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89話  彼は枯れ葉のように

 【 12歳 晩夏 】



 ヴァレニーが吹き飛んだ物体を追走する。

意味が解らんが取り敢えず身の安全は確保したい。


俺が武器を取り出した所為でメイドたちも取り出し警戒するが、周りの大半は状況が把握できず揃ってヴァレニーを目で追っている。


ヴァレニーは飛翔体(ひしょうたい)の腹を鷲掴(わしづか)むと無理やり停止、着地させて叫ぶ。


「ロァヴェルナ! 治療をお願いっ 折れちゃった!」

……何となく把握した。


「何やってるのよ……」

「だって、こんなに(もろ)いなんて思わないじゃん?!」

あんな回転する程だと誰だってこうなるわっ 転生でもさせる気かっ


「はいはい」

ロァヴェルナさんが治療に向かう。俺も(さすまた)をしまい、メイドたちにも武器を仕舞う様指示を出した。


「いやぁ 簡単に首の骨が折れたからびっくりだよぉ」

「「えっ?!」」

「ルァニエス、ルン手伝いなさいっ あと、ヴァレニー、手を放しなさい」

「えっ ……あぁ。ゴメ、こっちもお願い」

服で見えてなかったが手を放すと犠牲者の脇腹からは血が出ていた。


平然としているよう見えて気が動転しているのか、力の加減ができていなかったようだ。





 領主と話し合いが行われ、この件は負傷者は出たもののお(とが)め無しで済んだ。


まぁ、問題だらけだったがな。文官を連れて居ないからお詫びと状況を説明を何故か俺がする事になるし、被害者はここの跡取(あとと)りだったっぽいしで、聞いた時は血の気が引いたわ。


お咎めが無かった理由は単純で、男爵がウチと事を構えたくなかったからだ。しかも、自分の息子からヴァレニーへ接触したのだから強く言えなかった。過剰防衛ではあるが即座に治療も行ない後遺症も無い訳で、ここで咎めて親の指示で意図的に絡んだとは思われたくはない感じだ。


どうも認識妨害のお陰? でアリーとヴァレニーの区別が付いていないっぽい。見た目の年齢差は 2、3歳はあるんだがな。報告を受けてやって来た男爵も、子爵家の旅の途中な女の子に息子が手を出そうとしたって情報だけなので対応に困っていた。態度や表情からもそれほど強欲な感じにも見えないし、警戒し過ぎたかもしれない。実に零細(れいさい)貴族って感じで少し親近感すらあった。


もちろん改めてアリーを紹介し、ヴァレニーも護衛の一人として紹介と謝罪をしたがね。流石にここで嘘を混ぜるのは(まず)いし、折角治療までしたんだ、お互い様で終わらせたい。 ……終わってくれ。


そもそも男爵家の人間は俺らが来た事すら把握していなかったんだよ。偶々俺の顔を知っている行商人が居て挨拶を受けた事で妹と一緒に旅の途中だと周りは知ったんだ。


それを知った子息が興味を持って見に来たってだけの話だったのだが、見た目だけだが歳が近そうなヴァレニーを見つけて一瞬で心を奪われた。そしてひと目惚れから突撃をするのが一瞬なら、恋心と骨を粉砕されるまでもが一瞬で、お付の人含め誰も止める(すき)すらもなかった。治療後、子息は意識を取り戻したが部屋に閉じ(こも)ってるそうだ。


何事も無く解決したのは(ひとえ)にロァヴェルナさんの治療術のお陰で、男爵が来る前には傷は回復し、痕跡(こんせき)は血の付いた衣服くらいだったからなんだ。


まぁ、砕かれた恋心(ハートブレイク)は修復できんがな。



そして今、別室での話し合いを終え(ようや)く解放された。


「いきなり腰を抱くとか、どーよっ!」

(あご)と首の骨を砕くのもどうかなぁ」

安心してか、改めて怒り出すヴァレニーを(なだ)める。


「認識妨害の所為なのかしら……」

「いや、普通初対面じゃなくてもいきなり触らなくない?」

「エルフの集落とは文化が違うかもしれ「無いと思いますよ」ないから、そこは何とも」

流石に弁明する。エルフより開放的(フリーダム)だとは思われたくない。


どうも子息から話し掛けられ、どこかへ誘われた際に腰に手が回ったそうだ。


「ぞわっと来たしっ!」

何故かアリーとティーエが慰めているが、100歳超え(年上)の頭を撫でるのは良いのか。


ヴァレニーも手加減は一応したらしいが、咄嗟(とっさ)の行動に意図せず身体強化が乗ったらしい。まぁ、身の危険を感じればそうなる、そこはしゃーなしだ。

ただ、脇を絞め素早く振る平手打ちはエルフの男ならまだしも、人間の一般人の子供にはキツイ。触れてすぐ顎が砕け、手に伝わる感覚でヴァレニーも慌てて手首の力を抜くも、腕を止める間もなく首の骨も折れて吹き飛んだわけよ。そしてその後は知っての通り。


「枯れ葉みたいに砕けるんだもの。怖かったわぁ」

「「「 …… 」」」

比喩(ひゆ)が怖えーんだよっっ


「今回の件は誰にも言わないようにね。後は父様と話して貰う事にしたから」

「「「はいっ」」」「はーい」「わかったわ」


エルフとの問題ではあるけど、誰一人そんな面倒な対応などしたくないのだ。その後は内容を記載した手紙を書いて今日移動する行商人に配達を依頼しておいた。


子息の年齢は俺の 1つ上の 13歳。アリーと 2つ違いだが、今回の件で印象も良くないだろうし縁談とかは無さそうかな。


一応、宿泊の提案もして貰えたが宿泊する気にもならず、少し長引きはしたが予定通り次の野営地まで移動する事にした。


「予定より時間が掛ったから少し速めに移動しよっか」

「予想してた事をそのまま再現するとは思わなかったわ」

「いあ~ 美人はつらいねっ」

そこは少し反省しろっ





 その晩は男爵領の西の端の野営地に泊まる事になった。その野営地には昨日泊まったピラミッド型より若干小さい物が 2棟あり、既に夕暮れ時と言うのあって少し賑やかだ。


「明日到着する次の男爵領は、ドワーフ領と繋がっているため周辺貴族に比べて圧倒的に交通量が多いのです。それとある程度の品をドワーフより委託されて販売しているので裕福でもありますな」

「そうなんだ。ドワーフと直接取引っていうのは(まれ)なのかな?」

「稀ですな。良く売れて嵩張(かさば)る物ほど男爵領の倉庫に保管されてますから。私は若様の依頼で金属の仕入れでドワーフ領に行きましたが、あちらではここに所属する行商人がほとんどでしたな」

「なるほど、ドワーフの倉庫の役目も果たしてるのか」


「実は南端倉庫の真似なのですよ」

「え?! そうなの?」

「元々、周辺貴族領が取り引きの為の現金を作る場所だったのですが、子爵領にある南端倉庫ではエルフの方々が実食して評価して下さったり、欲しい物を直接教えてくれますでしょう? しかも自身で料理を致しますので新しい食材も積極的に受け入れてくださる。それをドワーフの方々にも提案してみたところ、あちらも有用と思って戴けたようなのです」

「ドワーフも男爵領に居るの?」

「偶にらしいですがな。それでもあちらが何を欲しいのか知れて助かっているようですぞ」

「ふ~ん」


「ですので宿泊もできますし、近隣から料理人が来て競い合っていますからな。ドワーフ向けの料理研究の他にも普通の料理研究もしていますので、明日の夜の料理は期待できますぞ?」

「あ~~ そっちを真似たのね」

「はい。料理の出来次第では報奨金も出るのだとか」

「どっち向かってるんだ……」

カルニナフさん病が発症したのか……



ピラミッドは両方が微妙に混んでいたので、取り敢えず今日は諦めて昨日作った建物を利用する事にした。昨日に引き続き、今日もピラミッドを見ながらの食事である。


寝室は無いので俺はメイド隊が料理をしている間、ずっと建物の改造に(いそ)しんだ。

ただまぁ、時間も無いので 2階への増築は只の大部屋にしてしまったがね。


ピラミッドに居るであろう行商人たちから騒がしさが伝わるものの声は判らない。何か凄い楽しそうな雰囲気と声だけが伝わってくる。

「あちらは何やら楽しそうですね」

「あははは。大丈夫よ。 ……ふふ、あの笑い声は私たちの話題ばかりよ。(ひど)い噂ばかりねぇ」

「そうなんですか? 酷いと言う割にさっきから上機嫌と言うか……」

「大半がヴァレニーとあなたの噂だもの。ふふふふっ あははっ」

聴力強化の盗み聴きか?


「なんです?」

「くくっ いえ。なぜか今、子息がヴァレニーとあなたの()()二人を口説きに行ったって事になってる。あははははっ ヴァレニーが妹になってるしっ」

「「なんで?!」」

「叩いたのもあなたになってて、妹思いの姉だそうよ。ふふふっ あははっ」


俺も行商人どもの顎を砕きに行くべきだろうか……



ヴァレニーの認識妨害でどうしてもルァニエスの方が印象に残ります。また、武器構えたりした事が歪んで伝わってたりします。


ルァニエスが野営地に到着以降にもピラミッドには人が増えてます。

行商人は暗くなる前に到着できるかどうかで出発時間を決めてますので、夕方に一気に人数が増えます。そして先についた現場を見ていない人たちに面白可笑しく説明していると言うわけです。

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