表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/40

第十話 旅立ち

森のあっちこっちで新たに立ち上がる天幕。空き地にはどんどん馬車が入って来ている。ストレンジ・アフィニティのマークは親指と薬指で丸を作っているハンドサイン。どの馬車にもそれが描かれていて、停車するや否や何人もの人が馬車から吐き出される。


スタンピード後の魔石回収は骨が折れるけど相当な稼ぎになる。血沸き肉躍る、まるでお祭りのよう。ギルド職員の誰もが興奮し、むやみやたらに声を出して動き回ってる。馬車をどかせと怒鳴っている者がいた。天幕をその場所に立てるのだという。


もう喧嘩も始まっている。馬車をぶつけたのを互いに相手のせいにしてた。エミーリアは借りられる馬車を探してる。何人ものギルド職員に声をかけるけど、忙しいと取り合ってもらえない。


彼らはゴールド冒険者エミーリアを知っているのか知らないのか。いずれにしても目の前の魔石に眼がくらんでいる。しょうがなくあっちこっちと彷徨っているとやっとギルド職員に呼び止められた。ギルド長から言いつけられたようだ。使える馬車に案内してくれるって。


そこに移動している最中だった。何か視線を感じる。どこだろう。僕は勘が結構鋭い。視線を感じる方向は、空。


上空高く見上げた。そこにいたのはブラッディ・ファルコン。彼は僕が視線を向けた途端、筋を描いて西の空へ消えて行ってしまった。


間違いない。あいつは僕を見ていた。なんか嫌な気持ちになる。ブラッディ・ファルコンが僕に言った言葉。


『仮にそこがどんなに理不尽な世界であっても、仮に世界に干渉する理由がそいつの良心からであっても、私はそれを侵略とみなす』


これは僕への警告らしい。これのどこが警告なのだろうか。僕には警告かどうかすら分からない。ただ、あの人は怖い。それだけは分かる。もう二度と会いたくない。


僕を呼ぶ声で、はっとした。エミーリアがずっと先、人混みの向こうから手を振っている。僕はぼうっとしていたようだ。人を縫ってエミーリアに向かい、横に付くとエミーリアに歩を揃える。前を歩いているギルド職員。


使える馬車というのはギルド長のだった。マークだけでなく旗が立っている。ギルド長はダウラギリにいて陣頭指揮を執る。当分使わないから港までの足にしろ、だそうだ。御者もつけてくれるらしい。破格の待遇だ。流石エミーリア。ゴールド冒険者。


革製のスーツケースを御者に手渡したエミーリアは僕に目配せする。僕のも渡せということだ。バックパックは中身が減って小さくなっているといえども、やっぱりデカい。座席には当然入れられないのは分かってる。分かってはいるんだけど、今日まで肌身離さず持っていた。人に預けるなんて考えたこともない。


なんだかんだ不安だ。かといって、マロモコトロにダンジョンはもうない。新天地へ向かうしかないんだ。馬車の屋根に乗せられて縛られていくのをやるせない気分で見守った。


僕らは馬車に揺られ、森の中を進む。小一時間ぐらいでそこを抜けた。馬車の窓に草原が広がる。エミーリアは本を読んでいた。天気がいい。雲一つない。外の景色が気になった。レイピア山が見えるだろうか。


窓から顔を出すと辺りを見回す。前方に霞がかって小さくレイピア山があった。ダウラギリ近郊からは天気がいい時にしか姿を現さない。マロモコトロを象徴する山で中腹から頂上にかけて反り上がるように天に延び、頂上は剣先のように尖っている。


そこには神が住んでいるという。徒歩で登頂した者はいない。マロモコトロの人々の信仰の対象だった。


窓から出した顔に風が当たる。爽やかで、優しく頬を撫でられているよう。草の香りも運んで来る。


レイピア山が見えるなんて幸先さいさきがいいスタート。きっと山頂の神様もマロモコトロからの旅立ちを祝福してくれている。僕はこの風景を目に焼き付けたいと思った。辺りを見渡す。


ワーグが草原を走っていた。僕らが討ち漏らしたやつだ。渡り鳥がV字飛行するようにワーグも隊列を組んでいる。


彼らは通常、ダンジョンに拘束されている。それは冒険者がダンジョンの深部に進むのを阻むため。一旦スタンピードが起こればダンジョンから吐き出される。地上に出れば目に入る全てを破壊尽くす。


けど、それはスタンピードのボスが倒されるまで。彼らはそもそも餓えない、老いない、死なない、セックスしない。まぁ殺すことなんかは出来るんだけどね。いずれにしても、スタンピードが終えれば彼らを拘束するものは精神的にも肉体的にも、もう何もないってことだ。


彼らは自由。属性の赴くままに風になった。


ヘルトラウザという魔物もダンジョンやスタンピードに拘束されていなかった。大きく丸い頭のそこら中に目があり、所々から髪の毛が生えている。体も足も、どうやってその大きな頭を支えているのだろうと不思議に思うぐらい細かった。手も同じだった。指一本一本も細く、そのうえ長かった。どうやって小さいものを摘まむんだろうとその仕草をよく観察したもんだ。


僕はヘルトラウザを女性として接した。彼女は僕を育ててくれた、僕の母親代わりだったからだ。彼女はいつも自由であるように振る舞った。けど、本当はただ一つのことに拘束されていた。


それは、僕を一人前に育てるっていうこと。


頬に一筋涙がつたっていた。僕の生まれた島、マロモコトロから初めて離れるからか、僕は感傷的になっている。


馬車がガクンと揺れた。道から外れたようだ。速度が落ち、すぐに停車する。僕は手のひらで涙を拭う。何事だろうか。エミーリアは平然と本を読んでいる。ドアのノック音と御者の声。


「天気もいいし、景色もいい。この辺で朝食に致しましょう」


御者が緑の草原の真ん中に白いクロスのかかったテーブルを置く。パンが盛られた皿、ハムの皿、チーズの皿。そして、バターケースと葡萄酒のグラス。テーブルから垂れた白いクロスは風に吹かれ、泳ぐよう。


エミーリアと僕がそこに座るとすかさず御者が葡萄酒を注ぐ。考えてみればここ数日、まともに飯を食べてない。パンに手を伸ばす。その手を、どういうわけかエミーリアにそっとタッチされる。


なんで? ってエミーリアを見る。エミーリアは遠く向こう、草原の先を指差す。


馬に乗った多くの人たちが僕たちの方に向かって走って来ている。なんだろうと見守っているとその人たちは馬を止めた。ブラックのベルスリーブワンピースの女性が一人、馬を降りると僕の前に立つ。ケープ風のフラウンスが胸元で風に揺れる。丈が合わなかったのかスカート裾をたくし上げてウエストのロープで止めていた。


あっと思った。眼鏡を掛けてないけど今回はすぐに誰か分かった。無意識にその人の足の先から頭の先へ視線を巡らせる。石板タイルに寝そべる無防備なボディが脳裏に甦った。かぁぁっと熱くなってしまう。心臓が早鐘を打つ。


「カケラ・カーポ。会えてよかった。僕はブリタニー・コニー」


僕は我に返り、というか思わずしてしまったスケベな視線を取り繕おうとして慌てて立ち上がる。けど、椅子が草に引っかかって椅子ごとコケる。いててって身を起こしたその時、ブリタニー・コニーに捕まえられるようにハグされた。僕の喉がごくりと鳴る。


「ありがとう。カケラ・カーポ。君は僕の命の恩人」


それから次々と問答無用に僕は美女たちにハグされていく。確か助けた女性は五十一人。以下男三名。


僕が彼女らを救出した時、彼女らは皆、土蜘蛛に無力化・・・されていた。だから、預かっている物も問わず、あるだけの服を彼女らのために置いて行った。当然、僕の服もそう。


ボーイッシュ女子で短髪黒髪、胸とヒップ以外全身が日焼けの小柄でちっぱい、細マッチョの彼女。その彼女が僕の服を着ている。


スポッと被るタイプのケープに、足はズボンではなく毛織物タイツ。靴はダックビルシューズで頭にはフェルト製の円形の帽子。


丈的に僕の服になったのは分かる。けど、着こなしがちょっと変だ。いや、僕みたいな者が着ると似合うのか。似合うってなんだ。ダサいやつにマッチするダサい服。ダサさピッタリ、ダサい服。ナチュラルなダサさ感。なんか可笑しい。


僕が笑うと彼女も可笑しくなったのか笑った。お互い指を差し合って、二人転げて身をよじり、腹を抱えて笑い合う。




カケラ・カーポの活躍はいかがだったでしょうか。下にある☆☆☆☆☆で評価お願いいたします。


応援する、期待するなら☆5つ、がんばってな、しらんけど、なら☆1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークも頂けると本当に嬉しいです。コメントも楽しみにしてます。何卒よろしくお願い致します。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ