87話 異世界ピラミッド
【 12歳 晩夏 】
父よりドワーフ領と子爵領南西口間の道の調査をお願いされた。
さして準備も要らないので明日には出発しようかな。
北西回りで行くなら着くまでにいくつか他領の町を通るはずだし、物資は途中で買えば良い。何より俺は個人で護衛を連れているので他の部署に頼む必要も無い。
「明日の朝から行きましょっか。で、その分途中の町を少しゆっくり見て回りましょう」
「賛成ーっ」
「落ち着きなさい。 ……急ぐ必要は無いの?」
「普通だと準備してから出ますし、あちらもその日数くらいは想定してると思いますよ」
一部の文官は今もドワーフ領で打ち合わせしてるだろうし。
「待ちなさい? ドワーフ領まで行商人か誰かに付いて行って貰いなさい。道案内もだけどエルフ領までの移動とは旅の仕方も違うわよ?」
母様からの助言が入る。
確かにそうかもだな。最悪、野宿で良いやって思ってたわ。
と言うか野宿するものだと思ってた。
この国だと領民が貨幣を持たないので勝手な行商はあり得ず、税の不正も起きようが無い。その為わざわざ検問する関所ような建物も無いのである。
更に言うと城壁も無い。何せ虫は垂直を登るし、馬などが突っ込んできたら石製の壁などまず破壊される。なので仮に作ったとしても城壁は守る役には立たず、人間を閉じ込める為の建造物となってしまうのだ。だから領と領の境界はちょっとした目印があるだけの未開拓地状態である。
とは言え、確かに気を付けなければいけないルールとかがあるかもしれないし、初回くらいは誰かに依頼をしようかな。
準備を整え、翌朝に出発となったのだが、追加人員が増えた。
アリーとティーエである。
この人選で昨夜は酷い目にあった。アリーが行きたいと言い出し、両親が許可を出すと今度はフィニーとウェリントまで行きたいと言い出すしで、流石に拙いと両親に兄まで一緒になって説得する羽目になったんだ。自分の子供 2人が行くのならと、次妻のウァルエルタさんまで護衛で付いて行くって言い出すから凄い状況だった。
結局はアリーとティーエの 2人が行く事になり、案内役はティーエの実父であるフェンさんが立候補してくれた。お兄さんの方かと思ったが、ドワーフとの交渉の席に参加したいんだそうだ。
ちなみにだが、ティーエは最初から最後まで自分は行けなくても良いと目で訴えていた。
……済まない。アリーの方を説得してくれ。
前回の父と兄が行った時に同行したら良かったのにとも思って聞いたのだが、戦力のバランス的に無理なんだそうだ。父と兄、さらに護衛で付いて行った領兵は集団戦が得意な槍兵が主力なのだ。その為、鉈が主兵装なアリーたちを連れて行くと別の護衛が必要になってしまうんだ。鎧が無く身体強化特化の脳筋兵士の弊害だな。ウチの領兵は女性の方が盾が上手だったりする。
で、俺たちの場合だがウチらは個々で収納魔法がある事に加え、全員が普段から兵装を使い分けての護衛が主任務。周辺の地形に合わせる程の技量もあるし、人員のローテーションもできるからな。そして何より、エルフの 2人がお強い!
おチャラけてるヴァレニーですら、こっちの大型肉食獣程度なら複数体を素手で退治する。ロァヴェルナさんに至っては退治と血抜き作業を平行で行い、目を離した短時間で複数体を仕留め終え、血の臭いが後からやってくる程だもの。死にかけた獲物を空中に浮かせて片手間に解体する姿は、大型の魚でも捌いてるかの様だったぞ。
「じゃあ行こうか」
「今晩は野営地で一泊となりますな。急いでも次の村には着きませんのでゆっくり行きましょう」
領地に居る事の多いフェンさんが言う。もちろん彼も若い頃は旅をしてるから色々知っているだろうし、知恵をお借りする事にする。
「う~ん。移動速度や休憩は任せるよ。遠慮とかせず指示を出してね」
「解りました、では参りましょうか」
長距離を歩くのでみんなに足の疲労回復の魔道具を渡している。
疲れにより日程が遅れる事はまず無いだろう。
◆
道中は勉強しながら歩いている。見た事の無い植物を記憶の中の植物と比較しながら検証するのだが、結論が出るかは判らなくとも似てる似てないを話し合うだけでも結構楽しいんだ。
元々メイド隊が勉強熱心なのに加え、ティーエとフェンさんからの質問も多かった。ただ、長く生きているエルフ 2人の前で知識人振るのはどうにも恐縮してしまう。
今回は分類学について話しをしてたのだが、このジャンルはルンが好きなのでエルフから教わった情報にも詳しく、話題も質問も多い。
「種子の交配ね~ 良く知ってるわね」
「考えると当たり前なのですけどね。気付いてても本に残そうって人が居なかったんだと思いますよ」
知らないけど……
ロァヴェルナさんに前世なんて言えないし、回答を濁した。
だって前世と動植物が違い過ぎるし、俺だって研究中なんだってば!
動物でも『山越え』とか前足と羽で腕に当たる物が 二対ある連中が居るんだぞ。鼠や鹿も 6本足だしな。それにあれから調べたんだがケンタウロスも存在するみたいで、腕と前足って形は違うが肩甲骨が二対に足が一対ってのはこの世界ではそこそこ一般的なのだ。
哺乳類の分類の前か後ろで 4脚類と 6脚類で分類しないといけないんだわ。
もう、海から陸へ進出した時点から既に違うんじゃないだろうかとっ!
カニとヤドカリみたいな収斂進化が哺乳類にまで及んでるんだぜ?
※ 収斂進化…… 違う生物なのに同じ形に近づく事。
動物でこれなら植物はもっと分岐している事だろう。
見慣れぬ植物を見つけては回収したりと、話しながらの旅はのんびりと進んだ。
エルフ 2人の警戒とメイドレンジャーの迎撃により道中は順調に進む。植物の採取など結構寄り道をしてはいた割には予想よりも随分と早く、結構日が高いうちに到着した。
「ここから少し登ります」
と、フェンさん。
川沿いに歩いて来たのだが、本日の目的地は川から森に入って行った場所にあるんだそうだ。万が一雨で川が増水すると困るので、野営地は川から少し高めの所に作られていんだとか。
「普段はもう少し警戒しながら進むので歩く速さももっと遅いのですよ」
「そうなんですね。 ……な?!」
何これっ?!
到着した野営地には何故か小型のピラミッドが……
おかしくね?
ブロックの積み上げでは無いが 2階建てを超えるくらいの高さはある、石製の三角の壁が 4面の建造物があった。
「えっと、初めて見る建築方式だけど、これって一般的なの?」
フェンさんに尋ねる。
「人通りの少ない街道の野営地では一般的ですね。行商人の移動の数が多い所だと箱型で上下に伸びる事もありますな」
「へ~」
へー、へー、へー こんな灰色でつるつるなピラミッドが各地にあるのかよ。
「珍しい物ですと半球状の所もありますよ」
「そうなの? 作るの大変そうだけど……」
「屋根が平だと上に何かが乗る事がありますからな、それの対策なのだと思います」
「なるほど~」
支柱を元に石製のテントを考えれば、半球型も一応は合理的なのだろうか?
入口はピラミッドの端の方にあり、内部はかなり広かった。中央に一本の柱とその根元から 4面の壁をそれぞれ支える 4本の支柱が接続されていて、2、30人は入れそうな広さがある。しかも中央の柱の上には穴が開いていて煙などを逃せるらしく、室内で火も使えるとの事だ。もちろん板を何枚か組み合わせ、雨や光漏れで虫が入って来ない様な構造になっている。
「今日は肉焼いちゃおーぜ~」
「ヴァレニー…… 言っておくが室内はダメだぞ、言っておくが」
排煙機構を説明したら、早速肉を焼けと言い出す自由人を強めに窘める。
「え~、真っ白な煙の中で食べるご飯も美味しいって。多分」
「今日はここで寝るんだからな。寝る時までに臭いが消えないと嫌だろ。雨降ってる訳じゃないし、外で調理してから持って来たら良いじゃん」
「何かが物足りないじゃんっ 音とか煙とかさぁ」
「じゃあ外で食べようよ」
「虫来るじゃん!」
「普段気にしないじゃん!」
「あんたたち姉弟みたいよねぇ」
「「いや、何故っ」あたしの弟だったら絶対拒否させないっ「いや、拒否するしっ」」
ロァヴェルナさんの心無いツッコミを全否定する。
今は居ないが行商人も使う共用の建物なので、結局外で調理する事にした。
それからも我が儘な要求が続き結局は調理場を作る事になったんだが、今年入った子らがヴァレニーに同調し、ノリノリで肉を焼く設備を作り上げていく。行商人は距離魔法以外は基本使えないので、ここに残していく訳にもいかないんだがなぁ
結果、何故か旅の初日で携行用の厨房 兼 食事場所が出来上がった。
少し陽の落ち始めた時間にピラミッドを見ながらメイドの焼く肉を食べる俺。
「こう言うのも結構楽しいねぇ」
「少し旅を舐めていたかも」
初日からピラミッドは無いだろ……
「普通は朝に作った物で済ますか、食べないかなんですよ?」
フェンさんが僅かに白い目を向けながら一般的な旅では無いと訂正する。
何とも旅に向かない子を連れてきてしまったものだ。
収斂進化は環境で形が似て行く事。クロアリとシロアリは姿が似ていますが種は異なり、クロアリは蜂の仲間で女王や兵隊を持ち、クロアリはゴキブリの仲間なので女王も兵隊も居ません。カニとヤドカリは違いますが、タラバガニはヤドカリなのにあの恰好なのです。
作中でなぜ収斂進化かと言うと、『山越え』が前足と腕由来の羽がある事もケンタウロスが人の上半身をしているも異常だと言ってます。こちらが同種からの進化ならば、ケンタウロスの上半身の方は人間と収斂進化です。




