“ぎゃくふう”では攻略できなかった。“ぎゃくふう”を食らうと次のウルク=ハイの行動は“咆哮” というパターンに変化する。逆にそこまで読んでわざと“ぎゃくふう”を使う手もあった。けど、今はもう後の祭り。


肝心なバーバラが気を失っている。エイブラハムやローズにしても意識はあってもバーバラと五十歩百歩。唯一、体の自由が利くサイエスはバーバラの体を揺さぶってその名前を何度も呼ぶ。バーバラが目を覚まさないことには全滅必死。


ウルク=ハイが大きく息を吸う。その口元は白く粉をふいているようで、吸うほど口の周りが白くなる。おそらく次に放たれるのは氷のブレス。腹も、胸も、大きく膨らんでいる。吸う息も勢いを失いつつあった。呼吸はもうすぐ放出に転化する。


エイブラハムは頭を押さえつつ、立ち上がろうとしていた。けど、まだウルク=ハイに注意が向いていない。自分の体のことで精一杯なんだ。ローズは更に状態が悪くなっている。両の手を地につけていた。


サイエスはバーバラが揺さぶって起きないから頬をかなり酷く張った。バーバラは目を覚まし、上体を起こす。けど、そのタイミングは最悪でウルク=ハイが氷のブレスを放つ今まさにその瞬間だった。バーバラは悲鳴を上げる。


僕は宙を飛んでいた。時間がゆっくり進んでいるように思える。眼下には悲痛な叫びのバーバラと、戦闘不能な仲間たち。前方にはウルク=ハイの口を開いた鬼のような形相。僕はそのウルク=ハイの肩に降り立つ。


ウルク=ハイはバルブータと呼ばれる兜を頭からすっぽりかぶっている。前面にT字状の穴が開いたやつだ。ウルク=ハイが氷のブレスを放つ。か、放たないかの、その刹那。


僕はウルク=ハイの兜をぐるりと180度回転させる。T字状の穴は後頭部に、兜の後頭部は目鼻口に。ブレスは自慢の兜に行き場を失う。兜はピキピキと音を立て、瞬く間に白く変色していった。


僕はすでにウルク=ハイの肩から離脱している。十歩ほど離れた地面に着地し、振り返る。ウルク=ハイは頭だけが、氷河から発見された古生物状態になっている。声も上げられず、息もできない。


氷をはぎ取ろうと爪をガリガリ立て、それでも全然ダメと見るや、石柱に自ら頭をぶつける。スキル“ドラゴンの魂”のブレスは半端ない。全然ビクともしない。ウルク=ハイは何本も石柱を破壊しつつ、神殿をのたうち回る。


やがてウルク=ハイは力尽きる。その一部始終をエイブラハムら四人は唖然と見送っていた。もとより“咆哮”のダメージで何もできないのもある。倒れて動かないウルク=ハイの、その姿が消えて初めてサイエスが言葉を発する。


「でかした、フンコロガシ! 大金星だ!」


フンコロガシ? 僕はウルク=ハイの魔石を拾う。上体を起こしたバーバラをいまだ抱きかかえているサイエスと目が合った。


笑えた。助けてもらって何その言い草。っていうか、この人、自分の命が助かった喜びで僕の名前なんて綺麗さっぱり忘れてる。いや、はじめっから知らないのか。少なくともこの人は、フンコロガシが秘密であることはもうすっかり忘れてしまってる。


僕の表情を見て、サイエスはあっと思ったんだろうね。自分の舌が滑ったのに気付いたようだ。おっさんのサイエスは子供がするように口を押えた。そして、恐る恐る仲間の様子をうかがう。


皆、まだ耳がおかしいんだ。フンコロガシなんて全然聞こえてない。もうちょいすれば聞こえてくるのだろうけど、サイエスは取り繕うようにシャキッと表情を引き締める。エイブラハムやローズ、そしてバーバラの視線はというと玉座にある。


ボスを倒せば当然、目下の注目はボス部屋の宝。


神殿の遺跡にはそれらしい物は見当たらない。おそらくは玉座。あれがあやしいと皆思ってる。崩れ落ちるかして、その跡に宝箱が出現するんじゃなかろうかと。


ガラ、ゴトンと石が転がる音がした。はっとしたサイエスも玉座に釘付けになる。


やがてガラガラと幾つもの小石が階段の上を跳ねて転がったかと思うとそれは大きな地響きに変わる。皆、慌てた。玉座が崩れるにしてはあまりにも振動が大き過ぎる。神殿全体が揺れている? いや、玉座の向こう、その壁。


壁が薄皮一枚剥がれるようにガラガラと崩れ落ちていく。モウモウと上がった砂煙に視界が一時閉ざされるも、やがてそれも沈静化し、目の前に新たなステージが現れる。玉座の向こうにボス部屋よりも大きな扉があった。



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