84話 夏休みの工作
【 12歳 夏 】
エルフの里からの訪問者たちのその後なんだが、視察組の 5人は早々に帰ってしまった。そして、飽きっぽそうな若い子らは予想に反して馴染んでいた。
それで問題だったのは…… 抑え役として付いて来ていた人たちがとっくに飽きてしまっていたのだ……
「あいつら、いつ帰るんだよ! そろそろ仕事に戻りてーよ」
「分かる。俺らもそろそろ帰りたいわ~」
監督役の 5人の内男性 3人がボヤき、カルニナフさんたち南端倉庫組 7人が相槌を打つ。ついでに言うとこの場には俺の他に観光組の男性 2人も参加してる。
「里から戻って来いとか言われないんですか?」
「全然ねーよ。お陰で嘗てなく平穏だからそこに居ろ、だぞ。帰りて~」
「俺らだけ帰っちゃだ「ダメだ!」め?」
昼食後の未だ真昼間、養殖池下のラウンジで透けた陽光の中を泳ぐエビを見ながら 12人の男性エルフが酒を呷っていた。俺もなぜか果物の果汁でお付き合いだ。
「今日はいきなり呼びつけて、飯作れだよ? 作れないなら帰れよ、ほんと」
エルフの里の料理が食べたくなったとお願いされたらしい。もちろん子供たちの分も含めてである。ルティ姉は予測していたのか近寄りもしないし……
「いや、俺らも帰りたいんですけど、ちっとも聞きやしないし……」
「 2人して恋人、説得できないのかよ」
「無理っす。抑え役の 2人まで一緒に楽しんでるのにどうしろと……」
完全に男女で分かれていた……
どうやら、年下が居なかった彼女たちにとって保育士業は楽しいらしい。
「あっちは放っておくとして、お前ら何かしたい事ないのか?」
「どうせならこっちの建物の改築とかしてみたかったですね~」「あ~俺も~」
「ほとんど終わってるからな~ どうせなら、行ける処まで地下を目指すか」
ダメに決まってんだろっ!!
「駄目ですよ。絶対に怒られますって。どこかで水漏れたら死人が出ますし」
「ん~何か無いかねぇ…… ルァニエス。何か予定とか計画は無いのか?」
「……南西側の水捌けの悪い場所に用水路を引くとかって言ってましたかねぇ」
「んー、手伝おうか?」
「いえ、ウチの連中の仕事を取るのもなんですし、何より帰りたかったのでは?」
「いや、南西なら南端倉庫から通えるかなって思ってな」
「なるほど? いや、でも過剰戦力過ぎですって」
エルフ、12人とか過剰だわ。土砂の撤去も収納魔法でできるし、作業が雑で良いなら 2日くらいで終わりかねない。
「いや…… 暇つぶしって考えると良いのかな?」
「何かあるのか? 酒飲んでるより有意義なら何でも良いぞ、暇すぎる」
「地図作りから順にやりませんか?」
「「「ん?」」」
こうして後の子爵領運河 2号線、南西水道は測量の基礎技術の研究から始まった。
「まさか道具から作り始めるとは予想もしてなかったわぁ」
「こちらも、まさか魔法で水平を測れるなんて思ってもみませんでした……」
どーなってんだっっ 便利過ぎだろ、何でこれで文字が無いんだよっ
俺はエルフをまだ過小評価していたようだ。
◆
子爵領南西の測量が終わり、用水路の計画は舟も通す運河に修正されていた。高低差で色分けされた縮小模型が作られ、水源の特定と地下の岩盤の整形案まで出てきたんだ。
俺はまだエルフと魔法を舐めてたらしい。魔法で非破壊の地質調査をするんだぜ、あいつら。凄過ぎるだろ。出来上がった模型は上下に分かれ、持ち上げると地上部が外れて地下の伏流水の位置まで見えるように成っているんだもの……
「取り敢えず、水捌けが悪い原因は判ったので深めの溝を掘って水路に入れてしまいましょう。先に堰をみんなで作って、その後は水路と舟で担当を分けましょうか」
「半々で良いか?」「良いんじゃね?」
「水路の仕上げは子爵領の者で行いますので、堰を丈夫にして貰えればあとの造りは簡易的で良いですよ」
「じゃあ、適当で行こう。初めは人数は半々で終わりが見えたら移るか」
「お~、それで~」
「では、それで」
順当に進む工事、俺は水路側を担当していた。舟の方は完成品を渡して複製して貰う事にした。そして土木工事の方だが、エルフの技術が所々凄いんだ。土の上から数m下の岩盤の加工を行うんだぜ? 赤外線とか音波じゃないよな? もしかしてニュートリノとか? 一体なにを対象に観測してるんだよっ!
※ ニュートリノ…… 何でも貫通するほど小さい素粒子
周辺の地下にある岩の窪みに溝を付け、そこより深い水路へ水を引く。川と呼べるほど水量の無い水路に徐々に水の流入が増えだした。
「雨でも降らないといっぱいにはならないかなぁ」
「水が必要ならもっと山側まで調査しないといけないだろうな」
「そうなりますね。舟は急ぎじゃないので一先ずこれで完成ですかね」
「あぁ 暇は潰せたが、大した日数じゃないな。そろそろ養護院も飽きててくれないかねぇ」
「どうでしょうか……」
そこそこの日数を掛けて水路を造成していたのだが、舟はまだ完成していなかった。と言うか、元の形と全然違う物が出来上がっていた。いや、もうね。大きさも全然違う何かができていたんだ。
「何ですかコレ?」
「いや、中々奥が深いなこれは」
堰の手前を 10mくらい深く掘ってあり、そこに高さ 7mを超えるマンボウみたいな縦長の形の舟が浮かんでいた。道理でいつまで経っても水が貯まらない訳だよ……
「折角だから 2階建てにしようと思ってな」
「で、折角だから下の席では川の中を見えるようにしようとしたんだが……」
「何やってるんですか……」
喫水線の調整をしているうちに余計な事を考えたっぽい。ここの水路は長くないし、2階建てにしてもそんなに利用者が居ないんだが…… 第一、掘ったばかりだから魚も居ないし、水路の壁しか見えないだろうに。今も濁った水が溜まってるだけだしさ。
「まぁ実験だ。浮かぶ構造を考えるのは結構面白いな」
「どうせしばらく舟が必要になる事は無いでしょうから良いですけどね」
元々暇つぶしとしてお願いしてたんだし良いさ。
「……ところでこれ、進む方法はどうするんですか?」
「「え?」」
コレ、上が曲面で川舟を押すために船頭が立てる場所が無いんだ。
しかも今の状況じゃ川底が深すぎるから舟を押す竿が届かなそうだった。
◆
それから数日、二階建てのバスを丸くしたような舟が出来上がった。元の舟とは長さも幅も異なり、一艘で水路をぎりぎりで、側面には壁にぶつからない様ガイド用のタイヤが四隅、上下に 8箇所取り付けられている。
全てガラス張りの舟は内部は中央が吹き抜けで、客席は全て窓側を向いおり一階中央はカウンターと言う、ほぼ移動するコーヒーショップな装いである。
そしてガラス尽くめで強度が不安だったのもあるが、船頭が押せる大きさじゃないのでこの舟そのものを魔道具化する事になった。船体の強度強化機能と水を吸い込み酸素を吐き出す推進装置を取り付けたのだ。魚も居ないし良いだろうとさ。
もちろん魔石の数も結構必要なので元の舟に戻す可能性もある。現状は南端倉庫に居るエルフがマナを補充してくれるので問題は無いが利用客が居ないもの。
ただ魔道具化したこの舟は結構速く、余り速く移動させると水路との隙間が少ないせいで水が水路から溢れてしまう問題が発生した。しかも水路に流入する水が余り多くないのも問題だった。移動時に水を押しのけて水位が下がってしまうと川底に船体が当たってしまうからな。しょうがなしに山の少し奥に入り水源を追加すると言う、当初の水捌け対策とは真逆の水量増加まで行なう迷走振りよ。現状使う予定の無い路線に明らかに過剰な装備と座席数だった。
しかしそれから更に数日後、この水路の建設が別の利益をもたらした。養護院に居た女性たちの耳に入り乗りに来たのだが、子供たちとの遠足で遂に満足してくれたのだ。
「やっと帰れるぜぇ」
「やっとですねぇ」
こっちも工作した甲斐があったってもんだぜぇ
偶然なんて事はない。遠足は中央や南西の舟の大きさもあり、一度で行ける子供に制限があるんだ。だから途中で終われない丸一日の催しを作り、子供の目を引きそうな物を各種配置し、何度も何度も移動し舟に乗って貰い燃え尽きて貰ったのだ。
「森の奥がバレなく良かったです……」
「止めろって、こっちの 2人にも教えてないんだから」
「こちらで簡単な調査だけしておきますね」
「そうだな。南端倉庫で良さそうな建物を作っておくよ」
「安全だと良いのですけどね~」
「そうだな」
水源の追加をする為に奥地に入ったところ、山と山の谷間の先に湖を見つけてしまったのだ。言ったら滞在が伸びるかもしれないと怯え、観光組には男性 2人含めて内緒にする事にしたんだ。
両親には伝えたが、ヴァレニーに情報が漏れるとまた何か起きそうで怖いわぁ
養護院の横に取り付けた宿舎は若い子たちが帰った後撤去されました。
夏休みの『工作』でした。




