表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女ですか? いいえ、邪神の巫女です!  作者: みつまめ つぼみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/33

31.似たもの夫婦

 お父様の書斎を尋ね、邪神様の言葉を報告した。


「――ということらしいです」


 お父様がため息をついて応える。


「そうか、やはりエバンズ子爵は敵か。

 今後、彼はお前の前に姿を現すことはないだろう。

 次に姿を現す時は、襲撃になるはずだ」


 私は小首をかしげて尋ねる。


「そうなのですか?

 あちらは邪神様の言葉を私が聞けることを知りませんよ?」


「そうとは限らない。

 邪神の巫女について、エバンズ子爵は何かを知っている可能性がある。

 慎重を期して、不必要な露出は行わないだろう。

 奴の目的がお前の力の確認なら、もう目的は済んでいるからね」


 そうなのかなぁ?


 考え過ぎじゃない?


「もし、再びエバンズ子爵が姿を見せたらどうしたらいいですか?」


「その時はお前の力で捕縛してしまいなさい。

 その後、フリーランド伯爵に処断してもらう」


 お父様、娘の前で怖いことを口走ってない?


「……わかりました。ではそのようにしますね。

 聖神様の力が解けかけているそうなので、クラリスに会ってきますわ」


「わかった。気を付けていっておいで」


 私は書斎を辞去すると、ロディにも声をかけて出発する準備を始めた。





****


 王宮でクラリスを呼び出し、再び私の力を抑え込む祈りを施してもらった。


「――ふぅ。これでいいかしら?」


「うん、ありがとう! クラリス」


 ショーン殿下もやってきて、困ったような笑みで口を開く。


「もう昨晩の噂が出回ってる。

 『ミレーヌが治癒の奇跡を使った』ってね。

 まだ小規模だけど、今日の内にかなり広まるだろう」


 あちゃー、やっぱりそうなるか。


「殿下、私はどうなると思います?」


 腕組みをしたショーン殿下が私に応える。


「……やはり、いつかは邪神の巫女であることを明かすことになると思う。

 金色の奇跡なんて、聖神の奇跡じゃないことは間違いないし」


 人払いをしてるので、クラリスが自分でお茶をカップに注いで飲んでいた。


「もう打ち明けてもいいんじゃない?

 邪神と言っても、邪悪な神ではないのでしょう?」


「そうなんだけどね……聖神様を信仰する人にとっては、やっぱり敵対する神だし。

 聖教会がなくなってまだ二年、エバンズ子爵みたいな人はまだ居ると思うのよ」


「私たち聖女がミレーヌと仲良くしてるのだし、大丈夫じゃない?」


 ショーン殿下が難しい顔で告げる。


「いや、下手をするとクラリスたち聖女の求心力が落ちる可能性がある。

 まだ残っている聖神の信徒が暴走すると、治安が乱れるからね。

 打ち明けるのはもっと時間をかけてからの方がいいかな。

 ミレーヌも、人前で奇跡を使うのはもう控えて欲しい」


 私は眉をひそめて応える。


「それはわかってるけど、あれはしょうがないじゃない。

 他に混乱を治める手がなかったんだし」


 ショーン殿下がため息をついた。


「そうなんだよなぁ。あの場合、最善手はミレーヌの奇跡だった。

 相手の目的もそれだったんだろう」


「お父様もそうおっしゃってたわ。

 エバンズ子爵が力の確認に来たって」


 ショーン殿下の眉が跳ねあがった。


「エバンズ子爵が? 敵なのかい?」


「ええ、異端審問官のリーダーなんですって。

 でもそれなら、なんでクリスティンを助けてくれたのかしら」


「それなら簡単だよ。聖女を傷つける訳にはいかないだろうからね。

 おそらく、洗脳した連中を完全にコントロールできなかったんじゃないかな。

 だから確認と護衛を兼ねて、本人が出てきたんだ」


 なるほど……護衛を兼ねてたのか。


 あの洗脳魔法薬、扱いが難しそうだったしなぁ。


 私一人をターゲットに絞ることができなかったのかな。


 ショーン殿下が真剣な顔で告げる。


「次の夜会はフルヴィオの家だね。

 あそこは森が続く。

 襲撃される可能性が高いと思うから気をつけて」


 クラリスが不安げに告げる。


「ねぇ、夜会への参加を控えたらどうかしら」


 私は微笑みながら応える。


「近衛騎士と私の奇跡があれば、十や二十の異端審問官くらい怖くないわ。

 私にとっては夜会の経験を積む方が大事よ!」


 ショーン殿下が苦笑して応える。


「君はたくましいね。なんだかロディに似てきたんじゃない?」


「やめてよ! そんなことを言うのは!」


 話を聞いていたロディが楽し気に笑った。


「夫婦は似るって言うからな。俺たちも婚約者らしくなってきたってことだ」


「誰が夫婦か!」


 小さな笑いが巻き起こったあと、私とロディはクラリスたちに別れを告げて王宮を後にした。





****


 襲撃から二日後の夕食の席で、お母様が疲れたようにため息をついた。


「もうすっかりミレーヌの力が噂になってるわ。

 周囲から『あれはなんなのか』って質問責めにあって、かわすのが大変だったわよ?」


「ごめんなさい、お母様……」


 肩を落とす私に、お父様が微笑んで告げる。


「お前が気にすることじゃないさ。

 今回は敵が上手だった。

 だが本番ではやらせはしない」


「本番? 本番ってどういうことですか?」


「もちろん、襲撃本番のことだよ。

 異端審問官をどれほどそろえるかはわからないが、次はエバンズ子爵の目論見を絶つ。

 ミレーヌは安心しておくといい」


 お父様が断言するなら、大丈夫かな。


 ロディは考え事をしてるみたいで、手が止まっていた。


「どうしたの? ロディ」


「いや、大したことじゃない。

 エバンズ子爵はなんとか対応できるだろうけど、その後がな」


 お父様が頷いた。


「それについては考えがある。

 我々大人に任せておいて欲しい」


 私とロディが頷いた。



 静かな夕食の時間が過ぎ、ロディは今日も夜間戦闘の訓練をしている。


 私は部屋の中から庭を見下ろし、ロディの様子を眺めていた。


 もうかわす技術はかなり向上した気がする。


 お父様が言う通り、ロディは剣術の才能があるのかな。


「頑張れ、ロディ」


 私は小さく呟くと、侍女を呼び出して入浴の準備を始めた。





****


 夜会当日、いつものように護衛の近衛騎士を引き連れて馬車を走らせる。


 馬車の中でロディが窓の外を見ながら告げる。


「邪神は襲撃について、何か言ってなかったのか?」


 私はため息をついて応える。


「いつも通り、『大丈夫、なんとかなるわ』って言うだけよ。

 邪神様は言うことがアバウトなのよね。

 もう少し詳しく教えてくれてもいいのに」


 ロディがフッと笑いを漏らした。


「それなら、何とかしてやるだけさ。

 俺たちにはその力があるってことだろ?

 心配は要らねーよ」


「心配はしてないけどさぁ……」


 馬車は森の中を走り、フルヴィオの屋敷に向かっていく。


 ロディが真面目な声で告げる。


「この辺り、敵に潜まれると厄介だな」


「お父様の護衛が付いてるはずだけど、どこまで信頼できるかしら」


「わからん。やってみるしかない」


 周囲は森が茂っていて、視界なんて無いに等しい。


 この中に潜まれてたら、確かにわからないだろう。


 周囲の近衛騎士たちも、なんだか緊張した様子だ。


 私も窓の外を注意しながら、夜会会場へと向かっていった。





****


 夜会会場のあるリッカーズ伯爵邸のホールには、そこそこの貴族たちが集まっていた。


 先に来ていたパトリシアがフルヴィオに告げる。


「なんだか参加者が少ないわね。人望がないのかしら」


「父上を悪く言わないで?!」


「あら、違うわよ。『フルヴィオの人望がない』と言ってるの」


「もっと酷くない?!」


 ロディが楽し気に笑いながら告げる。


「俺たちはまだ、貴族子女にコネクションを作ってないからな。

 そういうのは、これから作っていけばいいだけさ」


 周囲は大人と子供が半々、といったところかな。


 エバンズ子爵は……居ないか、やっぱり。


 ショーン殿下やクラリスたちもやってきて、私たちに合流した。


「こうして頻繁に会うと、挨拶に困るね」


「あら、『久しぶり』でも別に構わないのではなくて?」


 クラリスもクスリと笑って告げる。


「先週会ったばかりで『久しぶり』なの?」


「一週間も会ってなければ、充分久しぶりよ」



 参加者が少ないからか、私たちに挨拶に来る貴族たちも多かった。


 私は先日の奇跡の話題を笑顔でかわしつつ、彼らと名前を交換していく。


「――ふぅ。やっぱりみんな気になってるのね」


 パトリシアが苦笑して応える。


「そりゃそうよ。今話題の人だもの、あなた」


 挨拶の流れが途切れると、私たちはいつも通り夜会を楽しんでいく。


 フルディオが周囲を見回して告げる。


「やっぱり、僕らの仲間に入ろうとする貴族子女は居ないみたいだね」


 ジェームズ殿下が鶏肉をかじりながら応える。


「仕方ないさ、権威が強すぎる。

 こんな小さな夜会じゃ、腰が引ける連中しか集まらない」


「今、間接的に我が家を馬鹿にしなかった?!」


「気のせいじゃないか?」


 私たちは笑い合いながら、夜会の空気を堪能していった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ