8話 幻想世界の福祉事情
【 5歳 秋 】
秋が来た!
本来忙しい秋ではあるが俺は戦力外。だがこの時期しか無い作業は是非とも見たい。そこでそのお忙しいメイドさんを捕まえて、邪魔しないのでお酒造りを見せて欲しいとお願いした。当然なのだが、メインの保管場所はここなので加工もここで行われている。
工程が異なるひまわりの酒なんかは全く違う場所で行ってるらしい。
こちらは気温や時期の調整が難しいらしく見れないそうだ。種を発芽させる必要があるらしい。ちなみにひまわりの種は全量、他領からの輸入とのこと。
と言うわけで果物の酒の見学だ。
ワインの製造は力仕事役に少数の男性居るだけでほぼ女性だった。
もしかして葡萄を踏むあれか?
ワインは年中開けて飲んでるそうだ。出荷時期なんて無く、収穫、加工時期があるだけ。昨年度分が飲み終われば新しいのを端から飲んでいき、残った物を貯蔵するのだ。じゃないとこの時期に甕を大量に洗浄しないといけなくなる。だから普段から開けては洗うを繰り返してるんだそうだ。取り合えず残ってる甕を開封、瓶に移す。
まずは、甕の洗浄作業。その後今年収穫された果物でワインを仕込んでいく。
俺はもう10年ほどは飲まないだろうけど知識だけは詰めとこう。
知っておけば新しい果物に出会ったときに閃くかもしれんからな。
別に踏む工程は無かった。
意味も無く期待してしまったぞ。
踏むのが見たかった訳では無いが変な先入観があると言動が変に映るかも知れない。気を付けねば。
……危なく足洗えって意味無い事を言うところだった。
◆
税と倉庫の話で若干勘違いがあった。
食料を集める理由は虫だけじゃないようだ。
もう一つ重要なのが、燃料。薪である。
この世界、樹が伐れないので各家庭で調理ができないらしい。
村に出て気付いたのだが一軒家って無いんだよ。
大きな建物があって、そこの周りの畑を担当する家族が全員住んでいる。
二階建ての建物で四角い枠の形をしており、内部では家族毎に部屋が分けられてるそうだ。食事は食堂でまとめて作っているようで、位置は中庭の地下にある。領主邸と異なるのは地下一階と言うか石垣の中が住居で上が倉庫な所かな。もちろん堀は無しだ。
住居の明かりは天井付近に採光用の細い窓がある位で、後は魔法で対応しているようだ。基本、食堂以外では油を光源にする事はあまり無いらしい。匂いが強いからな。
食品の備蓄をしないのは害虫対策で、警備員を配置する余裕がないからなのは以前言った通り。ここの倉庫には虫に食べられる心配の無い薪や枯れ枝が備蓄されている。この薪を冬まで消費を抑えつつ備蓄していくので量を可視化する必要があるのだ。当然、足りなければ周りや領主に相談である。
倉庫が食べられない物だらけなので食事の内容は通常、その日に収穫した物が多くなる訳だな。その為領主邸の倉庫からは足りない穀物など、長期保存の生産物を定期的に厨房へ補充しているらしい。
燃料の都合でパンは焼いていられない。大鍋で作れる物が効率が良いって事になる。少量なら魔法で熱源が作れるらしいのだが、窯で焼くような物は薪が必要になってしまうのだ。薪は年間少しずつ備蓄していくらしいから、樹が伐れないのが相当影響を受けている。
冬は虫が減るのと移動が困難になる可能性がある為、食料や酒、塩なんかも倉庫に入れる。それ以外の季節はとにかく薪を貯め込むそうだ。
石炭、石油の時代じゃないからな~
それと領民の家が一軒家じゃない理由だが、冬の燃料の消費を抑えるためでもあるとか。中央の地下にある食堂が若干低く、冬は排熱を切り替え、居住区の床下に通しているらしい。
同じような建物が畑の位置に合わせて結構な数が配置されている。
やってる事は社宅と社員食堂なんだけど独自進化だな~
この領について
この領は周辺の貴族と比較すると小さくて貧しいのだそうだ。
3つの山に囲まれ水資源は豊富なのだが、東の山が高く日照時間が短いため農作物の収穫量が少ないのだとか……
あれ? 作物は豊富って言ってなかった?
種類は豊富で一種類を育てる事のリスクを回避し、通年で色々収穫できてるようだ。食事に使われている野菜が多様で、裕福なのかと思えば主食の穀類の不作対策らしい。
まぁ主食って言い回しが理解を妨げるな。
主に用いるエネルギー源となる穀物の中で、この領内で穫れるのは実は芋やかぼちゃなのだ。と言うのも、芋は地中なので虫の被害が起きにくく、かぼちゃも比較的害が少ないらしい。ただ、これらは年間の保管には向いていない。
だからこそ麦や蕎麦のような長期保管可能な物が備蓄に採用されている。
秋に収穫時期が一度に来る作物だと虫との闘いが大変で、防衛に失敗すると翌年が悲惨となる。
平地を領地に持つ貴族は防衛範囲こそ広いものの害獣は出ず、虫の駆除をしたら良いのだ。その為余剰分を貿易に使えるうえ、あまり収穫量が変動しない。
この領では草食系の害獣が山から出てくる為、防衛が困難となる。
ここは平地の貴族より遥かに練度の高い兵士が多いらしいが、好んで森に入りたい訳ではないので中々個体数が減らないのだ。このへんの環境が、この世界一般の主食を周辺の貴族から全量輸入する理由となっている。対価は獣の皮や脂なんからしい。これは平地での入手手段が少ないからな。
収穫時期の異なる作物の存在は、麦や蕎麦の消費を抑えるのに非常に重要なのだ。
秋に収穫が多い作物より夏に複数回収穫できる作物が優先されてるらしい。豆とかな。
これは蔵の影響もあるようだ。冷蔵機能も無いし収穫時期が重なり、備蓄が溢れても困るからだ。領主邸の倉庫に入る果物は屋敷で消費する分だけで、領民は都度収穫、消費してるらしい。
気候は雪が数年に数度、大雨が降ることも無い上、水源が近いため水害は少ない。
人類は魔物退治の方が忙しいから戦争とかはほとんどないらしい。
同じ国に所属した領主同士の戦いなんてまず無いとのこと。
この領は2つの領地と繋がっていて、1つは北西の川の下流側。
川沿いを何日も下って行くと最終的に王都に着くらしい。
あとは北東にある山間の沢を抜けると同規模の領地があるんだが、母方の親戚だそうだ。
この領地の水源は北東と南からとなって居る。
これが中央、北寄りで合流し北西へ抜けて行く。水量は程々で流れも強くない。
東の背の高い2本の山脈を越えると他国になるらしいが、国交どころか道が無い。
国の情報すら見つからず。
南は山と山脈に挟まれた沢があり、その先は未管理の森である。
南の森の生物は強いため、出てこないよう封鎖しているんだとか。
普段の狩りは東西の山の麓の獲物を狩ってるようだ。
南の沢の越え、更にその先の森を越えると海に着くはずだが誰も確認していないとのこと。
では何故知ってるかと言えば、王都から船で東に向かうと断崖絶壁があるらしい。
崖下は浅瀬で、船が入れないので未開発。地図上ではそこに出るらしい。
断崖絶壁に着く事が確定してるので製塩も望めない。結果この領の者は誰も南を目指さないのだとか。
要はここは国の南西端で、北と北西に別の貴族と領地を接しているって事だ。
険しい山脈があるお蔭で他国との紛争も無し。物流からは疎外されてる気もするけど、水が豊富な割に水害も無し。平穏で良いんじゃないかな。
西の山の先には活火山があり、400年程前に一度噴火していて王都にまで灰を齎したのだとか。火山の周辺の山に異種族の集落が点在しているとの事だが、こちらとは道が通じていない。
製鉄が得意と書いてるのでドワーフっぽい感じだろうか?
筋肉質で男は皆、髭を伸ばすって書いてある。
来たぜっ ファンタジ~
やはり神様の娯楽アプリに迷い込んだのかねぇ
【 初冬 】
暇だ……
思うに冬を上手く使うのが人生のコツでは無かろうか?
もちろん大人は働いてるぞ、収穫物の処理は全て秋の終わりから冬の始めに行われる。
酒や干物も同じくこの時期だからな。
子供は勉強だけなんだろうか?
んー、この処理も見て回るか~
どんどん農家に近づいてる気がするぜ~
……
見せて貰えなかった…… まだ早いと……
絶っっ対っ違う!
お前ら酔っ払ってんじゃねーか!!
呑みながらやってるのかよ!
早く大人になりたいな、みんな楽しそうだったし。
……いや、諦めんな!
ガンガンガン
「薄めたら行けるって~~っ」
「そこは飲まないと言うべきでは?」
「ずーーるーーいーーっ」
参加したいだけなのに。
「奥様経由でお願いしてみては如何ですか?」
「帰ります……」
な、何て恐ろしい提案するんだ、このメイド……
勘違いは敢えて入れてます。無い方がおかしいので。
最後のメイドさんは突然出てきた感じになってますが、主人公は5歳なので未だ一人行動できません。
二人で行動してる文章を入れるのは蛇足に感じ、今のようにしました。変ですかね?