83話 川の上のレストラン
【 12歳 初夏 】
ヴァレニーが子爵領に滞在した事で別の効果が表れた。ヴァレニーが毎晩念話で友達にわんさか自慢話をしていたらしいのだ……
あ~、うん。分かる。やってそうだよな。エルフの現代っ子だもの。
それで観光目的で子爵領に来たいって要望が出て、長老衆経由でロァヴェルナさんに連絡が来、急遽南端倉庫に居たカルニナフさんたち男性陣が宿泊地の選定と建物の改築に駆り出された。
「あの子たちはもう…… もう少し相談してから動いてくれないかしら」
「何人来る気なんですか?」
「取り敢えずは 20人ね」
「結構…… 相当多いですね」
多すぎない? 何かあったら止めれないぞ? もちろん一方的に負けるって意味な。
「観光目的の若い子は 10人で、後は監督役 5人に視察目的が 5人だから安心して」
視察?!
「それはそれで凄くないですか?」
「私からの報告だけで、上の役目の人は誰も確認してなかったから一緒に来る事にしたのよ。フィルトルァには伝えてあるわ。挨拶に来るってね」
「ふ~ん」
「 3村のヴェイザルトも来るそうよ」
「お~ 土魔法士たちでご挨拶しないと」
お布団の製造許可でお世話になってるからなぁ
「それで問題が起きなければ定期的に 10人ずつくらいで来るかもね」
「そうなんです? 特に見るものも無いですよ?」
「見慣れた光景じゃないだけでも良いのよ。気晴らしになるわ」
「ふ~ん」
観光地化は無理だし、料理は負けるだろうし、建築技術も拙いからなぁ
「舟が話題に上ってたから何かあったら答えてあげて欲しいわ。あなたが作ったってフィルトルァが言ってたわよ?」
「最初だけですよ? その後、伸ばしたのも広げたのも父様たちですし」
「でも、舟はあなたが作ったのでしょ?」
「そっちはそうですね。師匠に話したらもっと良いの作っちゃいそうですけど」
「まだ計画もされて無いから、話しをするだけで良いわ」
「解りました。何かあれば、その時は」
舟ね~
んー、乗り物か~
◆
翌々日、カルニナフさん達が領主邸に到着し、昼食を兼ねて懇親会が行われた。
建築作業の為か男性だけで来たようだ。
食事後、エルフの数人が父や領兵と共に周辺の危険度調査に向かい、残りはエルフが宿泊できる宿泊施設の打ち合わせである。流石にこれ以上の領主邸の増設は難しい。仲が良くても部外者だしな。
そして打ち合わせの結果、領地の中央の養護院周辺と決まった。宿泊用の建物は決まって居ないが、養護院の敷地を半分渡す代わりに今ある施設を上下に増築して貰う案が出ている。取り敢えず、建物と土地の地盤などの確認が必要なので移動する事にした。こちらの案内役は俺と領兵の土魔法士である。
「どんな感じですか?」
カルニナフさんに聞く。
「地盤は問題無いし、土の層も薄いし作業自体はし易いかなぁ ただ、小さい子を追い出す様で心が痛むね……」
「たぶん上に伸ばしてくれるなら気にしないと思いますよ。高いところとか好きですし」
「ん~ ヴァレニーたちだけなら地下でも良いんだけどな~」
扱いが酷い…… 囚人かよ。
「とは言え、平地はほぼ畑ですからね~ ……いっそ川の上にでも作りますか?」
「川ぁ? 行けるか?! ……いや、ちょっと待ってろ。お~い」
何やらエルフたちで話し合いが始まる。冗談だったのだが……
彼らの話し合いに混ざって聞いていると、川を跨いで 2階より上を宿泊施設にする計画のようだ。
「これなら、いくらでも無茶ができるし、増改築も、し放題だな」
「お手柔らかにお願いします、何なら川の下も使って良いですよ」
「「「下…… 」」行けるのか? ……行けるか。面白いかもな!」
じょ、冗談だったのだが?! 何故、冗談だと認識されない!!
それからも話し合いは続き、結局は養護院に近い堰 兼 船着き場の大幅な改修工事が行われる事になった。
何と、堰自体を宿泊施設に全改修するのだ。
舟を泊める上段の船着き場の池の真下から、水が溢れ伝わる堰の下層をぶち抜いて建物を作るんだ…… 結構な部分が厚いガラスで構成され、出来上がれば客室の天井越しに船底が浮かび、堰に面した受付の窓ガラスには常に川の水が流れ落ちる、そんな秘密基地めいた宿泊施設が計画された。
そう、全員が暴走し出る案は大体採用、止められる前に大工事を着工したんだ。
何で打ち合わせに止め役を入れ忘れるかな~
「よーし! 今日中に船着き場の下を改修、空間の確保をするぞ! 明日の朝、水漏れの有無の確認ができ次第担当を分けよう」
「「「おう!」」」「へ~い」
もちろん俺も駆り出されたぜ……
「順調かしら?」
「順調かなぁ「順調ですとも」」
カルニナフさんが答える。
「多分驚くと思いますよ」
「……なんか分かった気がするわ」
数日後、子爵領の新たな名所、宿泊施設『川の下』と食事処『池の上』が出来上がり、更には後日、天井越しにエビの遊泳が見える休息所『水の底』が作られ地下通路で繋がった。
【 夏 】
短期間の帰省のつもりが長々と伸びてしまっている。ルティ姉は領主邸で普段通りだし、ヴァレニーは楽しそうだから良いけど、急遽建物工事に駆り出されたカルニナフさんたちは不憫過ぎである。
とはいえ、彼らは養護院の外壁に建物を増築し仮宿舎にしているそうで、朝は養護院の子たちに混じって食事をするのが楽しいらしい。全員、本職は料理人だからな。養護院の子に料理を教えながら人間との味覚の差や、子供と大人の味覚の差なんかを確認しているようだった。
そして遂にエルフ領からの旅行客がやって来た。
20人は流石に多いな。旅行目的の若いエルフたちはほとんど面識のない人ばかりだった。知ってるのは 7村のグエルバーツさんとその彼女? のリュテーさんくらい。他は見た事も無い。ヴァレニーの知り合いばかりのようで出迎えたヴァレニーと楽しそうに燥いでいた。そして視察目的の人は大体知ってる人で物作り系の職人さんばかりのようだ。
ひとまず挨拶が終わると観光と視察で分かれる事にした。観光側はヴァレニーとルティ姉、それと兄と妹たちで案内するらしい。そして視察側は両親と俺で対応する予定である。
「舟は実際に乗ってみたが悪くは無いな。まぁ森の中は走った方が速いとは思うが、収納魔法が使えない人間なら相当便利だってのも解る。森に導入するかはまだ検討段階だな」
ヴェイザルトさんの意見だ。
「まぁそうなるでしょうね。人通りが多い所で使うものですからねぇ」
その後さらに分かれ、取り扱ってる品物や流通の話し合いで今回来た 1人とロァヴェルナさんが両親と話し合いを行なう事になり、俺が残りの 4人を寝具や衣類、魔道具の工房を案内する事になった。
「思ってたより人数も生産量も少ないんだな」
「魔法を使える人を鍛えないといけないですからねぇ」
「そういや、えらく若いのばかりだなぁ」
「エルフと交流するようになってから出来た部署ですし、エルフより魔法使える人の割り合いが少ないんですよ」
「そうなのか…… 思ってたのと随分違うな。ルァニエスの事だから、もっと大掛かりにやってると思ってたんだがなぁ」
「無理ですって。エルフの方々みたいに全ての魔法が使えるわけじゃ無いですし、寿命も違いますので熟練の魔法士とか居ないですから」
何より魔力量の差が大きい!
だって魔法の練習できる量は違うし、工場建てて自動化の魔道具増やしたとしても充填する魔力量が足りないのだ。自動って行動は贅沢品なんだぜ?
「そっちがあるのか…… うーん。もう少し生産量を増やして貰おうと思ったんだが……」
「 10年は必要ですかね……」
「だが、人は増やしていくんだろ?」
「まず魔法の操作に慣れて貰わないと作業の速さも正確さも出ないですよ。来年入ってくる人も 16歳ですよ?」
「若過ぎるなぁ しょうがねーかぁ 何なら教えようかとも思ったが、その前の問題だな」
「ですねぇ ある程度できるようになったら里に習いに行かせようとは思ってるんですけどね。そうしたらヴェイザルトさんたちの仕事も多少は減りますし、こちらも習った人が戻れば生産量上がりますから。ただそれをするのにも人数と 3年程度の魔法の修行期間が必要なんですよね~」
「かぁ~~ ままならないなぁ」
「となると、他の生産物も同じか?」
別のエルフが訊ねてくる。
「食品以外はそうですね。食品だけはそれなりに経験している人数が多いですから」
「魔法操作ができない奴が居るなんて考えた事も無かったわ……」
「生命属性以外を使わないから練習もしないんですよ、こちらって」
「お前って普通じゃなかったんだな…… 別の理由で安心したわ」
「「 …… 」」
ヴェイザルトさんたちは目的は達したものの思惑とは異なり、がっかりした様子で視察を終える事となった。
そして観光組はと言うとどうも養護院が気に入ったらしく、カルニナフさんたちを川のホテル側へ追い出し彼らの作った簡易宿舎で寝泊まりしたらしい……
料理のできない彼女たちは養護院の子らと一緒になってうどんを打ったそうだ。
後日ヴァレニーから大きな石臼を笑顔で回すエルフたちの画像を見せて貰った。
改修した堰は魚とエビの生け簀を挟んで養護院の南の位置になります。夜間は魚の生け簀に舟を泊めているため『川の下』の客室からは舟は見えないです。
レストラン『池の上』の中央の床はガラスで下を舟が通ります。
夜、ラウンジ『水の底』でカルニナフさんたちが愚痴って居ると、天井から覗き込む裸のエルフたちが居たとかなんとか……




