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聖女ですか? いいえ、邪神の巫女です!  作者: みつまめ つぼみ


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18/33

18.聖女奪還

 私に振り下ろされた剣閃が足元で爆発した。


 私の体はロディとフルヴィオのタックルで大きく弾き飛ばされ、広場の上を転がっていく。


「いったぁ?! もうちょっとレディに優しくできないの?!」


 爆発に巻き込まれて吹き飛んでいくロディとフルヴィオ、その二人を近衛騎士たちが受け止めた。


 再び私に向かって襲い掛かろうとするクラリスの前に、パトリシアが両手を広げて立ちふさがった。


「クラリス! 目を覚まして!」


 一瞬、クラリスが動きを止めて眉をひそめた。


 次の瞬間にはパトリシアを迂回し、再び私に向かって襲い掛かってくる。


 ――なんで私ばっかり狙うのかなぁ?!


 人の動きを超えたクラリスの疾走に、近衛騎士たちが立ちふさがり足を止める。


 彼らを振り払うかのようにクラリスは剣を横なぎに振るうけど、騎士たちは身をかがめてそれをかわしていた。


 その背後からジェームズ殿下がクラリスに抱き着いて叫ぶ。


「クラリス! 私たちを忘れたのか!」


 苦悶の表情を浮かべるクラリスが、ジェームズ殿下の頭を掴んで放り投げた。


 ――やっぱり、クラリスは仲間たちに剣を振るおうとしない。


 あれ? じゃあ私は仲間外れなのかな?


 のんきなことを考える私に、三度クラリスの剣閃が襲い掛かった。


 その刃が届く前に、私の前に誰かが覆いかぶさる。


 ――誰?! こんな無謀なことをするのは?!


 爆発が起こるかと思ったけど、辺りは静まり返っていた。


 恐る恐る目の前の人を見上げると、ショーン殿下が背後のクラリスを悲し気に見つめていた。


「クラリス……私のことも忘れてしまったのか」


 クラリスが剣を手から落とし、頭を抱えて苦しみだした。


 パトリシアが大きな声で叫ぶ。


「クリスティン!」


「やってるわよ!」


 悶え苦しむクラリスを、素早く白銀の膜が閉じ込めていく。


 息を切らしたクリスティンが「やったわ! 成功よ!」と声を上げた。


 頭を振るって私を睨み付けるクラリスが、白銀の膜を突破しようと体当たりをする――だけど、クラリスの体は膜に弾かれて跳ね飛ばされていた。


 クリスティンが感心するようにつぶやく。


「まさか、内向きの防御障壁にこんな使い方があるなんてね」


 全てをはじく防御障壁、それを内向きに展開すれば、中からは絶対に出られない牢獄となる。


 今のクリスティンじゃ持続時間が短いだろうけど、時間稼ぎをするには充分だ。


 私も体力の回復を感じ取り、動きを止めているクラリスに対して最後の奇跡を祈る。


 ――邪神様、クラリスを癒してください!


 私の体から残った力が全て抜けていく。


 うっすらと目を開けると、白銀の膜の中のクラリスは金色の光に包まれ、激しく悶え苦しんでいた。


 彼女が倒れ込むのと、私が意識を失うのが同時だった――。





****


 倒れ込んだクラリスを、近衛騎士たちが鉄鎖で幾重にも巻き取り捕縛した。


 今までの身体能力が残っていたら、これでも心許ない。


 だが無いよりはマシだろう。


 ショーン王子が周囲を見回し、近衛騎士団長に声をかける。


「被害はいかほどか!」


「軽傷多数、重傷者は居ないと思われます!」


 クラリスの攻撃で戦闘不能になった騎士たちは、多くが脳震盪を起こしていた。


 致命傷を避ける腕前は、さすがの近衛騎士団と言ったところだろう。


 死者が出なかったことに安堵したショーン王子が、ゆっくりとクラリスに近づいて行く。


 その前を近衛騎士たちが立ちふさがった。


「殿下、近づいてはなりません。

 危険性がないことを確認してからにして頂きたい」


「馬鹿な! ミレーヌによって癒しを施されたんだぞ?!」


「そのミレーヌ嬢は力尽きています。

 癒しが完全だった保証がありません。

 聖女クラリスはこのまま、地下牢に捕縛させていただきます」


 ショーン殿下が声を張り上げる。


「そんな馬鹿な?! この上、さらにクラリスを苦しめるのか!」


「殿下! 陛下との約束をお忘れですか!」


 国王との約束、それは『失敗するようであればクラリスの命を奪う』というもの。


 癒しが保証されていない今、目を覚まして暴れるようであれば即座に命を奪わねばならない。


 頼みの綱だったミレーヌは気絶し、次にいつ目覚めるかもわからないのだ。


 ジェームズ王子が近衛騎士団長に尋ねる。


「クロスランド公爵の魔法薬はどうだ? 在庫はないのか?」


「在庫はすべて、最前線に送られています。

 王都に在庫は有りません」


 パトリシアがショーン王子の肩を叩いた。


「私たちは精一杯やったわ。

 あとはミレーヌとクラリスを信じましょう?」


 脳震盪から回復したロディとフルヴィオもショーン王子の元へ戻ってきた。


「大丈夫さ、クラリスはあれで結構したたかだ。

 後で不満を言うかもしれないが、その時に慰めてやれよ」


「僕らも労って欲しいなぁ?!」


 クリスティンがロディとフルヴィオの肩に両腕を回した。


「偉い偉い! よく頑張りました!」


「できればパトリシアが良かったな……」


 ぼやいたフルヴィオに、パトリシアが微笑んで告げる。


「あら、聖女様の労いじゃ不服なの?

 それじゃあ今度、たっぷり労ってあげるわね」


「今じゃないのー?!」


 ロディがクリスティンの腕から逃れ、ミレーヌを抱きかかえた。


「ともかく、ミレーヌをベッドで休ませよう。

 俺たちも二人が目覚めるまで、王宮に滞在していいだろ?」


 ショーン王子が頷いた。


「当然だろう。私たちは仲間だからな」


 近衛騎士団長が騎士たちに点呼を取り、撤収を開始する。


 彼らに抱えられたクラリスを、ショーン殿下は切なそうに見守っていた。





****


 クラリスが目を覚ますと、冷たい地下牢の石畳の上だった。


 慌てて起き上がろうとすると、体が全く動かない。


 良く見れば鉄鎖で幾重にも体中を巻き取られていた。


「え?! なにこれ! どういうこと?!」


 その様子を監視していた見張りの騎士が尋ねる。


「ご自分の名前を言えますか」


 驚いたクラリスが声のする方へ振り向き、おずおずと頷いた。


「クラリス・バレットよ。ここはどこ? あなたは?」


 騎士が慎重に見定める目で再び尋ねる。


「その前に、ご自分が何をされたか覚えておられますか」


「私が? えーっと、クリスティンの婚約披露会で、化粧室に入って……。

 あれ? そのあとどうしたんだっけ?」


 困惑するクラリスを見定めた騎士が告げる。


「ここはヴァリアント王国の地下牢。

 私は近衛騎士のフリーランド伯爵。

 息子がいつも世話になっているそうだね」


「――あ、ロディのお父さんですか?!

 なんで私、こんなことになってるんですか?!」


 全てを悟ったフリーランド伯爵が、微笑みながら牢獄の鍵を開けた。





****


 応接間で待つショーン王子たち六人の前に、フリーランド伯爵に連れられたクラリスが姿を見せた。


 全身鎧を脱ぎ、侍女のお仕着せを着ている。


 ロディが声を上げて告げる。


「なんで父上がクラリスを?!」


 フリーランド伯爵がニコリと微笑んだ。


「団長から見定める役を申し付けられたからな。

 私なら、クラリスの正気が戻ったか判断できるだろうと」


 クラリスの周囲を、六人の子供たちが囲んで抱き締め合った。


「お帰り姉様!」


「クリスティン?! お帰りって、どういうこと?!」


 最後に抱き着いたショーン王子が、耳元で囁く。


「君は何も知らない方が良い。

 それでも知りたければ、別の機会に私が教えるよ」


 クラリスはおずおずと頷くと、周囲を見回して尋ねる。


「ミレーヌはどうしたの?」


 クリスティンがため息をついて応える。


「まだ目覚めないわ。

 どれだけ消耗したのかわからないから、いつになるやら。

 彼女が目覚めるまで、みんなで王宮に滞在することになってるの」


「あら、それなら王子様のキスで目が覚めるんじゃないかしら」


 六人の視線がロディに集中した。


「――なんで『王子』でショーン殿下じゃなく俺を見るんだよ?!」


「だって……」


「ねぇ?」


 パトリシアとクリスティンが顔を見合わせ、クスクスと笑みをこぼす。


 不満げなロディの背中をフルヴィオが押しながらみんなに告げる。


「ともかく、クラリスが戻ってきたなら癒しの奇跡が使えるんじゃない?

 試しにミレーヌを癒してみようよ」


 全員が頷き、ミレーヌが体を休める客室へと向かった。


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