表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女ですか? いいえ、邪神の巫女です!  作者: みつまめ つぼみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/33

10.恋の予感

 お母様の計らいなのか、昼食は具材がたっぷりつまったサンドイッチだった。


 芝生にシートを敷き、一人ひとつのバスケットと水筒が手渡されて座り込む。


 私の隣にはショーン殿下と、なぜかロジャーが座った。


 ショーン殿下の反対側にはクラリスとクリスティンが座っている。


 クリスティンの隣にはジェームズ殿下が座り、楽しそうに語らっていた。


 ショーン殿下は私に遠慮してるのか、あまりクラリスと言葉を交わそうとしない。


 だけど空気が『彼女と話したい』と伝えてくる。


 私は小さく息をついてショーン殿下に告げる。


「殿下、我慢なさらず語り合えばよろしいじゃない。

 私に気兼ねをする必要はなくてよ?」


「……だが君は私の婚約者だ。

 その隣で別の女性と語り合うのは失礼だろう」


 私はニコリと微笑んで告げる。


「これは子供の集まり。

 今は婚約も何もかも、忘れてしまいましょう。

 心の赴くままに、素直に行動なさればよろしいのですわ」


 ショーン殿下の顔がパッと華やいだ。


「そ、そうか? じゃあすまないミレーヌ。

 ――クラリス、王宮の食事は口に合うか?」


 クラリスはおずおずと頷いた。


「久しぶりにまともな食事ですので、お腹がびっくりしないか心配です」


 クリスティンはサンドイッチにがっつきながら告げる。


「クラリス姉様、それなら私が半分もらうわよ?」


「だ、だめよ! 私だって全部食べたい!」


 そう言ったクラリスが、隣のショーン殿下に目をやって真っ赤になった。


 うつむいたクラリスに、ショーン殿下が微笑んで告げる。


「頼めばいくらでも追加で出してもらえる。

 気にせず食べればいい。

 それほど普段は満足な食事を与えられていないのか?」


 クラリスがおずおずと頷いた。


「朝に少しと、夜に少し。

 とても足りないのですが、疲れ切っていて食欲もあまりなくて。

 ですからこんなきちんとした食事は、一年振りなのです」


 ロディがため息をついて告げる。


「あんたら聖女なんだろう?

 それでそんな扱いなのか?」


 クリスティンが不満げに漏らす。


「聖女と言われて一年間修行してたら、突然『聖水を作れ』なんて無理を言われたのよ?

 治癒の奇跡を起こすのも、最初はできなかったの。

 今は何とか、何時間か祈り続ければ奇跡を起こせるようにはなったけど。

 姉様と違って私は治癒が苦手みたいで、毎日大変なのよ?」


 クラリスもため息交じりで告げる。


「私だって、一本の聖水を作るのに一時間は祈り続けないといけないわ。

 十五時間休みなしで祈り続けて一年間。

 当然、休日もないの。

 これで倒れないのも、聖神様のおかげね」


「姉様?! 聖神様に本当に慈悲があったら、聖女の私たちがこんな目に遭う訳がないわ!

 本当は聖神様なんて居ないんじゃないの?!」


 ジェームズ殿下がクリスティンの背中をさすった。


「落ち着けクリスティン、聖神が居ないなら奇跡も起こせないはずだろう?

 だが噂に聞く以上に酷い環境なんだな。

 なんとかできればいいんだが」


 ショーン殿下もうつむいて考えこんでいた。


「……ジェームズが聖女と婚約すれば、交遊の名目で連れ出せるかもしれない。

 どうだジェームズ。クラリスかクリスティン、どちらかと婚約できると思うか?」


 ジェームズ殿下がクリスティンを真っ直ぐ見つめた。


「そうだな……クリスティンであれば、私にも文句はないかな。

 クラリスは兄上にお譲りするよ」


 ショーン殿下が顔を真っ赤にして応える。


「何を言ってるんだお前は!

 私にはミレーヌという婚約者がいるんだぞ?!」


 フルヴィオがニヤリと微笑んだ。


「あれだけクラリスばかりを追いかけまわしておいて、良く言いますね。

 どう見てもご執心なのは見て取れますよ。

 王侯貴族の婚約なんて、そんなに重たいものじゃないし。

 国王陛下に言えば、クラリスとの婚約に切り替えることも可能なんじゃないですか?」


 ショーン殿下が私をチラリと盗み見た。


「……ミレーヌ、君はどう思う?」


 私は水筒の紅茶でサンドイッチを流し込んでから応える。


「殿下のなさりたいようになさって結構ですよ。

 もっとも、お父様が頷けば、ですけどもね。

 王家と聖教会の結びつきを、お父様は嫌がりそうですから」


 第一王子と第二王子、二人が聖女と婚約する――明らかに過剰だ。


 これだと王家が聖教会に絡めとられかねない。


 おそらく、しばらく婚約の切り替えには頷かないだろう。


 もっと聖教会を弱体化してからになるんじゃないかな。


 ショーン殿下も同じ考えに至ったのか、小さく頷いた。


「……そうだな。時期を見計らってということになるだろう。

 すまないミレーヌ。婚約者の君をないがしろにしてしまうかもしれない」


 ロディが横で楽し気に笑った。


「ミレーヌ嬢がフリーになるなら、俺が次の婚約者に名乗り出ても構わないか?

 我が家は家格でこそ劣るが、父上は近衛騎士団の団員だ。

 公爵令嬢を娶るのに大きく不足してるとは言えないと思うぞ?」


 今度は私の顔が赤くなった。


「ちょっとロディ? 何を調子に乗ってるのかしら。

 少し親しくなったからって、もう少し慎みというものを覚えたらいかが?」


「俺は欲しいものは欲しいと言うべきだと思うね。

 遠慮していたら逃げてしまうなら、なおのことだ。

 ミレーヌは美人だし、これからどんどん美人に育つだろう。

 今のうちに唾を付けておけるなら、当然付けにいくさ」


 パトリシアがため息をついて告げる。


「ロディ、あなた遠慮というものを知らないのね。

 仮にも相手は公爵令嬢よ?

 もう少し相手を見て分を弁えたらいかが?」


 フルヴィオが困ったように微笑んだ。


「ロディは昔からこうなんだ。

 欲しいものはいつもこうして手に入れてきた。

 そのエネルギーは、僕も見習いたいと思ってるよ」


 ロディが真顔でフルヴィオに応える。


「手に入れればいいだろ?

 パトリシアに婚約を申し込みたいなら、別に今からでも早くはない。

 お前もパトリシアばっかり追いかけまわしてたじゃないか」


「あれは! 女子で残っていたのがパトリシアだったから仕方なくだよ!」


 パトリシアが冷たい眼差しをフルヴィオに向けた。


「あら、仕方なくでしたの?

 その割に楽しそうに追いかけてらしたけど。

 でも仕方なくでしたら、婚約を申し込まれても断ってよろしいのよね?」


「ちょっと待って?! そういう意味じゃなくてさ?!」


 子供たちが笑い声をあげながらフルヴィオをからかっていく。


 そんな空気で、クラリスやクリスティンもすっかり子供たちに打ち解けたみたいだ。


 ショーン殿下と目配せをして頷き合う――今日の作戦は大成功、といったところだろう。


 今後、ジェームズ殿下とクリスティンの婚約が成立すれば、それを理由に二人を連れ出しやすくなる。


 ちょっと問題もあるけど、ショーン殿下がクラリスに惹かれ始めてるのを知れば、聖教会は聖水作成を後回しにして関係強化を図るだろう。


 二人の王子に聖女が嫁ぐ――今の聖教会が喉から欲する挽回の好機だ。


 ここから先は慎重に動かないといけないから、お父様に任せるしかない。


 あとはお父様がどう判断するか――そこは、お父様の良識に委ねよう。



 食事が終わると、お腹いっぱいになったクラリスたちが横になっていた。


「ちょっと食べ過ぎました……」


 ショーン殿下がクスリと笑って同じように横になった。


「ならば青空の下、皆で昼寝でもすればいいさ」


 パトリシアが頬に手を当てて告げる。


「あら、令嬢にお日様の下で横になれとおっしゃいますの?」


「日傘なら用意させる。心配は要らないよ」


 ショーン殿下が立ち上がり、周囲に控える従者に向かって歩いて行った。


 どうやら本気で日傘を用意させるつもりのようだ。


 私はクラリスたちを見ながら告げる。


「クラリスとクリスティンは、日傘を使わない方がよろしいですわね。

 あまりにも顔色が青白くて、生きた人間に見えませんわ。

 少しは日光を浴びないと健康に悪いですわよ?」


 クリスティンが伸びをしながら応える。


「言われなくてもそうするわ。

 こうして日光を浴びるのも一年振りだもの。

 たっぷり味わいたいところね」


 本当に人間扱いされてないんだな……。


 聖教会に苦言を呈しても、聞き分けることもないだろうし。


 せめて週に一回連れ出せればいいんだけど。


 そこはお父様に相談して交渉してもらうとしよう。



 私とパトリシアは侍女に日傘を持ってもらい、顔に日光が当たらないようにしつつ横になった。


 クラリスの横にはショーン殿下が横になり、何やら楽しげに語らっている。


 私の横にはなぜかロディが横になってきた。


「ちょっとロディ? 図々しいんじゃなくて?」


「俺は欲しいものは必ず手に入れるって言ったろ?

 ショーン殿下が素直になって良くて、俺がなっちゃいけない道理はないさ。

 ミレーヌも自分に素直になってみろよ」


「まぁ、自信過剰な人ね!

 いいわ、今だけはあなたの好きにすれば。

 でも次からはきちんと分別を弁えてもらいますからね」


「努力はしよう」


「努力だけ?」


 ロディがニカッと笑った。


「俺は自分に正直に生きることをモットーとしてるからな。

 綺麗な女が居たら欲しくなる。当然の話だ」


 私はため息交じりで応える。


「それじゃあ妻となる人は、あなたの浮気に苦労しそうね」


「そんなことはない。俺は浮気なんてしないさ。

 俺にとって今一番価値ある令嬢がミレーヌ嬢ってだけだ」


 私は赤くなる顔を隠すようにロディに背中を向けた。


 ……本当に自分に正直な人なんだろうか。


 その言葉が嘘じゃなければ――そう思ってしまう自分が居る。


 そんな自分の心を持て余しながら、私たちは昼寝の時間を楽しんでいった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ