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聖女ですか? いいえ、邪神の巫女です!  作者: みつまめ つぼみ


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22.伴侶の相性

「よっ! ミレーヌ!」


 いつもの陽気な笑顔でロディが私の前に居た。


「なんであなたが居るのよ……」


 応接間には、フリーランド伯爵夫妻もソファに座っている。


 お父様が微笑んで私に告げる。


「来たね、ミレーヌ。

 お前もこちらに座りなさい」


「はぁ……」


 お父様の横に座ると、丁度正面にロディが来る。


 座る場所間違えたかな……。


「それでクロスランド公爵。

 本日で婚約締結ということでよろしいのですか?」


 フリーランド伯爵の言葉に、思わず私は立ち上がった。


「誰と誰の婚約のことでして?!」


 お父様がニコリと微笑んだ。


「もちろん、ミレーヌとロディのだよ。

 今日はその最後の詰めと言ったところだね」


「お父様?! その話はお断りをお願い申し上げたはずですわ!」


 ロディがニヤリと微笑んで告げる。


「なんだよミレーヌ、照れてるのか?」


「照れてない! 嫌がってるの!

 なんで私がロディと婚約するのよ!」


 お父様がクスリと微笑んだ。


「そう難しく考えなくていい。

 もうお前の同年代で、家格の高い目ぼしい令息は婚約済みだ。

 残っているのは問題児ばかり。

 必然的に家格には目をつぶらざるを得ない。

 その中では、お前と気心の知れた相手だと思うのだが」


「気心は知れていても、ロディとは友人でしてよ?!」


「ショーン殿下とも友人だっただろう?

 何が違うんだい?」


 ぐっ! 痛いところを!


 私が言葉を探していると、お父様が告げる。


「お前が『より相応しい婚約者』を見つけられたら、その時に契約を切り替えればいい。

 今は二年後の社交界に向けて、パートナーを作っておかなければならない。

 もしお前が他にパートナーの心当たりがあるというなら、遠慮なく言えばいい」


「それは……そんな方は、いませんけども……」


 お父様がニコリと微笑んだ。


「では決まりだね。

 ――フリーランド伯爵、婚約を締結しようか」


 お父様が書類を差し出すと、フリーランド伯爵がそれに署名をしていく。


 それを二枚作り、片方をお父様が受け取った。


「これでミレーヌとロディは婚約者だ。

 今後はそのつもりで行動するようにね」


 マジかー?! 誰か冗談だと言って?!


 チラリとロディを見ると、満足そうに微笑んで私を見つめて居た。


「……なによ、何か言いたいことがあるの?」


「ようやくミレーヌが俺のものになったな」


「なってない! なってないからね!」


「そう言うなよ、婚約者殿」


「あーもう! 婚約者って呼ぶな!」


「じゃあミレーヌ、一生大事にしてやるから安心しろ」


「子供が生意気言うなーっ!」


 私とロディのやりとりを、お父様たちは微笑まし気に見守っていた。





****


 その夜は婚約締結祝いに晩餐会が開かれた。


 お父様たちはフリーランド伯爵たちと楽し気に会話をしている。


 私はロディと向かい合わせに座り、黙々と食事を食べ進めていた。


「なんだよミレーヌ、今日は元気がないな」


「放っておいて頂戴。

 どうしてロディが婚約者なのかしら。

 そりゃあ、私はフリーだったけど」


 ロディが肉を口に放り込んで満足げに味わっていた。


「だから言われただろ?

 社交界に備えたパートナー作りだよ。

 お前は王家に次ぐ家格を持つ令嬢なんだ。

 フリーのまま社交界に行ったら、相手が群がってきて大変だぞ?」


「それなら、その中から選べばいいだけじゃない。

 何が問題なのかしら」


 ロディがため息をついた。


「だから、残ってるのは問題児ばかりなんだよ。

 浮気性や暴力癖、人格に問題のあるやつばかりだ。

 そんな奴らからお前を守る身にもなってくれ。

 それなら俺が婚約者になった方が手っ取り早いだろうが」


「浮気性って……私たち十一歳よ?

 それで浮気性ってどういうこと?」


 ロディがニヤリと微笑んだ。


「お前は知らなくていい。

 だがそう言う奴が居るって事実だけを覚えておけ」


 なんだかわからないけど、困った相手しか残ってないのか。


 そんなのに近寄ってこられても確かに鬱陶しいなぁ。


 私は小さく息をついた。


「なんだか実感わかないわね、ロディが婚約者なんて」


「これから何年もかけて実感させてやる。

 お前は今まで通りにミレーヌらしくあればいい」


 私は小首をかしげて尋ねる。


「私らしくって、どういう意味よ」


「わがままで、生意気で、強情っぱりなお前で良いって話だよ」


「誰がわがままなのよ?!」


「そういうところだ」


 これはわがままじゃなーい!


「そういうロディは、もう少し淑女の扱いを覚えたらどうなの?!」


「お前の扱いなら充分知っている。

 何年の付き合いだと思ってるんだ?」


「たった三年でしょ?!」


「三年『も』だ。

 それだけあればお前の扱い方ぐらい覚えるさ」


「それならもう少し紳士らしく振舞ったら?!」


 ロディがニヤリと微笑んだ。


「俺は未来の近衛騎士団長だからな。

 騎士らしくなら振る舞ってやる」


「その夢、まだ諦めてないの?!」


「父上の悲願でもあったし、なによりお前の夫になる男だからな。

 近衛騎士団長ぐらいになれないようじゃ、公爵令嬢を妻にはできないさ」


「少しは分相応って言葉を覚えたら?!」


「だからお前に相応しい男になるって話だろ?

 お前は俺の隣で見守っていてくれ」


 お母様が楽し気に私を見つめて告げる。


「ロディが相手だとミレーヌが活き活きとするわね。

 あなたたち、本当に相性が良いみたい。

 今回のお話は良縁だったわね」


「お母様?! 何をおっしゃるの?!

 どこを見たら良縁に見えまして?!」


 お父様がワイングラスを片手に告げる。


「いつもの澄まし顔がどこかにいってしまっているよ?

 本当の自分を出せる相手というのは、貴重なものだ。

 取り繕う必要がないという幸せを噛み締めるといい」


「お父様まで……どうしてそうなるのかしら。

 ロディとは幼馴染というだけですわよ?」


「相手を理解し、相手もお前を理解してくれる。

 そういう相手を『相性がいい』というんだよ。

 理解しあえない夫婦というのは、人生がつらくなるからね」


 そういうものなのかなぁ。


 理解しあえる相手、か。


 チラリとロディを見ると、幸せそうに微笑んで私を見つめて居た。


 なんだか恥ずかしくなった私は、うつむいて食事を口に運んでいった。





****


 食事が終わると、ロディが私をテラスへと誘った。


 夜空を見ながら、私はため息をつく。


「あーあ、本当に私たちが婚約者か」


「なんだよ、不満なのか?」


「不満だらけよ。

 ショーン殿下みたいな紳士じゃないもの、ロディは」


 ロディが「ヘッ」と笑った。


「俺はショーン殿下じゃないからな。

 同じものを求められても仕方がない。

 俺は俺、ロディ・フリーランドだ。

 お前がミレーヌ・クロスランドなのと同じようにな」


 自分は自分、か。


 私は本当にミレーヌなのかなぁ。


 もう遠い昔に感じるけど、私にはまだ『クラリス』の記憶が残ってる。


 そんな私が『自分は自分』と言い切る強さは、まだ持てない気がした。


「どうした? 何をしおれてるんだ。

 いつものお前らしく元気に跳ね回れよ」


「私は虫か! 淑女に対してどういう励まし方なの?!」


「お、元気になったな。

 それでこそミレーヌだ」


 ぐぬぬ、なんだかいいようにコントロールされてる気がする!


 私がロディを睨み付けていると、彼は手すりに手をついて夜空を見上げた。


「お前は綺麗だからなぁ。

 俺より相応しい男が、いつか現れるかもしれん。

 そいつに心を奪われたら、いつでも遠慮なく言えよ」


「……なによ、急に殊勝になったじゃない。

 そうなったら婚約解消するとでも言うつもり?」


 ロディが私に振り向いてニヤリと微笑んだ。


「いいや? そいつをぶっ潰してお前の心を奪い返す」


 こいつは~?! どこまでも自信過剰なんだから!


「ロディの自信って、どこから来るのかしら!」


「そんなもん、ここに決まってるだろ」


 ロディが親指で自分の心臓を指さした。


「……心臓に毛が生えてるってこと?」


「そのくらい度胸がなきゃ、近衛騎士団長なんか目指せねーよ。

 実力なんざ後からついてくる。

 まずは臆せず前に進むことができなきゃ話にならん」


 なんだかロディの笑顔が輝いて見えた。


 こいつ、昔から変わらないなぁ。


 まっすぐで、力強くて。


 そんなところは、ずっと嫌いじゃなかった。


 ロディが私を見つめながら告げる。


「お前が俺の隣で見守ってくれてれば百人力だ。

 どんな相手だって負けやしないさ」


 私は恥ずかしくなって目をそらした。


「なんで見守らないといけないのよ。

 見てないところでも頑張りなさいよ」


「お前にいいところを見せられないんじゃ、頑張り甲斐がないだろうが。

 男はいつだって女にいいところを見せたくて頑張るんだぞ?」


「何それ! 俗っぽいわね!」


「それが俺だからな。ミレーヌだって知ってるだろ?」


 私はため息をついて応える。


「ええ、良く知ってるわよ。

 自信過剰で、自惚れてて、それでいて結果を残す男の子がロディよね。

 なんであなたが私に近づくのか、それが理解できないわ」


「決まってる。俺の周りでお前が一番美しい女だからだ。

 それ以上の理由なんて必要がない」


 こいつ……口にして恥ずかしくないのかな。


 私はロディの顔を見ることができないまま、「戻りましょう」と言って踵を返した。


 背後からついてくるロディの気配に、どこか安心感を感じながら。


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