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聖女ですか? いいえ、邪神の巫女です!  作者: みつまめ つぼみ


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30/33

30.エバンズ子爵

 みんなと合流した私は、慌てて周囲を見回す。


 パトリシアの家の警備兵、その半分が残り半分と争っている。


 給仕のうち八人が私たちに向かってナイフを持って襲い掛かってきていた。


 パトリシアが混乱したように声を上げる。


「何?! 何が起こってるの?!」


 ロディが一人で襲ってくる給仕たちの相手をしてるけど、さすがに八人は多い!


 私たちはロディを盾にしながら逃げ回っていた。


 給仕の一人が、クラリスに対してナイフを振るう。


 ショーン殿下が身を挺してそれをかばおうと前に出た。


「――殿下、ダメ!」


 私はすぐさま邪神様へ祈りを捧げ、防御障壁をショーン殿下に施す。


 金色の膜に包まれたショーン殿下とクラリスは、給仕のナイフから守られていた。


 他の給仕がクリスティンの背後から迫ってくる――まだ居るの?!


 その給仕を、さっきのエバンズ子爵が素早く取り押さえた。


「ご無事ですか、聖女様!」


 クリスティンが戸惑いながら頷く。


「ええ、ありがとうございます」


 ジェームズ殿下もクリスティンをかばうように給仕に立ちはだかる。


 給仕たちの目はどろりと濁っていて、正気が窺えない。


 ――これは、帝国の洗脳魔法薬と同じ?!


 混乱する夜会会場に近衛騎士たちも入ってきたけど、逃げ惑う人たちに妨げられてこちらに駆けつけるのに時間がかかりそうだ。


 ロディ一人で残りの給仕を相手にするのは、ちょっと苦しい。


 仕方ない、もうショーン殿下をかばうのに奇跡を見せちゃったし!


 私はその場で混乱を引きを越している人たちに向け、邪神様の奇跡を祈った。


 ――洗脳されている人たちを癒してください!


 警備兵や給仕たちを、金色の光が包み込んでいく。


 彼らはすぐに脱力し、倒れ込んでいた。


 エバンズ子爵も、取り押さえていた給仕が気を失ったようで立ち上がっていた。


 フリーランド伯爵たちも私の元へ駆けつけ、慌てるように告げる。


「ご無事ですか、ミレーヌ嬢!」


 私は微笑んで頷いた。


「ええ、ロディのおかげで命拾いしましたわ。

 それに――」


 エバンズ子爵を見て告げる。


「この方も助けてくださいましたの」


 フリーランド伯爵がエバンズ子爵を見据える。


「失礼、あなたは?」


 エバンズ子爵が略式の礼で応える。


「ジェフリー・エバンズ子爵、ただの老いぼれですよ」


 フリーランド伯爵がエバンズ子爵に手を差し出した。


「貴殿のおかげで助かったそうだな。礼を言う」


 エバンズ子爵がフリーランド伯爵の手を逃げって応える。


「なに、昔取った杵柄です。大したことはしておりません」


 ジェームズ殿下もエバンズ子爵に告げる。


「お前のおかげで、クリスティンが怪我をせずに済んだ。

 今度、王家から褒章を出せないか父上に相談しておこう」


 エバンズ子爵はニコリと微笑んで応える。


「お気になさらず。聖女様に怪我がなくてなによりです」


 周囲の混乱は、すっかり落ち着いたみたいだ。


 パトリシアのお父さん――ディクソン伯爵が青い顔で私たちの元へ来た。


「とんだことになり、誠に申し訳ありません」


 ショーン殿下が冷静な声で応える。


「貴殿のせいではあるまい。

 工作員による仕業、不可抗力だろう。

 まさか、洗脳を使ってくるとはな」


 パトリシアも戸惑いながら告げる。


「何が狙いだったのかしら」


 それはもちろん、私の命だろう。


 このタイミングでの襲撃なら、異端審問官が関わってる可能性が高い。


 今さらクラリスたちを害する意味なんてないし。


 ショーン殿下たちを襲うメリットを持つ貴族も居ないはずだ。


 私もエバンズ子爵に微笑んで告げる。


「ともかく、ご助力を感謝いたしますわ」


「いえいえ、お気になさらず。

 しかし、クロスランド公爵令嬢は不思議な力をお持ちなのですな」


 私は目をそらしながら応える。


「……なんのことかしら」


 エバンズ子爵が笑いながら告げる。


「聖女様の奇跡、それと同じ物とお見受けしました。

 まさか聖女様以外で奇跡を使う人がおられるとは。

 長生きはしてみるものですなぁ。

 ――それでは、私はこれで」


 会釈をした後、エバンズ子爵や会場の人混みに紛れていった。


 ロディがその背中を見やりながらパトリシアに尋ねる。


「パトリシア、あいつを知ってるか?」


「いえ、私は知らない人ね。

 ――お父様、エバンズ子爵をご存じ?」


 ディクソン伯爵が頷いた。


「王都で慈善事業をしている人だよ。

 昔から信心深い人だった。

 今回もクラリス嬢やクリスティン嬢が来ると聞いて、招待状を欲しがっていた」


 ロディは「ふーん」と気のない返事をして剣をしまっていた。


 なんだろう? 何か気になるのかな?


 フリーランド伯爵たちも、事態が収拾したと判断して外に戻っていった。


 その日はトラブルもあったけど、夜会が再開されて私たちは再び楽しい夜を過ごしていった。





****


 ミレーヌが帰宅後、フリーランド伯爵はクロスランド公爵へ報告を上げた。


 夜会の給仕や警備兵たちが洗脳魔法薬で襲い掛かってきたこと。


 そしてミレーヌが金色の輝きで洗脳された人々を癒したこと。


 その二つを聞いて、クロスランド公爵の顔色が曇った。


「そうか、厄介だな」


「ミレーヌ嬢の力はなんなのですか?

 あれは空に輝くカーテンと同じ色に見えましたが」


「……貴公には、いずれ話すことになるだろう。

 今はまだ伏せておいて欲しい。

 何か他に気にかかることはあったか?」


 フリーランド伯爵が顎に手を当てて考えこんだ。


「そうですなぁ。信心深い老人が、子供たちを守る手伝いをしてくれました。

 まだ聖神を信仰する人間が残っていたのかと、驚きましたよ」


「相手の名は?」


「確か……エバンズ子爵と言ったかと。

 王都の慈善家だそうです」


 クロスランド公爵が眉をひそめて考えこんだ。


「……わかった。彼についてはこちらで調査しておこう」


 フリーランド伯爵は会釈をすると、兵舎へ戻っていった。





****


 翌朝、私はお父様に尋ねてみる。


「ねぇお父様、帝国の洗脳魔法薬が国内で流通してるのですか?」


 お父様は困ったように微笑んだ。


「いや、あれは国内で違法に定めてある。

 一般流通経路には乗っていないよ」


「……ということは、裏では流通しているのですか?」


「異端審問官が、同種の魔法薬を使っていたらしい。

 同じ物かはわからないけどね」


 となると、やっぱり昨日の襲撃は異端審問官がらみなのか。


「お父様、昨晩の襲撃をどうお考えですか?」


「まだ何とも言えないね。

 お前を襲うにしては、少々お粗末すぎる。

 狙いもずさんだったようだし、本命は別にあるだろう」


 ロディが複雑な表情でお父様に尋ねる。


「公爵はエバンズ子爵の話を聞きましたか」


「ああ、聞いているよ。

 王都の慈善家だそうだね。

 彼の行動に何か気にかかることでも?」


「いえ、クリスティンが襲われるのを救ってくれました。

 ただ、このタイミングで聖神の信徒が近寄ってきたのが気になって……」


 そう言われてみれば、怪しいと言えば怪しいのかなぁ?


 でもクリスティンを救ってくれた人だし、悪い人には思えないけど。


 お父様が少し考えたあと、私に告げる。


「ミレーヌ、お前はあとで礼拝堂に行ってきなさい」


「はい、わかりました」


 邪神様にお伺いを立てろってことね。


 でも邪神様、いまいち頼りにならないんだよなぁ。





****


 礼拝堂で一人、祈りを捧げる。


 ――邪神様、昨晩の襲撃はなんだったかわかりますか?


『失敗したわね、あなた。

 あれはエバンズ子爵の計略よ。

 あなたの力を確認しに来たの』


 ――え?! あのお爺ちゃんが敵なんですか?!


『彼は異端審問官のリーダー。

 今も仲間を集めて、次の機会を狙っているわ。

 あなた、完全に彼の標的にされたわよ』


 ――困りますよ?! どうにかならないんですか?!


『大丈夫よ、あなたの周りには守ってくれる人が居るし。

 あなただって無力な訳じゃない。

 今のあなたなら、儀式なしで人を生き返らせることすら可能なのよ?』


 ――いやぁ、さすがにそれは大混乱になるから、やりたくないかなぁ。


『そうね、むやみに願っていい奇跡じゃないわ。

 でもそれくらいあなたの力が強まってるということよ。

 空のカーテンが消えるまで、その力は続くわ』


 ――ちゃんと元に戻るんですかぁ?


『そこは保証してあげる。

 でも前回の聖神の力が解けかかってるわ。

 また金色の光に包まれたくなければ、今日のうちにクラリスたちに会っておきなさい』


 ――はーい、わかりました。



 私は目を開けるとため息をついてから、礼拝堂を後にした。


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